第61話 受け継がれし勇者の力
魔王との決戦の前日。僕はミチアやククタと再会できたことで、これ以上もない英気を養うことができた。必ずや魔王を倒し、皆が平和に暮らせる未来を創る――。それが彼女らや世界の人々に対して出来る、たった一つの恩返しとなるだろう。
そして夜が明け、ついに二十六日の朝。
僕の〝アインス〟としての最後の日になるであろう、十七日目が訪れた。
当初は
この決戦を無事に終えたあとにも、僕には成すべきことが残されている。すべてを終わらせるまでは、なんとしても生きなければならないのだ。
*
アルティリア連合軍の総司令官である、アルトリウス王子の演説のあと、僕らは〝
「なるべく上空の敵を狙え! 決して勇者アインスよりも前方には出るな!」
瘴気の森へと到着するなり、アルトリウス王子は各部隊に指示を出し、素早く布陣を展開させる。大量の瘴気と魔物が巣食う、この
「王子。あの森の中に、
「ええ、間違いなく」
「まぁー、あん中に入って、無事でいられる奴なんざいねぇわな!」
瘴気の森からは続々と、
「それでは作戦通り、僕が前へ出ます」
僕は仲間たちに宣言するや前進し、
《さあ平和の時間だ、はじめよう! 邪悪なる森に、勇者の奥義をブッ放せ!》
バルドリオンの声に従い、僕は闘志を
「
僕は荒ぶるバルドリオンを構え、〝木こり〟が斧を振る要領で、〝瘴気の森〟全体を
周囲からは魔物の
「うっ、はっはっは! こいつぁスゲぇ! 森が一瞬で消えちまいやがった!」
「ああ。……ふっ、想像以上だな。
ドレッドたちは冷たい汗を流しながら、
このような超常的な力があれば、テラスアンティクタスも――僕らの現実世界も植物などに屈せず、空と地上を失わなかっただろうか。
――いや、おそらくは不可能だっただろう。あの〝現実〟を選び取ったのは、他ならぬ人類自身。植物を
「すみません、エピファネスさん。シエル大森林を焼いてしまって……」
僕は一歩引き下がっているエピファネスの前へ行き、彼の前で深々と頭を下げる。この森はエルフたちにとって、いつか帰るべき神聖な場所でもあったのだ。
「構わぬ。すでに森は瘴気に
エピファネスは僕の肩を軽く押し、黒い瞳を細めてみせる。
「必ずや我らは森を再生する。まずは魔王を討ち滅ぼし、聖地を奪還しようぞ」
「ええ、アルティリアも協力します。――よし、全軍進め! 速やかに進軍し、首都の内部へ突入する! 確認と報告を
アルトリウス王子の号令で、僕らは気合いを入れなおす。そして残存する飛行部隊を撃破しながら、一直線にガルマニアの首都へと駆け抜けた。
*
首都を囲う外壁へと
「報告!
「
「ドラムダおよびネーデルタール残党軍も北上し、交戦開始との通達あり!」
外壁を飛び越えて現れる魔物を弓で狙いながら、アルトリウス王子が兵からの伝令に耳を傾ける。かつて〝
「外門、撃破完了! 内部に敵影を多数確認!」
「支援部隊は待機せよ! 突撃部隊を先頭に、事前の作戦に従って突入する!」
ついに決戦の地への門が開いた。これまでの世界で幾度となく登場した〝ガルマニア〟の街を訪れる最初の機会が、このような形となるのは不本意なところではあるが。僕は仲間たちの先陣を切り、崩れた外壁の中へと突入する。
*
首都ガルマニアは、すでに魔物の
先んじて街に踏み入った僕は再びバルドリオンを構え、勇者の技を解き放つ。剣から
「……視界内の群れは片づきました。今なら大丈夫です!」
「わかりました。――よし、勇者に続け! 前衛部隊は街の内部を掃討しつつ進軍し、南北へと展開! 各軍との連携を計れ!」
「へっへっ。んじゃあ俺らは、懐かしい
ドレッドは斧で魔物の群れを薙ぎ倒しながら、前方に
「ふっ、一発くらいならば殴ってやっても構わんが――。くれぐれも最後の一撃は、アインスに任せろよ?」
風の魔法と二刀の
「
エピファネスは炎の魔法を〝蛇〟のように操り、次々と魔物の
「がっはっは! わぁーってるって! よし、ご対面といこうぜ。――王子、軍の指揮を頼む! エピファネスも、帰ったら一杯やろうや!」
「
「三人とも、どうか無事で! 戦況が好転次第、私たちも向かいます!」
全軍を指揮するため、アルトリウス王子は〝魔王城〟の外へと残る。すでに魔物の数は目に見えて減少し、エピファネスもついているので身の危険は無いだろう。
僕とドレッド、カイゼルの三人は、魔王リーランドが待つ城内へと突入すべく、
「おう、歓迎してくれてるようだなぁ? そんじゃ、
ドレッドは愛用の斧を肩に担ぎ、
*
魔物たちを統べる王、いわゆる〝ラスボス〟である魔王の住まう城であるはずなのだが、意外にも魔物の姿はなく、城内の様子も
「へっ、腐ってもリーランドってことか?」
「だろうな。奴はガルマニアという国を、深く愛していたからな」
黒と紫を基調とした
城内の探索は後続の部隊に任せ、僕らはドレッドの案内に従って、真っ直ぐに〝王の間〟を目指す。彼いわく、そこは騎士団の小隊が整列できるほどの広大さがあり、最終決戦の場としても申し分ないとのこと。
「あいつのことだ、間違いなく
僕の前方で、ドレッドの
*
その後は黙して入り組んだ城内を進み、ついに僕らは目指す場所である〝王の間〟へと辿り着いた。目の前には三メートルはあろうかという大扉があり、その内側からは、強烈なほどに強い
「着いたぜ。やっぱ、ここで間違いねぇみてぇだ。二人とも準備は良いか?」
「ああ、問題ない」
「はい。行きましょう」
ここまでの長い期間、僕らは準備に準備を重ね、綿密に作戦を練り上げている。もはや語ることもなく、ドレッドからの問いに、僕とカイゼルは短い返答をする。
僕はドレッドに
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