第60話 最後の晩餐
魔王を〝
そして最終決戦を翌日に
「
アルトリウス王子は広げた地図を指さしながら、僕らの顔を順に
休息とは言うものの、やはり決戦の直前ということもあり、五人の話題も明日の作戦に関するものに終始してしまう。
「お互いに、本陣を隣り合わせている状態ですか。この攻略作戦が始まれば、すぐに決着はつきそうですね」
「ああ。ここまで時間が掛かったが。ようやく皆の苦労も報われるだろう」
本隊である僕らが突撃すると同時に、
「実質的な全面衝突は、闇に沈みしシエル大森林――。すなわち〝瘴気の森〟となるであろう。だが、悪しき意志を宿せし
「それについてなんですが……。僕に名案があります。もちろん、成功の保証は無く、かなりの〝賭け〟にはなってしまうのですが」
僕は腰に下げたバルドリオンの
「がっはっは! そりゃあスゲぇ作戦だ!
「まっ、こうして
カイゼルは言いながら、僕が渡した〝薄汚れた薄い本〟をテーブルの上へ静かに置く。エピファネスには多少の
「そういえば、この本なんですが。よければ貰ってくれませんか? とんでもない内容ですが、この世界にとって歴史的な価値はあるようですし」
僕はポーチの中から〝資料〟と書かれた冊子の束を出し、テーブルの上へ積み上げる。この戦いが終了すれば、もうアインスには戻れない。そして
「よろしいのですか? ぜひ、王立図書館にて保管させていただきます」
「おっ、それじゃウチにも何冊か貰っていいか? 意外と好きな奴が多くてな!」
「もちろんです。なんでしたら写本を作り、両国で共有しましょうか」
アルトリウス王子とドレッドが話し合い、それぞれ冊子を半分ずつポーチに
*
その後も明日の作戦に関する話題は続き、
すると、その瞬間――。
執務室の扉が激しくノックされ、
「しっ、失礼しますっ! 申し訳ございません! あっ、あのっ……!」
「大丈夫か? 戦況に大きな動きがあったのか?」
「いえっ! じつは……。聖女さまが
兵士の言葉に、僕らは顔を見合わせる。少なくとも僕は、そういった存在に心当たりはないのだが――。
そう考えた直後、背後から僕の耳に、聞き覚えのある少年の声が響いてきた。
「おっ、いたいた! オッス、アインス兄ちゃん! おれらも応援にきたぜ!」
僕が声に振り返ると、そこにはアルティリアの孤児院に居るはずのククタがおり、
「ミチア!」
思わず彼女の名前を大声で叫ぶ。するとミチアは少し驚いた様子をみせたあと、僕の
「アインスお兄ちゃん……。無事でよかった」
「ああ、うん……。ミチアがくれた
僕は
「ああっ、聖女さまっ! 急に走られると危険です!」
二人の後からは
どうやら〝神の奇跡〟が起こった直後、話を聞きつけた高位の聖職者らにより、ミチアは〝奇跡の聖女〟として祭り上げられてしまったようだ。それからは幼い身ながらも各地を
そう言い替えれば美しく聞こえるが、
*
「それでは聖女さま。そろそろ次の巡礼に――」
「ちょっと待てよ! 約束したはずだろ? ほら、ミチア。早く兄ちゃんに」
予定が詰まっているのか、次の行動を
「アインスお兄ちゃん。これ、
「え? なんだろう」
僕はバスケットを開き、中から
「これは……。勇者サンド、ミチアが作ったのかい?」
「うん……。どう? 美味しい?」
「あっ、すぐに食べてみるからね」
僕は「いただきます」と
「美味しい。ありがとうミチア。……ははっ、これは負ける気がしないな」
勇者サンドを
ふと気づくとククタがスケッチブックを持っており、僕らと紙面を
「あれ? ククタ、絵を描く趣味があったんだ?」
「へへっ、ミチアが戻ってきてからな! いつかミチアと絵本を描いて、孤児院の
ククタは素早く筆を
絵は黒一色で描かれており、お世辞にも上手いとはいえないが――。あとでミチアと一緒に、丁寧に描きなおすのかもしれない。
「よしっ! 完成、っと! ミチアも願いが
「うん。それじゃ、アインスお兄ちゃん……」
ミチアはそこまでを言い、こっそりと僕に口付けをする。
「……いってらっしゃい」
「あっ、ああ……。うん、いってきます。ミチアも気をつけてね」
聖職者の一人が僕からミチアを
*
願ってもない訪問者らが去ったあと、執務室には五人の男たちが残される。しかし全員が固まったまま、誰も動こうとしない。
「……ははっ、
「ええ……。あの
アルトリウス王子は言いながら、悲しげに
とはいえドレッドの言うとおり、彼女らに力を分けてもらったのは事実。子供を使ったプロパガンダに思うところはあるが、僕らが成すべきことは変わらない。
「さぁて……。そんじゃ、そろそろ飯に行くか!」
「あっ。すみません、僕だけ先に食べてしまって」
「構わんさ。出撃前の食事は、いつも〝ピザ〟だと決まっている」
カイゼルの言葉に、一同は
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