第59話 聖なる剣を携えて
魔王を倒す切り札となる〝光の聖剣バルドリオン〟を求め、ようやく
《さあ、俺を引き抜くんだ! さっそく魔王を倒しにいくぞ!》
僕の頭の中に響く、若い青年の声。口ぶりから察するに、目の前の〝剣〟から発せられているのだろうけど――。
《
深く考えていても仕方がないか。僕は目の前の
そして光が治まった時――。僕の手には、やや大振りの
しかし
《大丈夫だ! 俺の力と最強の勇者の奥義があれば、今のままでも無双できる! これから少しずつ君の頭に、勇者の技をインストールしてやろう!》
あの〝薄汚れた薄い本〟に登場する〝勇者〟は、とんでもない力で魔物を街や人々ごと焼き払っていた。最後の決戦を終えた後にはすべてが元通りに復活したようだけど、いくらなんでもあれほどまでの力は――。
ん? 待てよ?
最後に〝すべてが元通りに復活〟した?
この口ぶりからは想像もできないが、このバルドリオンが〝勇者の半身〟であるのなら、残りの〝半身〟は現在のミストリアということになる。
《どうやら気づいたようだな! しかし勇者の最終奥義、
やはり世界の消滅を
――いや、たとえ不可能であってもやるしかない。僕は
僕はバルドリオンを強く握り、何度目かの決意を新たにする。この世界の存続を願う人々がいる。絶対に
《うむ! それでこそ真の勇者! 君の決意が伝わってくるぞ! さあ、あまり時間が無いんだろう? 決戦の地に
もちろん僕もそうしたいのだが、
《簡単だ! 行きたい場所を思い浮かべながら、俺を思い切り振り下ろせ!》
僕の思考を読み取って、バルドリオンが解決法を伝えてくる。
今は彼に頼るしかない。行きたい場所という文言に、僕の心は
その瞬間、何も無い空間に白い太刀筋が刻まれ、渦巻いた楕円状の〝
*
真っ白な空間を通り抜け、僕は硬い石床に足を下ろす。室内に充満した汗と酒と
その場に居たドレッドとカイゼルにアルトリウス王子、そしてエピファネスの驚いた視線が、
「がっはっは! こいつぁ
右手に木製のジョッキを握ったドレッドが、開口一番に大きな笑い声を上げる。よほどの激戦が続いているのか、彼の左肩には包帯が乱雑に巻かれている。
「あはは……、さすがに驚きました。おかえりなさい、アインスさん。――と、いうことは、つまり?」
「はい。手に入れました。これが〝光の聖剣バルドリオン〟です」
僕はテーブルの付近まで進み、バルドリオンを胸の位置で
「ほぉ、こりゃあ確かに
「ありがとうございます。でも
そう言った僕の言葉に呼応するかのように、バルドリオンの剣身が
「ふっ、頼もしいな。まっ、さきほどの〝奇跡〟を見れば、信じざるを得んよ」
「
カイゼルは手元の本に視線を落としたまま、ニヤリと口元を上げる。彼に同意するように、細い
*
こうして切り札が揃い、決戦への準備が整った。夜分にもかかわらず、総司令官であるアルトリウス王子は各部隊の指揮官らを招集し、緊急の作戦会議が開かれた。
会議には魔法王国リーゼルタ、およびガルマニア北方の魔導国家ディクサイス、そしてドレッドの祖国であるドラムダの使者らも参加し、綿密な協議が交わされた。
「それでは作戦決行日は
リーゼルタの使者として〝砦〟を訪れていたリセリアが、几帳面な様子で
「はい。各国の司令官殿へは、そのようにお伝えください」
「承知シマシタ。ディクサイスは首都の防衛機能を全解除シ、
黒ずくめの
「こちらも女王陛下からの返答が届きました。リーゼルタは南方・ドラムダの上空を通過し、ネーデルタール東の海上へ移動いたします」
リセリアは短く
「おし! 俺らの
「シシッ! かしこまりましたのぜ」
ドレッドが自国・ドラムダの使者へ、
「マナリザートは連合軍本隊と共に進軍し、
「はい。みんな、よろしくお願いします」
「ふっ。任せておけ」
エピファネスの言葉を皮切りに、この場の視線が僕の方へと向けられる。彼らの瞳に恐れや不安といったものはなく、全員が希望に満ち満ちている。
この期待に応えるためにも、必ず魔王を打ち倒し、悪しき力を
*
その晩、僕は〝最後の砦〟で夜を明かし、決戦に備えて最後の休息をとることになった。ドレッドたちも砦に
そして次の日――。
魔王との決戦を翌日に
いつものように王子の執務室で過ごす僕らの元へ、願ってもない来客が訪れた。
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