第57話 最後の舞台へ上がる者
エンブロシアの評議会本部。僕はレクシィによる
「さて、ルゥランさんは
僕は失くした剣の代わりに、ソアラから受け取った〝
廊下には幾つもの扉が並び、原色で染め上げられたタペストリーが掛けられている。これらが部屋の用途を示しているか、あるいはなんらかの標識であることは間違いないのだが。さすがの自動翻訳機能も、〝言語〟以外には対応できないらしい。
「確か、右手方向に両開きの扉があって……。マズイな、僕は迷子になったのか?」
あの医務室で待機していれば、いずれレクシィが戻ってきてくれただろう。しかし今さら引き返そうにも、どの部屋が
「困ったな。こうなったら手当たりしだいに開けてみるしかないや」
僕は右手側にある両開きの扉を見つけ、片側の取っ手を
*
扉の中には白い
僕は部屋の中へと入り、視力に神経を集中させる。どうやら空間内には木製の
さらに奥側には広々としたスペースがあり、そちらからは小さな水音がピチャリピチャリと近づいてくる。
まさか、この場所は。そう思ったのも
「あら? アインスさん?」
白い
まさに〝
「すっ、すみませんっ! ルゥランさんを探して
何度も頭を下げながら、僕は急いで後ろを向く。やはり
「ふふっ。別に構わないのよ。アインスさんからは
「え? はい、この世界の〝彼女〟は別の相手と幸せになったようですけど――。たくさんの平行世界の
さきほど
僕がレクシィに視線を戻すと、彼女は満足そうに大きく
「これからルゥラン様の元へ案内しますね。その前に、アインスさんも入る?」
「大丈夫です。それに僕は、早く〝聖剣〟を手に入れなければいけませんから」
すでに三日も
「えっと……。さすがに、そんなに
「――あっ!?」
僕は再び謝罪の言葉を
*
やがて着替えを終えたレクシィが、僕の前に姿を見せた。彼女は薄布の白い
「お待たせ。それでは行きましょうか」
僕はレクシィの隣に並び、曲がった廊下を
「そういえばルゥランさん。あれだけ強いのなら、魔王を倒せるのでは?」
「ええ。おそらくは簡単に。それこそ一瞬で終わらせることが出来るでしょう」
僕の当たり前の質問に、レクシィは表情を変えることなく即答する。しかし、そこまで言ったあと、彼女は急に顔色を
「でも――。その後、魔王になったルゥラン様を止められる者は誰もいない。彼はすべての平行世界において、
考えてみれば当然か。魔王を倒した者が、次の魔王になってしまう。もしも最強の存在が最強の魔王になれば、この世界は瞬く間に滅ぼされてしまうだろう。
しかし〝光の聖剣バルドリオン〟があれば、魔王を〝
「ルゥラン様には聖剣を扱うことが出来ない。おそらくは
レクシィは少し恨めしげに言い、わずかに視線を下方へ落とす。
マナリスターク――つまりは〝ダークエルフ〟が魔王を生み出す〝
それでも〝
さすがに
*
円環の廊下を無言で進む。大樹の床は
この評議会本部には窓もなく、天井の照明設備から、魔法の灯りが降り注いでいるのみだ。しかし呼吸をするかのように室内の空気は流れており、床から立ちのぼる獣の
「さあ、着きましたよ。準備はいいかしら?」
不意にレクシィが足を止め、僕の方を振り返る。無意識のうちに鼻と
「はい。……あの、また闘いになるんでしょうか?」
「いえ、それは無いと思います。此処は〝そんな場所〟ではありませんから」
レクシィは
「ルゥラン様。
最初に僕を案内した時と似た文言。違いがあるとすれば、木製の扉が左手方向にあるということか。どうやら僕は、先日の大議場とは違う場所へ案内されたらしい。
「入りなさい。すでに準備は整っています」
重厚な扉の奥から聞こえる、ルゥランの透き通った声。『準備』という物言いに若干の不安はあるものの、僕は両開きの取っ手を握り、それを静かに押し開けた。
*
扉の先は屋外だったのか、空には大きな
「ふむ。どうやら加減は申し分ないようですね」
円形に切り取られた〝庭〟の前方、大きな桜の根元に立っていたルゥランが、僕の方へと視線を向ける。彼の右手には
「はい、おかげさまで。その代わり、変な〝夢〟を
「ほう? それは興味深いですね。是非ともお聞かせ願いたい」
ルゥランは左手を顎に当てながら、わずかに口元を
「アナタも聞かせて
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