第51話 魔法王国リーゼルタ
天空を駆ける魔法の王国。リーゼルタを包む球状の結界を抜け、僕ら五人は浮遊する大地へ降り立った。地盤はしっかりと安定しており、
空中には大小様々の岩盤が浮いており、それらの上面にも家屋や店舗といった
何名かの住民は物珍しそうにこちらへ視線を向けるものの、すぐに何事もなかったかのように、自らの日常へと戻ってゆく。もしかするとリーゼルタ国内においては、さほど魔王の
「なんだか平和ですね」
「ああ。リーゼルタは特性上、外圧を受けづらい国家となっているからな」
仲間と軽い雑談を交わしながら、しばらく待機していると――。
やがて上空から
「お待ちしておりました。
リセリアと名乗った若い女性は
「――マナリスレインでございます。ハーフエルフ族と申しあげた方が、ご理解いただけるでしょうか?」
「えっ? もしかして心が読めるんですか?」
「まさか。お顔に書いてありましたので。
リセリアは無表情のまま言い放ち、
*
浮かぶ大地には畑や牧場らしきものもあり、農夫姿の男性らが
「すごい、あれは〝ネデルタ小麦〟の畑。じゃあ、向こうのはもしかして……」
「ゼータグレープの
リーゼルタ産の作物は非常に貴重かつ高価であり、僕もアルティリアの市場にて、たった数回見かけたのみだ。特にゼータグレープには種が無く、農夫たちの間でも、栽培方法は謎めいたものとなっていた。
確かに、観光で訪れたわけではないのだが。
僕の視線は次々と、物珍しい風景へと引き寄せられてしまう。
「あの大きな建造物は? あれがリーゼルタの王城ですか?」
「あちらの建物は、リーゼルタ王立魔法学校でございます。主な学生は女生徒のみとなっており、観光目的での立ち入りは禁じられております」
リセリアは進行方向を
*
高速で空中を飛び続け、僕らは真っ白な石材によって建てられた、古めかしい城の前へと到着した。目の前には巨大な木製扉があり、そこには魔法陣と呼ばれる様式の、幾何学的な紋様が描かれている。
僕が扉を見上げていると――不意に魔法陣が回転を始め、
「はぁーい、お疲れさまぁ。みんな、遠い
彼女は大きな
寝起きだったのだろうか。女性は寝巻きのような
するとリセリアが姿勢を正し、女性に
「じゃ、とりあえず中に入ってん? リセリア、いつものお茶と糖分をお願いねん」
「かしこまりました。ゼルディアさま」
どうやら目の前の人物こそが、リーゼルタの女王・ゼルディア本人だったようだ。
僕は一瞬、カイゼルたちと目を合わせた後、女王らに続いて暗闇の支配する城内へと足を踏み入れてゆく――。
「城内は異空間となっております。遅れることのないよう、ご注意くださいませ」
リセリアの言う通り、城に入った僕の視界に、
特筆すべきことと言えば、絵画に描かれた樹々は風に吹かれるかの
いったい、どういった仕組みなのだろう――。僕は
*
案内された部屋は〝いかにも会議室〟といった
僕らはテーブルの両サイドに分かれて座り、上座に女王ゼルディアが腰かけた。彼女は席に着くなり大きな欠伸をし、
あくまでも僕の目的は、リーゼルタから〝
そんな思いを察してくれたのか。
隣に座るアルトリウス王子が、静かに僕に
そのまま待機していると――。やがて女王補佐であるリセリアも、会議室へと入ってきた。彼女の周囲には数枚のトレイが浮かんでおり、その上にはカップやティーポット、焼き菓子といった食品類が載っている。
「もうしばらくお待ちください。すぐに準備をいたします」
リセリアは相変わらず表情を変えぬまま、
「この城内は特に、
そのように彼女は言いながら、僕に目線を合わせてきた。
またしても僕の顔には、
つまりリセリア本人が
こうして殺風景だった卓上に、ティーカップと焼き菓子と、果実の皿が
「ふわぁ……。やっぱり
女王は目の前のゼータグレープを一粒つまみ、自身の口へと放り込む。この作物は非常に甘みも強いことから、アルティリアの子供たちにも人気があった。糖分を補給して覚醒したのか、やがて女王はしっかりと、紫色の目を開けた。
僕らも改めて姿勢を正し、上座の方へと視線を向ける――。
まるで〝お茶会〟でも開かれるかのような雰囲気だが。これはあくまでも真剣な会議。魔王リーランドに対抗するための作戦を、ここで決定しなければならない。
ようやく辿り着いた〝魔法王国リーゼルタ〟にて。世界と人類の命運を決めるための重要な国際会議が、ついに開催されたのだった。
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