第49話 繰り返された悲劇
その日は一段と
こんな日は決まって、魔物の動きも活性化してしまう。僕は孤児院の仕事をソアラに任せ、街の周辺や街道の安全を確保すべく、魔物の討伐へと向かった。
街道には案の定、ワーウルフやハイコボルドといった魔物の群れが
ゼニスさんから受け取った
明日は大事な国際会議だ。魔物をのさばらせておくわけにはいかない。王都方面には勇敢な〝アルティリア戦士団〟が居ることもあり、どうにか対処できるだろう。
対してランベルトス方面は、アルトリウス王子らが〝
*
「最後の日くらい、子供たちと一緒に過ごしたかったな」
今日は早朝から活動を開始したというのに、すでに日は傾きかけている。今さら孤児院に戻ったとしても、余計に別れが
そんなことを考えながら、酒場で遅めの昼食をとる。ミチアが作ってくれた料理に比べれば、とても味気ないメニューだ。しかし
腹ごしらえを済ませた僕は、再び魔物を狩るために、ランベルトスの街へ出た。
国際会議があることは極秘事項なのか、道ゆく者たちの様子に、特に色めき立ったものはない。しかし、この平穏こそが、人々にとって最も幸せなことなのだろう。
しかし、そんな平穏を切り裂くように――。
幼い子供の悲鳴が、ランベルトスの
僕は全速力で悲鳴が聞こえた地点へと走る。
まさか、そんな馬鹿な。
聞き間違いでなければ、さっきの悲鳴はククタのものだ。
僕の頭に、前回の記憶がフラッシュバックする。
最悪なイメージを振り払うかのように首を振り、僕は全力で駆けてゆく。
こちらの方角はまさに、あの
しかし
*
目に飛び込んだのは〝前回の世界〟と同じ、赤色の中に
ククタの
「チッ、せっかく良い獲物を見つけたってのによ。出しゃばりやがって」
「ミチア――ッ! お願い! 誰か助けて!」
「うるっせえぞガキが! こうなりゃ、テメェだけでも連れていくしかねぇ。この俺が良い暗殺者になれるよう、たっぷり教育してやるぜ」
あの薄茶色の
まさか教会に入り込んでいたとは。僕は迷わずククタの前へと飛び込み、男の左手を振り払った。
「やめろ。ガース」
「なんだテメェは! 神の
「あ……。アインス兄ちゃん……! ミチアが! おれのせいでコイツに……!」
僕はククタに小さく
だというのに僕の心は鋭く研ぎ澄まされ、驚くほどの冷静さを保っている。
「もうすぐ
「なんだと……!? 俺の行ないは神の意思だぞ! 大体、テメェは何者だ!」
「僕は魔王を倒す者。そしてミストリアスを救いたいと、心から望む者だ」
僕の言葉にガースは舌打ちし、
「がっ……!? ああぁあ――っ!?」
「それくらいの傷ならば、後で治療してもらえるだろうけど。せめてもの間だけでも、ミチアが受けた苦しみを味わっておくといいよ」
剣に付いた血を振り払い、僕は
ガースは完全に観念したのか、左手で傷口を押さえたまま
*
ようやく騒ぎを聞きつけたのか、やがて三人の神殿騎士が姿を見せた。全身を白銀の鎧に包んだ彼らは特に急ぐわけでもなく、金属音と共に僕らの元へとやってくる。
「またしても貴様か。ID:PLXY-W0F-00D1059B06-HH-00BB8-xxxx-ALPよ。今回は踏みとどまったようだな?」
「彼を連行してください。霧に
「フン、
「僕は世界を救わなければいけませんから。たとえ誰に恨まれようとも、誰を
神殿騎士は小さく兜を揺らし、ゆっくりと僕に背を向ける。
すでに他の騎士らによって、ガースには黒い袋が被せられている。そして彼らが手を
僕もあのようにして、ミルセリア大神殿へ移送されたのか。しかし感心している場合ではない。僕はククタの隣で身を
「さあ、帰ろう。ミチアを家に連れていってあげないと」
「アインス兄ちゃん……。おれが、おれがミチアを連れてきたせいで……!」
取り乱すククタを落ち着かせながら。僕らは
ククタの断片的な言葉から察するに、ミチアは僕へのプレゼントを用意するために、ランベルトスの
現在のランベルトスは安全とは言いがたい。当然、ソアラが許すはずもなかったのだが。そこでククタが彼女の目を盗み、ミチアを孤児院から連れ出したとのこと。
「そうか、二人とも僕のために……。ありがとう、ククタ」
またしてもミチアを助けられなかったことは、僕も悲しく悔しい。しかし、それ以上に。僕の心の奥底に、何か熱いものが込み上げてくるのを感じる。
《ここで立ち止まってはいけない。前を向いて、どうかミストリアスを救って》
誰かが僕に訴えかけているような、そんな言葉が響いていた。
*
物言わぬミチアを孤児院へ連れ帰ったあと、その日のうちに教会にて、仲間たちによる葬儀が執り行なわれた。
そう、たとえミチアがいなくなったとしても、彼女の存在までもが消えてしまったわけではない。彼女が生きたこの世界を、僕は必ず守りぬかねばならない。
「アインスさん……。本当に申し訳ございません。私の不注意でした……」
「子供の行動力というのは、予想だにしないものです。ソアラ先生だけの責任ではありませんよ。僕だって旅に出ることを黙っていれば、きっとこんなことには」
今回の一件は、誰か一人の責任ではないのだろう。もちろんミチアを手に掛けたガースが悪いのは、言うまでもないことなのだが。
しかし僕ら誰しもに、少しずつ悪い部分があったのも事実。それを各自が
「アインスさんは、憎くないのですか? ずっとミチアちゃんを探してらしたのに……。そんな彼女を
「もちろん憎いですけれど。じつは僕は一度、感情に任せて復讐を実行したことがあるんです。その結果ミルセリア大神殿へ連行され、そこで
僕の
「それに僕は世界を救わなければいけない。それを
さすがに
「――すみません。少し言葉が過ぎました」
「いえ、違うんです……。なんだかアインスさんの言ったことが神さまの――ミストリアさまの教えに、そっくりだったので……」
偉大なる古き神々によって〝終了〟を宣告された折、ミストリアは自ら名乗りを上げ、世界の管理者となったという。
その際に
それは魔物や悪人とてミストリアスを構成する、大切な一部として
「私は聖職者ではありませんけれど、アインスさんからは特別な、聖なる力を感じます。あなたは神さまに選ばれた存在。いえ、神さまの
「買いかぶりすぎですよ。しかし僕は僕に出来ることを、精一杯にやってみせます」
現在の世界だけでなく、すべてのミストリアスを守り抜くためには――やはり世界のすべてを把握できる、勇者以上の存在になる必要があるということか。
統一政府の
――ミストリアスを救うために。
失った代償は、あまりにも大きなものとなってしまったが。
この時、僕の目の前に。勇者の次に目指すべき道が、
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