第48話 束の間の倖せ
時にはアルトリウス王子らと共にランベルトスの東に
瘴気は無数の魔物を生み出すほか、
「魔王軍は現在、ネーデルタール北の魔導国家、ディクサイス攻略に注力している模様。しかしながら
砦の司令官を務めるガルマニアの将軍は、黒板に描いた勢力図を指揮棒で示しながら説明する。ディクサイスの北には
すでにガルマニア東のネーデルタール王国は
*
絶望的な
ここは人類軍の総司令官であるアルトリウス王子のための部屋なのだが、ドレッドやカイゼルをはじめとした、
「あの……。そういえば、ヴァルナスさんは?」
この場に存在しないということは、おそらく答えは一つなのだろうが。僕は
「おう。そういや、アイツのことも知ってんだったな。まぁ詳しく話すと長くなっちまうが、死んだよ。リーランドに殺された」
「そうですか。リーランドさんに……」
「ああ。そしてそれが、リーランドが魔王と化した切っ掛けであると考えられる」
そう言ったカイゼルの言葉を受け、僕は思わず首を
「我らが大族長・ファランギスを
「ええ……。そして暴走した彼は即座にリーランドに討たれ――。その後ガルマニアでのパレードにて、あの悲劇が起こりました」
マナリスタークは確か、魔族の血を引いたエルフ族。いわゆるダークエルフを指す単語だ。つまり最初に魔王と化したのは、ヴァルナスだったということか。
『いずれ俺の身も心も、魔の力によって支配される。そうなる前に、一人でも多くのエルフどもを、この手で叩き潰してやる。――俺が、俺自身で
かつて〝
「では、リーランドさんが魔王になってしまったのは、ヴァルナスさんの力が影響していると……?」
「断言は出来ません。しかし、その可能性が限りなく高い」
「それじゃあ……。たとえ魔王を討つことが出来ても、次の魔王が生まれてしまう」
そう僕が口にするや、エピファネス以外の三人は、
「
「魔王の、烙印……」
「
エピファネスの言葉に、一同は
しかしながら、どことなく彼らの表情は暗い。
問題は、それを誰がやるか。
おそらくは
「――僕がやります。僕が聖剣を手に入れ、魔王を打ち倒します」
正しき心というものが
それでも、やるしかない。
現在の世界を救い、すべてのミストリアスを救うために。
「……よろしいのですか? アインスさん。その身に魔王を封印するということは、あなたは……」
「はい。僕は旅人です。リーランドさんを倒したあとは、どこか
僕の言葉を受け、カイゼルはニヤリと口元を上げる。次いでドレッドが僕の腰をバシリと叩き、エピファネスも切れ長の眼を細めてみせた。
「ありがとうございます……。あなたにすべてを
「いえ、それが僕の望みであり、僕が決めたことですから。そのためには、まずは聖剣を手に入れないといけませんからね」
「だな! それまでは俺たちも、しっかり
決意の強さが伝わったのか、四人は口々に僕に
いずれにせよ、魔王への対抗手段は
アルトリウス王子らは国際会議が行なわれる日まで、砦で防衛任務に就くらしい。僕は彼らと、光の
そして僕はアインスとしての人生における、最後の幸せを
*
「おかえり、アインスお兄ちゃん」
夕日に染まる孤児院にて。僕が戻ってくるや
「ただいま。今日も良い
「うん。お兄ちゃんやみんなにも、たくさん食べてほしいから」
最前線の戦況は決して
「それじゃ、先生のとこに行ってくるね」
「ああ。今夜も楽しみにしているよ」
ミチアは小さく手を振り、小走りで居住施設の中へと駆けていった。僕は口元を
ふと気づくとククタが口を〝への字〟に曲げながら、僕の方を
「ククタ」
「……なんだよっ」
「もうすぐ僕は旅に出る。――きっと、二度と戻れない旅になる。だから僕が居なくなったら、ミチアや孤児院の
そう僕が話すとククタは眼を大きく開き、小さく「えっ……」と言葉を
「これはククタにしか頼めない。だってククタが一番強いんだから。どうかよろしくお願いします」
「へっ……。へっ! わかったよ! 言われなくたって、やってやるさ!」
ククタはベルトに差していた
「アインスさんって、ククタの相手がお上手ですね」
料理の準備が一段落ついたのか、今度はソアラが僕の
「あの子、昔はもっとヤンチャだったんですよ。でもアインスさんが武術を教えてくれたり、私を〝先生〟と呼んでくれたおかげで、だいぶ
確かに前回の世界では、ククタはソアラに対し、
「ええ。きっと良い子なんだと思います。ククタもミチアも、ここで暮らしている人は全員。もちろん、あなたもです。ソアラ先生」
「わっ……、私は……。そうですね。……今なら、
この世界のソアラも、やはり暗殺者の手によって、自身の夫を
もしかするとソアラが探し求めている
*
大勢で囲む温かな食卓。
あの日を境に、ククタも素直さを取り戻し、いっそう幸福な日々は続いた。
そして〝運命の日〟を翌日に控えた二十日。
僕がミストリアスで過ごす、十一日目のこと。
最後の幸せに
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