第47話 懐かしき顔ぶれ
魔王リーランドを
そう勇んでエレナの元から旅立ったものの、僕はアルティリアでミチアと
しかしながら、アレフから聞いた〝作戦会議〟の日までは時間がある。僕はソアラと共に孤児院の運営を手伝いつつ、ランベルトスにて情報を集めることにした。
《……目標地点、設定完了。現在地・拠点アルファ。目標・拠点ベータ。転送プロトコル準備完了。転送を開始します……》
朝食作りと簡単な護身術の指導。孤児院にて朝の職務を済ませた僕は、アルティリアの
幸い〝前回の登録〟を引き継ぐことができたおかげで、街の往来を瞬時に行なうことができる。最悪にも犯罪者となり、バッドエンドを迎えてしまった前回の
今度こそは道を踏み外すことなく、世界を救ってみせる。僕は目元にグッと力を込め、討伐隊が集まっているという、南の野営地へと歩みを進めた。
*
街で集めた情報によると、討伐隊を指揮しているのはアルトリウス王子らしい。今回の世界では初対面となる彼だが、上手く交渉することが出来れば、僕も作戦会議に同行させてもらえるかもしれない。
「なんだ? 王子の知り合いだと? ふむ、それなりに腕は立つようだな。入れ」
野営地の見張りをしていた男に王子への
熟練の戦士というものは、見ただけで相手の実力を判別できると聞いたことはあるが。農園で事前に鍛錬を積んでおいたことが、
響く
「失礼します。僕はアインスと申します。アルトリウス王子を訪ねてまいりました」
僕は天幕の入口を
目の前の
彼らの顔を見た
「んぁ? なんだぁ?
「はい。ありがとうございます、ドレッドさん」
そう返答した僕に対し、カイゼルがチラリと視線を向ける。彼から何かを察したのか、アルトリウス王子も小さく
「ようこそ、アインスさん。私はアルティリア王国の第一王子、アルトリウス・アルファリスです。――しかしながら、どうやら我々のことを
「はい。僕は旅人です。実は僕は皆さんと共に、戦火に身を投じた経験があります。……リーランドさんや、ヴァルナスさんも一緒に」
ここで
「なーるほどな! それが旅人ってやつか! へっへっ! 本物を見るのは初めてだがよ、見知らぬ戦友ってのも悪かねぇな!」
「ああ。彼の話に大きな相違点は無い――。ふっ、〝別世界の我々〟が認めた人物ならば、我々も信じないわけにはいくまい?」
「そうですね。我がアルティリアの建国王・アルファリスも、
三人は歓迎の意を示しながら、僕に向かって右手を伸ばす。僕は涙が
そんな中、ずっと沈黙を保っていたエルフの男性が立ち上がり、にこやかな顔で右手を差し出した。やや赤みがかった肌に
「歓迎する。異世界からの来訪者よ。
マナリザートと
「大族長代理……。じゃあ、あなたはファランギスさんのご子息?」
「
いわゆる民主主義というやつか。彼ら砂漠エルフらの
アルトリウス王子は言わずもがな――。ドレッドはドワーフの王族であり、カイゼルもネーデルタールの貴族だったはずだ。
そんな彼らと砂漠エルフたちとの共闘。新たなる共通敵を前に、長らく敵対していた相手と手を取り合う。それほどまでに魔王の力は強大なのか。それとも
*
互いの自己紹介を済ませ、僕は
魔王を討つこともそうだが、僕は真の意味で世界を救わなければならない。そのための知恵を借りるため、僕は〝
「なるほど。エンブロシアへ渡るため、作戦会議に参加したいと。確かに
「はい。厚かましいとは思いますが、どうかお願いできないかと」
「うぃーっく! いいんじゃねぇかぁ? エンブロシアに入れるかどうかはわからねぇが、会議なら
ドレッドの脳天気な言葉に、カイゼルが「ふっ」と息を
「むしろエンブロシアに渡るのならば、動ける時間が必要だろう」
「ふふ、そうですね。――わかりました、アインスさん。会議の際には私の護衛として、あなたを同行させましょう」
持つべきものは
僕は再び
「がはは! 礼を言うのはこっちだぜ! どうにか切り札を探そうにも、俺らは防衛で手一杯でよ。まさに勇者サマの到来ってやつだ!」
「
かつて人知を超えた力を振るい、世界を欲しいままにした
「勇者の剣って、まさか〝光の聖剣バルドリオン〟のことですか?」
「
原初の地、ダム・ア・ブイ。その特徴的な名は、例の〝薄汚れた薄い本〟にも出てきたものだ。その物語の中において、かつて〝勇者〟はその地に至り、異世界への大穴を封印したことになっている。
やはり〝あの本〟の内容は、正しい歴史を書き記していたものだったのか。あの勇者の正体や、その後のミストリアスが
『ねぇ、ミストリア。もしも
かつて僕が言った言葉。その返答が
「僕はエンブロシアで大長老ルゥランに会い、必ず聖剣を手に入れます。どうか力を貸してください」
「ええ、もちろん。それにドレッドが言った通り、アインスさんは我々の希望――まさしく勇者となるに
「
明確な日付と目標が定まったことで、
この世界を救うために。
たとえどんな運命が待ち受けていようとも、僕は立ち止まるわけにはいかない。
*
戦友との再会を果たした僕は
「おかえり、アインスお兄ちゃん」
僕が孤児院の門に近づくや、ミチアが笑顔で駆け寄ってきた。彼女は前回の世界と同様に、子供用の真新しい
「ただいま、ミチア。いい子にしてたかな?」
「うん。今日のお夕飯、友達と一緒に作ったよ。お兄ちゃんも一緒に食べよう?」
「もちろん。ふふ、とても楽しみだ」
この新たなる平穏を味わえるのも、あと四日。しかし愛しいミチアや子供たち、みんなの笑顔を守るためにも、再び僕は旅立たなければならない。
だが。どうか。今だけは――。
もう少しだけ、この幸せを味わっていたい。
僕は小さなミチアに手を引かれながら、孤児院の中へと入っていった。
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