第33話 それぞれの罪
翌日。三度目の
僕は宿を貸してくれたアレフに礼を言うため、彼を探しに部屋から出る。
遺跡の出入り口からは暖かな光が射し込んでおり、白く
そちらとは反対方向の大広間へと目を
◇ ◇ ◇
アレフは僕に気づくと振り返り、祈りのジェスチャをしてみせる。
僕は広間の中へ入り、彼に昨夜の礼を述べた。
「
「ありがとうございます。――ところで、この祭壇みたいなのって
僕はアレフの背後にある、謎の
「これは旅人の皆さまが降り立つための
確かに、同じ旅人でも、ミルポルの場合は
「――と、いうことは。それを使えば別の世界に行けるってことですか?」
「いえ。こちらから
ミストリアが選定する? あの白い空間での、
僕も余計な質問をしたせいでエラーを起こし、追い出されてしまった経験がある。
「現在では訪れる旅人さまも減少されましたが。かつての古い時代、ミストリアさまが
「え? ミストリアって、最初から居たわけではないんですか?」
「はい。創造主たる〝偉大なる古き神々〟を除けば、元々ミストリアスで信仰されていた神は〝光の
それは予想外だった。この世界の名を
「アインスさまには申しあげにくいのですが……。古い時代の旅人さまは、あまり〝望ましい来客〟とは
「なるほど……。いえ、そうだとすれば、
つまり、ミストリアはアカウント情報の審査を、アレフたち聖職者は旅人たちのチュートリアルを。そして神殿騎士たちは、旅人らの管理や取り締まり――いわば
確かに、異世界からの侵入者が
しかし、そうなると理解できないことがある。
なぜ
僕も最初の
なにせ、魔物に
――駄目だ。
ここで考えてばかりいても、おそらく答えには
とにかく知識と情報を集めよう。
まずは今日の予定通り、ランベルトスを目指さなければ。
その前にアルティリアの孤児院に寄り、ミチアに
「また、いつでもお訪ねください。次に会われるであろう
「とても心強いです。ぜひ頼らせていただきます」
僕はアレフと固い握手を交わし、はじまりの遺跡を
◇ ◇ ◇
遺跡の外で
この魔法の扱いにも、そこそこ慣れることができたようだ。
いつものように街の入口に降り立ち、徒歩で教会へと向かう。
しかし
「あれ? あなたは確か、戦士団の……」
広場の白いベンチでは、アルティリア戦士団の団長・アダンが、包帯を巻いた姿で
「ああ、
「ホントよ!――ねぇ聞いてよ、団長ってばガースを街道まで追いかけて、いきなり斬りつけられたのよ!? それで見事にコノザマってワケ!」
「ハッハッ……。外は
少女は「笑いごとじゃないっての!」と叫びながら、アダンに強烈な一撃を入れる。アダンは
「とにかくっ! もうアイツには関わらないことねっ! 団長が
「ウグッ、
やはりガースは戦士団を抜け、ランベルトスへと向かったようだ。僕もアイツには関わりたくはないし、この少女の意見には大いに
僕は彼らに別れを告げ、改めて教会へと向かう。
確かエレナと結婚式を挙げた際には、敷地の右奥に孤児院が
◇ ◇ ◇
教会の入口を
しかし、そうするまでもなく。
建物の右手方向にて、ソアラの姿が確認できた。
彼女は教会の外壁に寄りかかり、
「おはようございます。ソアラさん」
「あら? アインスさん。おはようございます」
ソアラは持っていた煙草を小箱にねじ込み、それを白い
「実は、これから旅に出るので。最後に、ミチアに挨拶をしておきたくて」
ランベルトスへ向かったあとは必然的に、
「まあ、そうなのね。――ええ、ミチアちゃんも会いたがっていたから、きっと喜ぶと思います。いま、呼んできますね」
ソアラは寄りかかっていた壁から
敷地の奥からは、子供たちの元気な声が聞こえてくる。
その声に耳を
今日もミチアは頭に髪飾りを付け、見るからに顔色も良くなっている。
僕は地面に膝をつき、ミチアの顔を真っ直ぐに見つめた。
「やあ、ミチア。すっかり元気そうだね」
「うん。……行っちゃうの?」
「ああ。この世界を救う方法を――。ミチアが元気に暮らせる世界にする、そのやり方を……。僕は探さないといけないからね」
僕の言葉を受け、ミチアは少し口を曲げる。
しかし理解してくれたのか、やがて小さく
「わかった。また会いにきてね?」
「もちろん。約束するよ。……元気でね」
「うん……。約束……」
そう言い終えるなり、ミチアは僕に抱きついてきた。
僕は小さな
「あー! このヘンタイ! ミチアを泣かせてんじゃねーよ!」
「こらっ、ククタくん! お客さまに失礼でしょ? 悪いことを言う子は、お買い物に連れていってあげませんよ?」
「うるせー!
ククタと呼ばれた少年は舌を出し、全速力で孤児院の方へと走っていった。
どうやら早くもミチアには、頼れる友達ができたようだ。
「ごめんね……。アインスお兄ちゃん」
「いや、僕は平気だよ。さあ、仲良くしておいで」
ミチアは僕に大きく頷き、彼を追って去ってゆく。
僕はゆっくりと立ち上がり、彼女の後ろ姿に手を振った。
「すみません。アインスさん……」
「気にしないでください。――あの、ソアラさんは、聖職者ではないんですか?」
今日のソアラも教会の法衣を身に着けており、どこから見ても聖職者だ。
なぜ彼女は孤児たちにまで、わざわざお手伝いだと名乗っているのだろうか。
「ええ……。私は、ただの〝お手伝い〟です。私なんかが聖職者には、絶対になれませんから……」
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