第27話 ノーゲーム
自由都市ランベルトスを目指し、街道を西へ。
すでに日は暮れかけてはいたが、いざとなれば
あれほどの剣幕で迫ってくるということは、残念ながらアルティリアとガルマニアの関係は、良好とはいえない状態なのだろう。
あのリーランドさんが〝皇帝〟となっていることにも驚いたが、それで二国間の情勢が悪化するという部分には、どうにも合点がいかない。僕の知る限り、リーランドさんは〝人徳〟を絵に描いたような、そんな立派な人だった。
降り立つ平行世界が変われば、こうまで変化してしまうものなのか。しかし、この変化さえ上手く扱えば、滅びの状況を
「あっ、街だ。やっぱり懐かしいな」
黙々と歩みを進めていると、いつしか目の前には砂レンガの建物が建ち並んだ、ランベルトスの街並みが姿を現していた。少し汗ばむほどの熱気と、どうにも好きにはなれない〝死んだ土〟の放つ
僕は〝LANBETAS〟と刻まれた巨大な木製ゲートを
◇ ◇ ◇
ランベルトスに泊まるのは初めてだったものの、特に苦もなく部屋を確保することができた。しかし商業を主体にした街であるためか、アルティリアよりも割高な値段となっていた。
「お金の〝引き継ぎ〟がなかったら、ここには泊まれなかったな」
僕は用意された部屋に入り、服に付いた
「そういえば、あの場所に来ていた人は……」
前回の〝エンディング〟の時。ヴァルナスさんの
「ルゥラン……。エルフの大長老。――そう、ヴァルナスさんが言ってたっけ」
エルフ族といえば基本的に、神にも等しい知識と寿命を誇るとされる種族だ。事実、脳内に展開した
そうだ、知識だ。たとえ
しかしエルフたちの住まう本拠地〝
「わからないな。教えてくれそうな知り合いを頼ろうにも……」
僕の知り合いといえば、エレナにゼニスさん、そしてアレフやリーランドさんか。前回の戦友たちにも会えると良いのだけど、ガルマニアが
まずはアルティリアへ向かい、教会の
「――そうしよう。少し遠出すれば、エレナの顔も見られるし」
彼女に直接会えば、きっと気持ちが抑えられなくなってしまう。今回こそは、遠くから
なんとなく今後の方針も決まったことで、僕は強烈な眠気に襲われてしまう。そしてそのままベッドに横になり、明日に備えるべく眠りに入った。
◇ ◇ ◇
翌朝、ミストリアスへの
どうにも、この街の〝土の匂い〟は苦手だ。鼻から脳へ匂いが伝達されるたび、僕は
宿から街道への道すがら、街の様子へ目を
お金もあることだし、剣でも新調しようかとも思ったが――。
次への〝引き継ぎ〟も考慮して、無駄遣いはしないに越したことはない。第一、ここの屋台は〝
自由都市。もとい、商業都市ということか。
いわゆる資本主義によって成り立っている街だ。
資本主義か共産主義か。あるいは民主主義か社会主義か。
僕らの現実世界において、最終的に
世界統一政府。人類の世界を終わらせた張本人たち。
しかし彼らの台頭は、
もはや責める相手など居やしない。
おそらくは、はじめから〝良い〟も〝悪い〟も無かったのだろう。
「……はやく、アルティリアへ向かおう」
僕は土煙を吸い込まないように
◇ ◇ ◇
早朝とはいえ、すでに街道には商人や荷馬車の往来ができている。僕は周囲に
「えっと、呪文は……。
発動のイメージを頭に浮かべ、ゆっくりと正確に呪文を唱える。直後、僕の
「フレイト――ッ!」
風の魔法・フレイトが発動し、僕の周囲に風圧の膜が形成される。
その〝風の結界〟を身に
「わわっ! これじゃ高すぎる……!」
落ち着いて制御しなければ、このまま
正直なところ、こんな
飛行中、ふと〝エレナの農園〟が気になったけれど……。
余計なことを考えていては、術を暴走させてしまう。
僕は全神経を集中させ、アルティリアの街を真っ直ぐに目指した――。
◇ ◇ ◇
初めての
「ふぅ……。すごく疲れた」
慌てずとも、まだ今回は二十九日も残っている。とはいえ、僕は昨日の
「これじゃ早くもダウンしてしまいそうだ。少し落ち着こう」
とても
◇ ◇ ◇
まだ朝だというのに、酒場の中は大勢の客で賑わっていた。心なしか、剣や槍などで武装した、傭兵や戦士らしき男たちの姿が目立つ。
まずは飲み物を。ふと
真っ直ぐにカウンターを目指して進んでいると――。
不意に左側のテーブル席から、気になる会話が流れてきた。
「聞いたか? 向こうの
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