Cルート:金髪の少年の末路

第26話 すべてを救う決意

 異世界ミストリアスへの侵入ダイブを試みたものの、ジィエムミストリアのエラーによって、僕は現実世界へと戻されてしまった。


 あれは本当に、エラーだったのだろうか?

 僕はベッドに横たわったまま、激しい痛みの残る頭で思考をめぐらせる。


「……だめだ。頭が痛くて。今日は、このまま寝てしまおう」


 どうにか後頭部からまくらがたの接続器を外し、それをぞうにベッドの端へける。横目に見えた端子部分からは、うっすらと煙のようなものがのぼっている。あんな状態のものが脳にさったままでは、脳細胞が死滅してしまう。


「ミストリアとの会話には、気をつけた方がよさそうだ。まずは、あの世界に何か情報がないか、探ってみないと……」


 僕は熱から解放された額に手を当て、そうひとちてみる。あのエラーは、おそらくは会話を監視していた〝何者か〟の仕業だろう。


 この現実世界ですら、個人の居住区ではプライバシーが保障されているというのに。世界とは、なかなか上手くは回らないものだ。


 そんなことを思いながら、固く、深く目を閉じる。

 そして僕は、すぐに眠りの中へと引き込まれていった。



 ◇ ◇ ◇



 翌日。本日の労働義務も〝規律よく〟こなし、僕は自室へと戻ってきた。

 さあ、今日こそは、ミストリアスへ向かわなければ。


「もしかしてBANバンとか……。大丈夫かな? ちゃんと繋がるといいけど」


 そんな不安こそ頭を過ぎったものの――。

 接続は無事に完了し、あの白い空間へと舞い戻ることができた。


 ◇ ◇ ◇


「ようこそ、ミストリアンクエストの世界へ。私はGMミストリア」


 これまでと何ら変わりのない、いつものあいさつ

 まだ自分の姿はものの、僕はホッと胸をでおろす――。



「IDの登録が完了いたしました。親愛なる旅人・アインス。それでは、よい旅を」


 昨日の失敗を踏まえ、今度は余計な質問をすることなく、アバターの作製を完了させる。今回の僕も、いつもの金髪の少年の姿だ。結局のところ、いまさら別の姿を使う気には なれなくなってしまっていた。


 一度くらいはミルポルのように、女の子の姿になってみても良いかもしれないけれど……。とりあえず今は、やめておこう。僕にはすべきことがある。



 ◇ ◇ ◇



 三度目のミストリアスへ降り立った僕は、周囲の景色を見渡してみる。


 いつものごとく、天上のたいようは傾きかけているようだ。今までと違うところといえば、周囲に漂う有機的な空気に、わずかに水のにおいが混じっていることか。


「さて、ここはかな? とりあえず、移動するしかないか」


 幸い、腰には使い慣れた、片手持ち用の剣がある。これでも戦争に身を投じた者だ。もしも魔物との戦闘になっても、どうにか応戦できるだろう。


 なんとなしにポーチに手を入れ、中の物品をあさってみる。いつものやくびんと着慣れた寝巻き、そして丸まった羊皮紙と固い物――。


「えっ? これはカレンダーと、ミルポルの本?」


 思わず取り出してみると、は紛れもなく、前回の僕が手に入れたアイテムそのままだった。試しに財布も確認してみると、見たこともないほどの財貨が詰まっている。


「もしかして、引き継げた? でも、二回目の時は……」


 二回目の侵入ダイブの時には、一回目に手に入れた物品は、そのまま消滅してしまっていた。あの時、農家となった僕は、野菜の種や農具などを、あれこれとポーチに放り込んでいたのだ。


 前回との違いといえば、三十日の期限を待たずに〝アインスが死んだ〟ことだ。仮に〝引き継ぎ〟の原因がだとすれば、後の機会にを持ち越せるかもしれない。


 最期はじゅつコアの爆発に巻き込まれた僕であったが、幸いにも苦痛らしき苦痛を感じはしなかった。死の痛みなんかよりも、昨日の接続失敗の頭痛の方が何千倍もツラかったほどだ。これを有効活用すれば、きっと――。



「まずは、どこかの街に辿たどこう」


 僕は適当に方角を定め、そちらへ向かって歩きだす。いささか楽天的ではあるが、前回もこの方法で、エレナの農園へ行き着くことができた。周囲には小川が流れており、頑丈な石造りの橋がけられている。少なくとも、人が通るみちではあるようだ。


 すると思ったとおり、前方には重厚な石垣によって築かれた、立派な門が見えてきた。それを見た僕は喜び勇み、そちらへ走り寄っていく。


 ◇ ◇ ◇


「止まれ! ここからはガルマニア帝国の領地。許可のない者は一歩たりとも、この関所から先には通さん!」


 僕の接近に気づくや、長槍ロングスピアと鎧で武装した兵士の一人が、こちらに向かって武器を構える。敵意がないことを示すために僕は両手を挙げながら、ゆっくりと彼の元へと移動する。



「すみません、僕は旅人で。ガルマニアって、リーランドさんの国ですよね? 入れてもらうことはできませんか?」


「旅人ごときが、我らがすうこうなる皇帝の名を語るとは。そんなに入りたくば、牢獄へ案内してやろう。もっとも、明日には頭と胴体が分かれることとになるがな!」


 兵士は敵意をしに、僕に向かって戦闘の構えをとる。そうじゅつの恐ろしさは、エレナのもので良く理解している。僕は両手を挙げたまま首を横に振り、ゆっくりとその場から遠ざかる――。


 ◇ ◇ ◇


「……いきなりとんでもない目にうとこだった。うえから見たガルマニアは、楽しそうな所だったんだけどなぁ」


 一瞬、〝飛翔魔法フレイト〟を使って空から侵入しようとも思ったが、今度は弓兵たちによってとされてしまいかねない。なにより前回の〝戦友〟に討たれるようなことは、絶対にめんだ。


 ただ、この方向がガルマニアだとすると、逆へ向かえば〝自由都市ランベルトス〟に辿り着けるはずだ。僕は新天地・ガルマニアへのルートを諦め、今回も西方の、アルティリア方面へ向かうことにする。



 歩行がてら、ポーチから取り出したカレンダーを確認すると、三〇〇〇年を示す数字の他に、光のがみが〝十〟のかずを、闇の女神が〝四〟の数を示していた。どうやら僕が降り立つのは、この日時に固定されているらしい。


「エレナ……。無事だといいけど」


 初めて僕がミストリアスへ降りた時、彼女が魔物に襲われている場面だった。しかし二回目の侵入ダイブでははなかったことから、必ずしもであるとは限らないようだが。――やはり、心配ではある。


「仮に、なっていたとしても……。僕が為すべきことは、変わらない」


 僕が救うべきなのは、〝愛する人、ただ一人〟だけではない。

 世界のすべてを、世界そのものを救わなければならない。


 そのための方法を、なんとしても見つけだしてみせる――。


 そう心に強く誓い。

 僕はランベルトスの街へと、歩みを進めてゆくのだった。

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