第19話 ガルマニアの傭兵団
ミストリアスへの二度目の
僕は傭兵として戦争に参加するため、アルティリア王都の南に位置する〝自由都市ランベルトス〟へと
「もうすぐ集合が
傭兵団の団長を務めるリーランドに案内され、僕は広場に設置された中規模なテントの中へと通された。内部には魔法による照明が
「団長、そろそろ出番ですかい? そいつは?」
「彼はアインスだ。今日から我らの仲間になる。良い眼をしているだろう?」
リーランドは僕の肩を軽く叩きながら、仲間の男たちに紹介する。
僕も自ら三人に名乗り、彼らに小さく頭を下げた。
「ああ、前に言っていた野郎ですかい。待望の」
「そうだ。俺はこれから、アルトリウス王子との打ち合わせに向かう。出番はもうすぐだぞ、ドレッド」
「ウィー!」
三人のうち、テーブルの左側に座っているヒゲ面で小柄な男が、手にしたカップを持ち上げながら返事をする。彼は大きなツノの付いた兜を被っており、うねるような金色の剛毛が
「あの飲んだくれはアルミスタ族のドレッド。ドワーフ族というやつだ。――真ん中の色男がヴァルナス、右でスカしてる奴がカイゼルだ。仲良くやってくれ」
「はい。よろしくお願いします、みなさん」
リーランドは重要な打ち合わせがあるらしく、三人の紹介を終えるや、足早にテントから出ていってしまった。
残された僕は立ったまま、テーブルに着いた面々を
まさに三者三様というべきか。全員が個性的な印象だが、同時に歴戦の
「おい、いつまで突っ立ってやがんだぁ? そこに座って一杯やんな!」
しばらくテントの入口に立っていた僕だったが、ドレッドに
さきほどからヴァルナスは固く眼を
「……なんだ?」
「あっ、すみません。じろじろと見てしまって」
「この耳ならば、自ら切り落とした。それだけだ」
僕の視線に気づいたのか。ヴァルナスは赤い瞳を見せ、それだけを言うと再び
「ひゃっひゃっ! ヴァルナスはワケアリのエルフでな。オッカネェ野郎だが、仲間を取って喰ったりはしねぇよ!――おい、カイゼル! おめぇも一杯どうだ!?」
「
カイゼルは短く答え、手元の本に視線を移す。
彼は短く刈った暗い青色の髪に、金属の板を貼り付けた
「けっ、つれないねぇ。アインスよぉ、おめぇまで断るんじゃねぇぞ?」
「はい。では、せっかくなので一杯だけ」
「へっへっ、わかってんじゃねぇか!」
掘削作業で植物と遭遇した際、体内の洗浄と消毒用に高純度のアルコールを飲まされることはあるが、こうして飲酒という形で口にするのは初めてだ。僕はカップになみなみと注がれた液体に、恐る恐る口をつける。
「これは……。
「おうよ! 我が〝ドラムダ〟から持ってきた
「いえ、これだけにしておきます」
「――うむ、賢明だな」
僕が
こうしてテントで過ごしているとリーランドが再び顔を見せ、僕らを呼びにやってきた。これから外で、出撃前の
◇ ◇ ◇
「よし! 全員そろったな!? 皆と共に戦場に立てること、非常に誇りに思うぞ!」
ランベルトスの南側に広がる荒野にて。
リーランドの勇ましく堂々たる声が、周囲の空間に響き渡る。
集まった人数は、ざっと見回しただけでも数十人。僕は新入りにもかかわらず、ドレッドらと共にリーランドの目の前、最前列に並ぶことを許された。
「我らはこれより南方の砂漠エルフめの拠点を制圧する! アルティリアの平和を確保し、奴らとガルマニアとの永きに渡る因縁に終止符を打つのだ!」
どうやら敵は、砂漠に幾つかのオアシスを生成し、そこを中継地点として北方のランベルトスへ攻め入ってきているようだ。僕らはそれらのオアシスを奪取しながら南方へと進軍し、奴らの本拠地を制圧するという作戦らしい。
アルティリア王国軍が西側から、ガルマニア共和国軍が東側から攻め、僕ら〝ガルマニア傭兵団〟は中央および双方への遊撃と援護を行なう
作戦の説明を終えたリーランドは後方へと一歩下がる。続いて全軍の前に立ったのは、長い金髪をなびかせた、一見して高貴な身分であろう青年だ。
「我らが友、ガルマニアの傭兵たちよ! 私はアルティリア王国・第一王子、アルトリウス・アルファリスだ!」
アルトリウス王子は外見どおりの美しく透き通った声で演説を始め、傭兵団員らを
王子の演説の
「アルトリウス王子の母君であるユリア王妃は、ガルマニアに
リーランドの言葉に、集まった傭兵たちからは
「へっへっ、任せろって! ドラムダ鉱山仕込みのパワーを見せてやるぜ!」
「……エルフどもを根絶やしにする。それだけだ」
「カイゼル・マークスターの名に誓って。存分に戦おう」
ドレッド、ヴァルナス、カイゼルの三名も
◇ ◇ ◇
こうして
正直、新入りの僕が入るには荷が重いような気もするけれど……。
おそらくは団長なりに、なにか考えがあってのことなのだろう。
「よろしく、皆さん」
気さくな
「えっ……? まさか王子も、僕らと同じ突撃部隊に?」
「もちろん。一人の兵として前線で戦ってこそ、皆は奮起してくれるからね。それに私には建国王アルファリスの、〝継承者の名〟がついている。心配無用さ」
王子は
いつもこんな感じなのか、早くもドレッドたちは平然とした様子で、王子と軽口を叩きあっている有様だ。団長であるリーランドが認め、王子自身がそう言っている以上、問題はないのだろうけど。
◇ ◇ ◇
こうして僕らは六人のチームとなり、決死の戦場へと
すでに正規軍の騎士たちは戦闘を開始しているらしく、僕ら傭兵部隊も、後方からの奇襲に打って出る。
「よし!
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