第16話 サービス終了のお知らせ
異世界から来た
「
「あぁ? だから俺がベッドの上で、じっくりと確かめてやろうってんだよ」
男はあからさまに下品な手つきで、両手をミルポルの方へと伸ばす。するとミルポルは大きく
「あー! あっちに可愛い
「なにっ!? おい、どこだっ――!?」
男は興奮した様子で大きく首を振りながら、辺りをキョロキョロと見回しはじめた。その
「おいっ! いねぇぞ!? クソッ、ミルポルめ! どこいきやがった!?」
「うるっせぇぞガース! ちったぁ
階段の上からは、さっきの男らの
なるほど。これはミルポルの指摘どおり〝
◇ ◇ ◇
「はぁー、疲れた。せっかく楽しかったのに、ガースのせいで台無しだよ」
地下酒場へ入るなり、ミルポルは
ここは旅人専用の異空間なのか、僕ら以外に人は居ない。
さきほどの男はガースという名らしく、ミルポルがミストリアスへ来て以来、ずっと彼に付きまとわれていたらしい。そういった理由もあり、
「あいつのせいで十日の異世界生活のうち、半分以上は
「え、十日? 三十日じゃないの?」
「うん、ぼくは十日だけ! そういう
世界が変われば手段も変わるということか。
僕が機械を使ったのとは異なり、ミルポルの場合は「魔法と儀式によって
◇ ◇ ◇
「さてっ! それじゃそろそろ、帰る準備でもしよっかな」
ミルポルは元気よく
「はいっ、あげる! 好きに使っていいよー」
「えっ? でも、
「ぼくの
そう言ってミルポルはポーチの中から、紫色の液体が入った
「これを飲むと
つまりは〝毒薬〟ということか。自ら命を断つことに、少し思うところはあるが。やはりミルポル自身の気持ちこそが、最も尊重されるべきだろう。
僕は
「ありがと! それじゃ最後に、キスでもしとく?」
「えっ……? いや、遠慮しとくけど……」
丁重に申し出を断るや、
「ええー!? もう二度と
「二度と、って……。運がよければ、また同じ
そう言った僕に対し、ミルポルは不思議そうに大きな桃色の眼を
「あれっ? もうすぐ、この世界は消滅するって聞いたけど」
ミルポルも聖職者アレフから、例の〝
「ううん。デキス・アウルラの
「え……? そん……な……」
この世界が――?
ミストリアスが、消滅する……?
「ん? アインス、どしたの?」
世界が〝滅ぶ〟と〝消滅する〟では、決定的な違いがある。
前者は再起することは可能だが、後者の場合はどうにもならない。
ニュアンスの違いという可能性も考えられるが、わざわざ別の世界の者が、あえて〝消滅〟なんて言葉を選ぶだろうか。それに自身らの、
◇ ◇ ◇
ぐちゃぐちゃになった思考を整理していると――。
不意に僕の
ふと眼前へ
「ん……。っと……。なにしてるの?」
「いやぁ。なんかぼんやりしてたから、記念に一発?」
ミルポルは照れたように笑い、ポリポリと頭の後ろを
そんな風にされると、変に意識をしてしまうのだけど……。
きっと
「あの、そういえばさ。……
「えっ? んー、なんか〝財団〟がどうとか言ってたような?」
「まさか、
「そう! それそれ! へぇ、アインスの
いったい、どういうことだ?
この謎の団体は、世界を越えて活動している?
僕が再び思考に入ろうとしていると――。
ミルポルの足元が、
「あっ……。そろそろ時間っぽいや。――よいしょっと」
そう言ってミルポルは僕の
当たり前だがミルポルの肌の感触や
「へへっ、ありがと。最期は親友の腕の中で
縁起でもない話ではあるが、これから行なうのは実際に
僕が小さく
「ねぇ、アインス。
「ん? ミルポル……?」
「じゃあね。どうか
そう言い終えると同時に――。
ミルポルは僕の腕の中で、紫色の液体を飲み干した。
直後、
そして次に目を開けた時――。
ミルポルの姿は、完全に消えてしまっていた。
◇ ◇ ◇
僕はテーブルの上に
それは
「ミルポル、短い間だったけど。――楽しかったよ」
僕は
「諦めないで……、か……。そうだ、何か出来ることがあるはずだ」
財団は〝世界〟の敵か味方か。その真意や目的は不明だが、わざわざ他の世界から旅人が送られていることには、何か意味や理由があるはずだ。
まだ何もわからない以上、とにかく情報を集めなければ。
そして、出来ることをやってみるしかない。
この世界を救ってみせる――。
僕は決意を新たにし、親愛なる友と過ごした〝地下酒場〟を
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