第15話 異世界からの来訪者
アルティリア王都の地下酒場にて。
僕は〝異世界〟から来たらしい、幼い少女と
少女はピンク色の長い髪をツインテールに束ね、なぜか露出の多い戦闘服を身に着けている。彼女は元気に右手を挙げながら、桃色の大きな瞳をこちらへ向けた。
「ぼくはデキス・アウルラから来たミルポル!
「えっ……と。僕の名前はアインス。その、デキス……っていうのは?」
ミルポルと名乗った少女いわく、デキス・アウルラとは彼女の世界の名前らしい。
しかし僕は残念ながら、あの〝現実世界〟の名前なんて聞いたこともない。
「なんだろ……。地球……は惑星の名前だし。世界統一政府も違うし……」
「ええっ!? 惑星って――それ、まさかの〝
彼女によると〝真世界〟とは〝大いなる闇〟の中にありながら、さらに固有の闇である〝宇宙〟を得た世界を指すのだという。確かに地球の外に宇宙が存在しているという情報は、教育プログラムによって僕らの脳にインストールされている。
「いいなぁ。その世界って、地球っていう大地が無くなっても大丈夫なんでしょ?」
「いや……。たぶん、もう宇宙に出ることはできないと思う。僕らは地下深くでコソコソと、植物に追われながら死を待つだけだよ」
あの世界の人間は、すでに宇宙へ出る方法を自ら放棄してしまっている。かつて人類は環境保護という名の植物主義に
はるか太古には炎を
仮に、もし地上へ出て
「そっかー。なんか大変な所だね! 修了試験で無理やり異世界見学に送られたんだけど、
「あはは……。うん、僕もそう思うよ」
まさかミストリアスへ来て、さらに別の異世界人と交流できるとは思わなかった。異世界人同士ということもあってか僕らは
「あ、言い忘れてた! ぼくって実は〝男〟だから、変な気は起こさないでねっ?」
「えっ? ああ、そうなんだ。だからミルポルとは、なんだか話しやすかったのか」
「へへっ、そういうこと! ちょっと可愛くしすぎちゃってさ。でも悪いけど、この
ミルポルの世界では教育の一環として、異世界見学なるものが存在するようだ。しかし
「ねぇアインス。よかったら少し付き合ってくれない? 最後の課題が残っててさ」
「うん? 何をすればいいの?」
「えーっと、戦闘訓練かな!」
一瞬、ミルポルと戦うのかとも思ったが、どうやら〝魔物退治〟がしたいらしい。
僕は
◇ ◇ ◇
「よかったー。今はアイツ、いないみたい。ささっ、急いで外に出よっ!」
ミルポルは何かを警戒し、僕の手を引っ張りながら走りだす。
僕の世界では遺伝子調整によって、人種は一つに統合されてしまった。それでも容姿や髪の色には個性があり、ほんの
おそらくは人間が生物種である以上、たとえ全員が同じ姿となったとしても、こうした価値観や争いは永遠に無くならないのだろう。
◇ ◇ ◇
酒場を出た僕らは街を抜け、門の外側までやってきた。
そこで街道には向かわず、右手方向の林の中へと踏み入ってゆく。
「よーし! さっさと終わらせて元の世界に帰るぞー! 魔物はどこかなー?」
「ミルポルは、自分の世界が好きなんだね」
「うーん。そういうワケでもないけど、この世界は合わなくてさー。
どうやらミルポルの世界では、魔法に
それにしても……。なんだかボロクソに言われてしまった気がするのは、僕自身がミストリアスを気に入っているせいなのだろうか。
出来ることならば、この世界で永遠に暮らしたい。
僕は思わず苦い笑いを浮かべてしまった。
そんな雑談を交わしていると――。
やがて前方の木立から複数の、クモ型の魔物が現れた。
「おっ、出た出た! それじゃいこっか!」
ミルポルは楽しそうに言いながら、ポーチの中から巨大な剣を取り出した。それは標準的な人間が扱うとしても大型で、
しかし、僕の感想などお構いなしとばかりに。
ミルポルは片手で軽々と剣を振り上げながら、クモに向かって突撃する。
「おらぁー! ぶっとばーす! りぇえーい!」
個性的な掛け声と共に、ミルポルはクモの群れを次々と
しかし頑丈な
「危ない! ヴィスト――ッ!」
僕は構えに入っているクモへ向け、風の魔法を解き放つ。
「あれっ? 効いてない?」
「あっはー。これは、思ったよりも強いっぽいね!」
ミルポルは無邪気に笑いながら、僕の隣で剣を構えなおす。
念のために僕も剣を抜き、
するとクモは反撃とばかりに、こちらへ向けて
さきほどまで立っていた地点――球の着弾点からは、
どうやらあの球体は、腐食性の粘液の
「もし、あんなのを食らったら……」
「怖いなぁ。でも服だけが溶かされるなら、ちょっとだけアリなんだけどねっ!」
そして
「レイフォルス――!」
ミルポルの魔法が発動し、手にした剣が魔法の炎に包まれる。
僕にも
「レイフォルス――ッ!」
魔法は無事に発動し、右手の剣が炎を
僕は粘液弾を
魔法剣の効果は絶大で、高熱を帯びた刃により硬質な殻は
そのまま僕らは交戦を続け、ついに魔物の群れを全滅させた。
「ふぅー、お疲れさま! まずはここから退避しよっ!」
ミルポルは言いながら剣を振り、手にした武器の炎を消してみせた。
僕も見よう見まねの動作をし、魔法剣を解除に成功する。
そして僕らは林から
◇ ◇ ◇
「あー楽しかった! 最後に良い経験ができたよ。ありがとねっ!」
「あはは、こちらこそ。それより、最後って――」
「――おい、ミルポル! テメェ、どこ行ってやがった!?」
酒場の扉を
見ると僕らの行く手を
「もう逃がさねえぞ! さあ今日こそは、俺のオンナにしてやるぜ!」
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