第14話 導く者と不穏なる気配
翌朝。この世界で迎える、二日めの朝。
目覚めた僕は食事と宿の礼をするため、食堂として使われていた部屋へと向かう。
「おはようございます、旅人さま。朝食の準備ができておりますよ」
しかし部屋に入るなり、昨夜の聖職者に朝食を
僕は重ねて彼女に礼を言い、パンとスープに口をつける。
「すみません。ただ立ち寄っただけなのに。何かお礼ができれば……」
「いいえ。これが私ども、ミルセリア大神殿の務めですので。少しでもミストリアスのことを記憶に
彼女は優しげに
記憶に留める?
この世界の聖職者とは、観光案内のような役割も
やがて僕が温かい食事を
◇ ◇ ◇
「おはようございます、アインスさん。王都へ向かわれるのでしたら、魔法でお送りいたしましょう」
あまりにも
今回はとにかく情報を集め、人々との交流を大切にしたい。
この世界のことを知るために。
そして、この世界へ真の意味で〝移住〟をするために。
「かしこまりました。外で待機しております。準備ができましたら、そちらへ」
そう言ってアレフは、一足先に食堂から出ていった。
特に準備も無いために、僕は一呼吸を置いた後、彼を追って屋外へと向かった。
◇ ◇ ◇
外には青空が広がっており、
アレフは僕に気づくと、いつもの〝祈り〟のジェスチャをしてみせた。
「あなたは、救世主なのかもしれませんね」
「……へっ?」
いきなり彼の口から出た言葉に、僕は間抜けな声で反応してしまう。
「今年、
なんだろう。
いわゆる、ゲームの〝ラスボス〟でも現れるのだろうか?
「わかりません。〝魔王〟によるものなのか、
「そんな……。この世界の人たちは、みんなご存知なんですか?」
「いいえ。知るのは聖職者らのみ。しかし、いずれ伝えねばならなくなるでしょう」
考えてみれば、この世界は〝ゲーム〟なんかではないのだ。
本当にそんなものが来るのだとすれば、どうにか僕も力になりたい。
「ふふ。やはりあなたは、特別ですね。他の旅人がたとは、何もかもが違っている」
「他の旅人……。まだ会ったことがないんですよね」
「数日前にお一人、王都へお送りいたしました。もしかすると、お会いできるかもしれませんね」
そういえば僕も彼に、王都まで送ってもらう予定だったのだ。
アレフは小さく
「それでは出発いたしましょう。マフレイト――!」
アレフの魔法・マフレイトが発動し、彼の足元に、緑色に輝く魔法陣が出現する。
魔法陣からはベールのような結界が伸び、僕ら二人をその内側へと包み込んだ。
そしてドーム状となった結界は魔法陣ごと高く浮遊し、僕らを乗せたまま、高速で林の方角へと移動をしはじめた――!
◇ ◇ ◇
「これは……。すごいな、本当に空を飛んでる……!」
「風の飛翔運搬魔法・マフレイトです。どうか魔法陣から出てしまわれぬよう、お気をつけて」
アレフが術を制御しながら王都方面への飛行を続けると、すぐに地平線の先に、雄大な城の姿が見えてきた。
彼は外門の前で街道へと下降し、そこで風の結界を解除する。
「ありがとう。まさか空を飛べるなんて。楽しい時間だったよ」
「お気に召したようでなによりです。どうか、よい旅を」
僕は再び礼を言い、アレフに向かって右手を差しだす。
彼も深く頭を下げ、僕の手を握りしめた。
「それでは失礼いたします。――フレイト!」
アレフは別の魔法を発動し、さきほど以上の高速飛行で〝はじまりの遺跡〟の方向へと飛び去っていった。どうやら魔法の性質が、若干異なっているようだ。
もしかすると、自分でも使えるようになるかもしれないな。
僕は彼が唱えた呪文を記憶に刻み、王都の門を
◇ ◇ ◇
アルティリアの街は、相変わらずの
行き交う人々に、談笑や挨拶を交わす人々。滅びとは無縁の、平和な光景。
やはりこの景色を見ると、エレナのことを思い出してしまう。
僕は自然と
広場に
ボサボサの緑色の髪をした、小さな女の子。
彼女の汚れた姿がどことなく〝
「あの、お嬢ちゃん?」
「うっ!? あぅ……!?」
しかし僕が声を
……そんなに怪しい顔をしていたのだろうか。
僕は傷心した気持ちを切り替え、まずは情報収集を行なうため、街の酒場へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
街の北側に位置する、大きな酒場へやってきた。その重厚感のある扉を開いた
まだ早い時間にもかかわらず、店内では複数のグループがテーブルを囲み、酒や
すごいな。まさに物語の中で見たような、酒場そのものといった光景だ。
僕は妙な感心を覚えながら、カウンターの方へと近づいてゆく。
「いらっしゃいませ」
「あの、すみません。旅人用のサービスがあるって聞いたんですけど……」
確かエレナが街を案内をしてくれた際に、そのようなことを言っていた。
僕の言葉に
「もう旅人など訪れぬものと思っていたら。
そう言った
彼の示した場所を見ると、確かに
僕は彼に礼を述べ、その階段を
暗く静かな階段を進んでいる間、僕は何やら、不思議な感覚に
さっきの
そんな
やがて僕は、
◇ ◇ ◇
その場所は小規模なホールといった雰囲気で、薄暗い上の酒場とは打って変わり、明るい照明が
しかし、なによりも――。僕の視線は、この空間の中で
背丈は先ほどの孤児と同程度だが、やや耳が
どうにも目の
僕は仕方なしに、少女の方へと近づいてゆく。
――すると僕の気配に気づいたのか。
不意に彼女が振り向いて、元気よく右腕を挙げてみせた。
「おっすー! 人が来るなんて珍しいね!
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