第9話 タイムリミット
エレナの体内に、新たな
僕の――アインスの遺伝情報を継承した、
◇ ◇ ◇
それから三日後。僕がミストリアスで過ごす、二十日目。
僕らは王都の教会にて、ささやかな婚礼の儀式を受けることにした。
「
「はい。誓います」
教会の聖職者・
続いて彼は、僕に対しても同様の質問を投げかける。
「汝、偉大なる古き神々の忠実なる
永遠……?
いまの僕が〝アインス〟でいられる時間は、もう〝十日〟しか残されていない。
僕が消えてしまったら、その後はどうなってしまうのだろうか?
「……はい。誓います」
エレナの不安げな視線に気づき、僕は平静を
やがて光は何事もなかったかのように治まり、それを確認した
「おめでとう。
なんだか事務的だったというか。思っていたよりはあっさりとしていたけれど。これで僕らは夫婦となり、晴れて正式に結ばれることができたようだ。
僕らは
◇ ◇ ◇
教会の外では小さな子供たちが、布や棒切れを持って元気に走り回っていた。
エレナが言うには、この教会では孤児院も運営されているらしい。
「私たちの子供。楽しみだねっ」
「ああ。……うん、とても。楽しみだ」
「どうしたの? アインス。――なにか心配ごと?」
「いや……。ごめん、帰ったら話すよ」
僕は心配げなエレナの額に口づけし、二人で農園への
そんな自宅までの道中。僕は集中的に
◇ ◇ ◇
農園の我が家。今は新たな夫婦の寝室となった二人部屋。
僕らは片側のベッドに腰掛け、これからのことを話し合うことに。
その前に。まずはエレナに、僕の――アインスの今後について、改めて話しておかなければならない。
当初は〝
これらの内容を要約し、僕はエレナに説明をした。
「えっと……。アインスはアインスだけど、今のアインスじゃなくなっちゃう――ってこと?」
「そう……なるかな。ごめん、言い出せなくて。気づいたら、僕はエレナのことが大好きになってて……」
「ふふっ。私も大好きだよ。――あなたが旅人だってことは理解してたし、私のお父さんも
エレナは
「お母さんはお父さんを変わらず愛し続けたし、お父さんは私を
「そうか。……それじゃ僕も、
僕は言いながら、エレナの茶色の髪を
すると
「ごめんね……。
さすがに
確かに、僕自身の腕で我が子を
それは誰のせいでもなく、どうにもならないことなのだ。
「ありがとう、エレナ。――僕の夢を叶えてくれて。それだけで満足だよ」
僕は愛する人を抱きしめながら、思いつく限りの感謝の言葉をかけ続ける。
彼女のおかげで、僕は本当の意味での〝人間〟になれたのだろう。
いくら感謝しても足りないくらいだった。
◇ ◇ ◇
その翌日より。
僕は新たなる家族のために、さらなる農地の開拓をはじめた。
あのシルヴァンの言ったとおり、
「ここはアルティリアカブとサラム
幸い、土や根を掘ることには慣れている。
しかし命令されるがまま、ただ無気力で掘り続ける
◇ ◇ ◇
こうして汗を流しながら荒地を耕していると、バスケットを持ったエレナが、僕の様子を見にきてくれた。
「おつかれさまっ、アインス! お弁当持ってきたよ。ちょっと休憩しよっ?」
「ありがとうエレナ。それじゃ、そうさせてもらうよ」
僕は
甘辛く炒めた野菜を柔らかいパンに挟んだシンプルな料理だが、
「
「えっ? うーん。なんだろ? テキトーに作っちゃってるから……」
エレナはそう答え、考え込むような仕草をする。
「あっ! でも、ちゃんと愛情は込めてるからねっ?」
「うん。……いつもありがとう」
僕は幸せな休息を終え、再び作業に精を出す。
もう残り少ない、この喜びを
◇ ◇ ◇
その後も充実した日常が続き、ミストリアスへ来て三十日目の朝。
ついに僕にとっての、最後の日がやってきた。
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