第6話 最初の選択肢
農園から続く道を抜け、僕とエレナはアルティリアの王都に到着した。
城門の前からは右手方向――すなわち南へ向かって
「へぇ、
「
どうやら付近には、もう一つ街があるようだ。かなり興味は
「まずは王都を案内するねっ。行こっ!」
エレナは
収納時に物体を分解し、取り出す際に再構築しているのか?
それとも、別の空間層を利用している?
こうした仕組みならば、すでに現実世界でも使われている。地下は狭いうえに、植物の根によって荒らされたり破壊されてしまう。世界統一政府の
――とはいえ
僕がバッグに対する思考を
◇ ◇ ◇
「着いたよっ、ここが中央広場!」
広場の中央には巨大な
僕らの周囲では街の住人や労働中らしき服装の人物らが次々と行き来し、ベンチで休憩や読書を始める者もいる。中央との名を
「あの真ん中の
視界にある建造物を指さしながら、エレナが説明をしてくれる。
正直、中身のある内容とは思えないけれど――僕のために一生懸命に話す彼女の姿を見ていると、なんだかとても愛らしく思えた。
「アインスは行きたいところとか、ある?」
「そうだなぁ、やっぱり商店街あたりが気になるかな」
「わかった! 目的のお店もそっちだし、行ってみよっか」
エレナは再び僕の手を掴み、向かって左側――街の北側へと続く
◇ ◇ ◇
賑やかな人波を
露店からは料理の良い香りが漂い、客や店主の威勢の良いやり取りが飛び交う。
この場所のそこら中から、活気や生命力が伝わってくる。
生気も無く、ただ命じられるがままに
「あっ、何か食べる? ちょっと待っててね」
そう言ってエレナは
これは、恥ずかしい姿を見せてしまったかな……。僕は
「はいっ、お待たせ!」
しばらくするとエレナが戻り、紙で包まれた料理を手渡してくれた。
彼女によると、外側の紙は防腐や防水処理の施された
僕は彼女に礼を言い、それを一つ口へ運ぶ。
どことなく
「
「でも?」
「エレナの料理の方が、僕は好きかな」
そう正直な感想を述べるや、エレナが照れた様子で僕の腕を軽く
僕は危うく紙包みを落としかけたものの、どうにか死守することができた。
「もうっ……。また作ってあげるから。……いつでも、ずっとでも……」
「……え? うん、ありがとう。楽しみにしてるよ」
最後はよく聞き取れなかったけれど。
また、あの料理が食べられるのは楽しみだ。
その後は二人で残りを平らげ――。
僕らは再び、商店通りを進むことにした。
◇ ◇ ◇
再度の商店通り。ここには
やがて僕らは目的の店を発見し、扉を開けて中に入る。
店内はエレナの家のリビングと同程度の広さで、
主に旧世紀の映像記録で
エレナは瓶の一つを迷いなく手に取り、店員のいるカウンターへと向かう。
「アインスも、なにか買う?」
購入の手続きを終えたエレナが、自身のポーチへ品物を仕舞いながら
「お金、その〝お
そのように言われて確認してみると――。僕の財布の中には胴や銀で形成されたと
「ほんとだ、いつの間に……。どうなってるんだろ?」
「うーん。お財布だから……とか?」
この世界の住人であるエレナ自身も、詳しい仕組みは知らないようだ。
ついでに財布と共にベルトに着いていた〝小さなポーチ〟を開いてみると、中には小さな薬瓶が二つと、折り
いずれもポーチに入る体積ではないうえに、僕は
◇ ◇ ◇
その後は二人で店内を見てみたものの――。
結局、僕は何も買わないまま、とりあえず店を出ることにした。
意外と時間が
「長居してしまったかな。ゼニスさん、大丈夫かな?」
「いつもこれくらいの時間になっちゃうし、平気だと思うけど……。心配してくれて、ありがとね」
◇ ◇ ◇
僕らは来た道を引き返し、再び〝噴水広場〟へと戻ってきた。現実世界では
「それじゃ、これから帰るけど……。えっと、アインスはどうする……?」
「うん? どうするって?」
「その……。ランベルトスに行きたそうだったから。旅に出ちゃうのかなって……」
なるほど。確かにそうすることも
僕がミストリアスに居られる時間は限られている。
この不思議な世界を見て回りたい気持ちは、当然ある。
いわばここは、今後の展開を決める大きな
しかし……。
僕は悲しげな表情でこちらを見つめているエレナから、眼を
「僕も一緒に戻るよ。エレナと一緒に」
「えっ……。いいの……? ほんとに……?」
僕の選択を口にすると、エレナの表情が見る間に明るくなる。
そして涙を浮かべながら、僕に抱きついてきた。
「あっ……、嬉しくって……。ごめんなさい……」
「はは、こちらこそ。それじゃ帰ろう」
僕の選んだ最初の
この選択の先に、どんな未来が待っているのかは分からないけれど。
僕は心に小さな喜びを感じながら、二人で農園へと戻るのだった。
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