030:とある村の倉庫にて(オオタ)


 ――タカシたちが溶岩の中から鬼の死体を掘り出していた、その頃。


 スーベル村からは遠く、別の村にオオタはいた。


 仕事のためだ。


「ケッ、シケた村だなぁー?」


 ナルハヤ商会が目をつけていた村を支配するために派遣されてきたオオタだったが、それはすぐに終わった。


 情報ではもっと大きな村の予定だった。

 だが資源も人口も少なく、オオタの鬼たちはあっという間に村の全てを支配したのだ。


「俺様がわざわざ田舎まで来てやってるのによぉ……」


 オオタは組織では末端。

 元の世界と同じでただの平社員である。


 上からの命令には従うしかないが、田舎での仕事は退屈だった。


「この世界には飛行機もねぇし電車もねぇ。移動が退屈すぎてストレスだぜ!」


 なのでオオタはそのストレスを発散するために村の小屋に来ていた。

 農業か何かで使われる倉庫らしく地面は土だ。


 すでに村での仕事は終わっており、後は報告のために商会本部に戻るだけだった。


 これはそれまでのちょっとした遊びである。


「さて、村長さんよ。テメェの村はそっくり俺様のモノになっちまったワケだが、今の気分はどうだ? どんな気持ちですかぁ? ギャハハハ!!」


「うっ……うぐ……」


 村の長は若い男だった。


 男はオオタの目の前で血まみれで倒れている。

 ストレス発散としてオオタに暴力を振るわれたからだ。


 薄暗い建物の中にはオオタと男。

 そして男の妻と幼い娘がいた。


 本来なら支配された相手は抵抗もできない。

 だがあえて今はこの3人の支配をゆるめている。


 そうでないと遊べもしない。


「おーい、聞いてるか? ヒマでヒマでしょうがないんだ。遊んでくれよ、村長さんよぉ」


 血だらけの頭をゴツンと蹴る。


「も、もう止めてください!! その人が何をしたと言うのですか?!」


「や、やめろっ……!!」


 妻がかばうように駆け寄ろうとしたのを止めたのは村長だった。


「村はもう、助からないのだろう……アンタの能力に俺たちは抵抗できないようだ。だったら、俺はもうどうなっても良い。村と一緒にアンタのモノになる! だから、せめて妻と娘だけでも見逃してくれないか……? 俺はアンタのためになんだってする!!」


 村長はオオタにそう訴えかけた。

 土下座のように頭を地面にこすりつけている。


「ほう、だったら証明して見せろ。何だってするんだろ?」


 オオタはそれをニヤニヤと笑いながら眺めた。

 オオタにとって人間の尊厳を踏みにじってやるのが最高の娯楽だった。


「我々は嘘などつかない。どうすれば信じる?」


「そうだな……とりあえずコレでも食えよ」


 そう言ってオオタは靴で地面を蹴り、土の塊を村長にぶつけた。


「おいしくいただけよ? 俺様のために。そうしたら約束してやる。そこの2人は壊さないで置くってな」


「わかった…………ならば、いただこう!」


 ――ジャリ!


 村長は目の前の土の塊に食らいついた。

 最初から言いなりになる以外の道はなかった。


「アナタ……!!」


「うげっ、ホントに食いやがった!! ギャハハハハハ!!」


 ――ジャリジャリ、ゴクン。


「ゲッ、ゴホッ…………食べたぞ! 約束だ! 妻と娘だけは、どうか……!!」


 村長は吐きそうになりながらもそれをこらえて全てを飲み込んだ。


「いいねぇ、男だねぇ! これはビジネスだ、契約を結ぼうじゃねぇか。来いよ」


 オオタが手招きする。

 村長は血だらけの身体に鞭を打って立ち上がり、その側に歩きよった。


 すると自然と小柄なオオタを見下ろす格好になる。


「おい、なに見下ろしてんだテメェ……?」


 それがオオタの逆鱗に触れた。

 あまりにも理不尽な仕打ちである。


「えっ……?」


「頭が高いんだよ、クソがぁ!! 誰を見下してんだクソ野郎!!」


「ぐはっ!? な、なにを――」


「身長があるとエラいのか? あぁん!? 身長170cmないと人権ないのかよぉ!?!? なんとか言えよオラァ!!!! 人が優しくしてやったら調子に乗りやがって死ねクソがぁ!!!!」


「ぎゃっ、がっ!!」


 ――ドゴッ、バキッ、グシャ、ゴキッ!!


 支配によって体の自由を奪い、一方的に殴る蹴るの暴行。

 村長は二度と動かなくなった。


「はぁ……はぁ……クソが。ムダにデカいだけの異世界人が!」


「…………ッ!!!!」


 無残な父の姿を見せないようにと、妻は幼い娘の頭を抱きしめた。

 唇を噛み、悲鳴を押し殺した。

 それでも涙だけはこらえきれずに流れていた。


「…………」


 娘はこの小屋に連れて来られる前に泣き叫んだため、オオタの支配を受けて今は泣くことも叫ぶこともできなくされていた。

 母親の身体越しに、父親が惨殺される姿が見えた。


「はぁ~……でも動いたらスッキリしたな! ありがとよ村長!」


 そう言ってオオタは動かなくなった村長の頭を踏みにじった。


「安心しろ、もちろん契約内容は守るぜ? 俺様たちはビジネスマンだからなぁ……まっ、俺様が壊さなくても客に壊されるだけなんだけどな!! ギャハハハハハハハハ!!!!!」


 下品な笑い声を小屋に響かせた。

 ニヤニヤと薄汚い眼で妻と娘を舐めるように値踏みする。


「うんうん、良いねぇ! 安心しろよ、テメェの家族は高く売れるぜぇ? 顔も体も良い女だ。ガキにも需要はあるからな! 良く育てた!! 約束通りちゃーんとテメェは俺様の役に立ったってワケだ!! ギャーハハハハ!!」

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