029:ドリルもあるよ!
「これが鬼か」
「ひぃ~……おっきい……」
村人たちに囲まれて、分厚い溶岩石の中でその鬼は死んでいた。
ヤマダはタカシの背中に隠れながらそれを覗き見ている。
案内されたのはタカシが思った通り、屋敷の近くに流れ込んだマグマの跡だった。
鬼はいつもその場所にいて、常に村を監視し、村人たちを操り続けていたという。
「そうです。それは大きな鬼でした。青い体で、10メートルはある大鬼です。疲れを知らず、眠らぬ怪物でございます」
黒い溶岩の中にあるのは人間の大人ほどはある巨大な顔だった。
それでもまだ掘り出している途中らしく、顔の半分ほどは溶岩石の中に埋まっている。
「溶岩石が硬すぎて中々掘れないのです。ですが間違いなく死んでいることは確認できました」
「これで安心だ! 俺たちは本当に自由になったんだ!」
村人たちが安堵の涙を流していた。
「さっさと掘り出しちまおう」
「そうだな。明日までには間に合わせたい」
「よっし、まかせとけぃ!」
案内してくれた男が興奮冷めやらぬ様子で発掘作業を再開した。
手に持っていた棒の先には三角錐のような金属が付いている。
その金属部は高速で回転していた。
――ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!
「……ドリル?」
ドリルのような道具を持っていると思っていたら、それは本当にドリルだった。
そのドリルは自動で回転しているようにみえた。
男はそれを回すのではなく力任せに押し付けるだけで溶岩石を削っている。
少なくとも見た目と機能は完全にドリルなのだが、タカシの知っている機械のドリルとは仕組みが違うようだ。
機械のような大きなパーツはなく、代わりにドリルの近くに小さな丸いガラス球のようなモノだけがある。
どうやって動いているのか、タカシが見た事のない不思議な構造だった。
「そそそそうです、ドドドドリルです! すすすすごいパワーですよっ!!」
若い男は振動で震えながら笑顔で答える。
作業を止めている暇はないらしく、村長が代わりに説明をしてくれる。
「さすが救世主さま、都会の魔道具もご存じでしたか。このドリルは魔石を使った高級品で、これ1つで家が建つそうです」
「えっ!?」
ヤマダがその価値にピクリと反応していた。
この世界で1ヵ月以上も貧乏生活を続けていたせいでお金には敏感になっているのだった。
「ですがそれでもこの溶岩石は中々掘れません。さすがは神の山。炎神の涙ででございます」
火山はこの村にとって崇拝の対象となっている。
恐らく村に伝わる神話などがあるのだろう。
村人にとってはこの冷え固まったマグマすらも神聖な物であり、凄まじい力を持っている物質なのだ。
元の世界ならただの伝説だと考えるタカシだが、この世界ではそうも言いきれない。
事実としてこの村は火山による被害を少しもうけていない。
本当に神が宿っているかのような不思議な力を持っていてもおかしくはなかった。
「掘るの、手伝うよ。みんなは労働で疲れているだろうし」
「い、いえ! 救世主さまにそんな……!!」
「大丈夫。頼れるパートナーがいるから」
そう言ってタカシが振り返る。
ヤマダは顔を赤らめて目を輝かせた。
「せ、先輩……! ま、まかせて――!」
「ゴーレム!! コイツを掘り出してくれ!!」
「ゴー!」
村の入り口で待機させていたゴーレムに指示を出すと、村の建物を傷つけないように小さくなったゴーレムがタカシたちのそばまでやって来た。
「ん? ヤマダさん、今なにか言った?」
「な、なんでもありません!! 分かってましたよ、分かってました!!」
村人たちに少し離れてもらい、ゴーレムが巨大化できるスペースを確保する。
「仮面を外さぬようお気をつけください。鬼の目を見ると操られてしまうのです。もう死んでいるでしょうが、どんな力を持っているか得体が知れません」
鬼は石のような仮面をかぶっていた。
仮面には大きな1つ目の模様が描かれている。
「わかった。気をつけるよ。ゴーレム、頼む」
「ゴー!」
ゴーレムは腕だけを巨大化し、鬼の頭を掴んだ。
その姿に村人たちが歓喜の声を上げた。
「おぉ、なんと不思議な」
「これが神の使いか!」
村人たちはゴーレムにすら祈りを捧げ始めるが、肝心のゴーレムはそんなことなど気にせず力任せに鬼の頭を引っこ抜いた。
――バコォッン!!
溶岩を砕き、鬼の頭の全貌が明かされる。
その表面は焦げついているものの、マグマに焼かれたとは思えないほどきれいに形を保っていた。
「お、おぉ!! 大人たちが10人がかりで砕いた溶岩石をあんなに簡単に……!」
「なんという力! ドリルでもなかなか削れなかったというのに……!!」
「すごい! さすがは救世主さまの使いだ……!!」
「さすがです先輩!!」
ゴーレムのパワーはドラゴン以上だ。
少し硬くても、岩を砕くなんて簡単だった。
「念のため残りの身体も掘り出そうか」
「ありがとうございます。本当に助かります」
「良いって。あ、お辞儀やめてね? ここすごいゴツゴツしてるからね!?」
村長のアフマルが溶岩石の上だろうと額をこすりつけようとするのでタカシは慌てて止めた。
「……あれ? そういえば、オオタはどうしたんだ?」
鬼の死体は見つかったが、そもそもその主である男の姿はどこにもない。
村人たちの口ぶりからしてもオオタが死んだワケではなさそうだった。
「あの男はこの鬼を残して本部に戻っておりました」
「本部? 単独行動じゃなかったのか」
「私たちもあまり知ってはおりませんが、オオタは大きな組織の一員のようです」
アフマルは申し訳なさそうに言った。
「なるほどな。オオタ以外にも外道みたいな連中がいるってことか。ヤマダさん何か知ってる?」
「いえ、そういう組織の話は私も聞いたことないです……でも、ありえますよね。だって私たちの会社の人間もこの世界に迷い込んでるんですから」
「そうなんだよなぁ……」
そう考えると嫌な気分だ。
異世界に来てまでもブラック労働に悩まされることになるとは思っていなかった。
そしてその気持ちはますます強くなる。
「確か、オオタはこう名乗っておりました。『ナルハヤ商会』と」
それはタカシが嫌いな言葉だった。
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