1-4/スーベル村
027:ここはスーベル村です
日が明ける頃には火山の噴火活動は収まり、煮えたぎるマグマも全て冷えて固まっていた。
「見てください、先輩。アレだけの噴火だったのに、この村はあのマグマ以外は無傷です。ただの偶然でしょうか?」
タカシとヤマダはゴーレムの肩に乗って村の周囲を見回っていた。
村の半分を飲み込んだマグマはそこで動きを止め、そのまま固まって溶岩石となった。
火山弾による火災も村の付近では起こっておらず、それどころか建物が1つも噴石を受けていない。
まさに奇跡のような状況である。
村の周囲には綺麗なままの森が残っていた。
ぽっかりと不自然なくらいに綺麗なままの自然が残っているその様子は、タカシたちには村の周囲が異質な空間にも思えるような光景だった。
「ここまでくるとただの偶然……とは思えないよな。ここの村人たちにとって都合が良すぎる」
結局、村人たちは誰も避難しなかった。
そして死者どころか1人のケガ人もでないまま朝を迎えたのだった。
それどころか村に決定的な利益を与えている。
「スキルやモンスターが実在してる世界です。この世界なら本当に神のような存在がいてもおかしくないですよ」
「そうなんだよな」
タカシもヤマダと同じように考えた。
この世界には元の世界の常識は通用しない。
「……でも俺は神なんかじゃない。ただの人間だ」
「先輩のスキルはゴーレムですもんね。だとしたら、火山になにか秘密があるのでしょうか? 先輩はその引き金になっただけで……」
「考えても分からないからな。村の人たちに聞いてみるしかないか」
「あの人たちなんか怖いですよぉ~!」
「大丈夫だよ。ヤマダさんは俺が守るから」
「せ、先輩っ……(キュン)」
ゴーレムに乗ったまま村に戻ると、タカシが声をかけた老人がそれを出迎えた。
タカシが声をかけた老人は村長だった。
「おかえりなさいませ、救世主さま」
「ただいま」
恥ずかしい呼び方は止めて欲しいタカシだったが、村人たちは聞く耳をもたなかったので受け入れている。
「朝食を用意しております。ぜひ、お召し上がりください」
「ありがとう」
「それではこちらへ」
案内されたのは村長の屋敷だ。
村の中でも最も山に近い位置に建てられた大きな建物で、同時に山の神に祈りを捧げるための祭壇でもあるらしい。
火口からマグマが流れ込んできた方角に建てられているにも関わらず、その屋敷は全く被害を受けていなかった。
マグマは建物を避けるようにして進み、村に流れ込んだようだった。
冷えて溶岩石となったその川の形は不自然にも見える。
「おぉ、救世主だ!!」
「救世主さま、ありがとうございます!!」
屋敷へ向かっている途中、その溶岩石を掘っている村人たちから祈りを捧げられた。
とりあえず手を振って答えているが、それが正解なのかはタカシ自身も良く分かっていなかった。
「どうぞ、村で一番の狩人が獲ったワイルドボアの希少部位のステーキでございます」
「こちらは村で育てたヤギのミルクで作ったミルクスープですよ」
「畑で摘みたてのレッドベリーを使ったジャムをどうぞ」
「妻が焼いたクッキーです」
朝からおもてなしの気持ちが強すぎる豪華なフルコースだった。
「す、すごいですよ先輩っ!! ワイルドボアってオークより高級なんですよ!?」
高級なお肉のメインにスープ、デザート。
災害にあったばかりだとは思えない贅沢な食事だが、被害がないのだから関係ないのだろう。
屋敷の外では村人たちが当たり前のようにいつもの生活を続けている。
「いただきます! ん~~~~! おっ、お肉が口の中でとろけますぅ~~!!」
村人の事は怖がっていたヤマダだが、その食べ物には臆せず手をつけていた。
どうやら恐怖を食欲が上回ったらしい。
「さぁどうぞ、救世主様も!」
「お召し上がりくださいませ!」
ここまでされてはしっかり食べない方が逆に失礼だろう。
タカシもヤマダを見習ってステーキを食べた。
「いただきます」
ヤマダの焼いてくれたオーク肉のガツンとした美味しさとはまた違う。
柔らかくて繊細な甘みのある肉が口の中でとろける。
脂をたっぷりと含んでいるからか、歯が要らないとさえ思えるような柔らかさだった。
「うまい」
「最高です~!」
2人が食事を楽しんでいると、再び村長が現れた。
「お召し上がりいただき光栄でございます、救世主様。改めて私からご挨拶をさせてください」
そう言って頭を下げる。
「ここはスーベル村です。私は村長のアフマルと申します」
「あ、タナカです。ご丁寧にどうも」
「あ、私はヤマダです。よろしくお願いします」
村長が頭を下げて名乗ると、とっさにタカシとヤマダも頭を下げて名乗り返してしまった。
どうしようもなく体に染みついた社会人としてのクセである。
「いけません、神々のお名前を聞くなどと! 私たちには恐れ多い!!」
「だから俺は神なんかじゃないって」
タカシは村でずっとそう否定し続けていた。
そのおかげで「神様」から「救世主」にランクダウンしてもらったハズだったのだが、本質的には神として扱われているままだった。
目の前のごちそうもその1つである。
これは英雄へのもてなしではなく、神への捧げ物なのだろう。
「いいえ、アナタはこの村を救ってくださった。あれは神の力でございます! この村を救っていただき、本当にありがとうございます!!」
そう言って村長アフマルが頭を地面にこすりつける。
「わかったからもう頭をあげてくれ」
村長はタカシの言葉を素直に聞いて頭を上げた。
その額は赤くなっていた。
このやりとりも何度目か分からない。
ここは床が地面じゃないだけマシなほうだった。
「そもそも、その村を救ったってのも良く分かっていなんだけど、どういうことなんだ?」
まだ聞けていなかったタカシの問いかけに、村長はゆっくりと口を開いた。
言葉を選ぶようにして続いたのは物騒な話だった。
「それは、鬼でございます。救世主様がマグマで鬼たちを焼き殺してくださったのです」
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