026:焼けて行く村の中
「たたた大変ですよ、先輩!! マグマがあんなに近くまでっ……!!」
噴火によって被害を受けた村。
すでに半分以上がマグマに飲まれているように見える。
だが妙だった。
「……なんで誰も逃げてないんです!?」
その村からはタカシが想像していたような悲鳴は聞こえなかった。
そもそも逃げ惑う人々の姿もなかったのだ。
その静けさは不気味ですらあった。
「とにかく助けよう。ゴーレム、降ろしてくれ」
「ゴー」
「ヤマダさんはゴーレムとココで待っててくれ!」
「ダメです、私も行きます! 村の人たちを放っておけませんよ!」
「……わかった。ヤバくなったらすぐ逃げてくれよ?」
「先輩こそ!」
タカシたちはゴーレムから降りて村に走った。
あちこちで火の手があがる村の中は真夏のように暑かった。
「ここは危険だ! 速く逃げろ!」
「マグマが来てますよ! みなさん逃げてくださーい!」
そう声をかけて回るが、誰も聞く耳を持ってはいなかった。
「おぉ、山の神よ! 我らが火の神よ!」
「大いなる赤き力! ありがとうございます!」
「カルブンクルス様!! カルブンクルス様!!」
祈りに夢中で声が聞こえていないのだ。
ある老人は手を合わせて天を仰ぎ。
ある子供は頭をこすって地に伏せて。
逃げることなど考えもせず、ただ流れてくるマグマへと祈りを捧げていた。
「クソッ……! このままじゃヤバいぞ……!!」
「先輩、どうしましょう!?」
火口からあふれるマグマはまだ止まっていない。
増え続けるマグマがすでに村人たちの近くまで迫っていた。
「アイツだ……!」
タカシは村人の中の1人に狙いをつけた。
それは祈りの中心にいた一人の老人だ。
痩せていて背の高い白髪の男だった。
「おい、話を聞いてくれ!!」
タカシはその肩をつかんだ。
少し乱暴になったが、そうでもしないと祈りが止まらない。
「おや……?」
祈りの姿勢のまま小さく振り向いた老人はタカシたちを見ると、スーツという異世界の服装を見てほほ笑んだ。
「おぉ、旅の人よ。こんなめでたい日によくぞいらした。どうです、一緒に祈りませんか?」
少しも慌てる様子などなく、老人はそう言ってきた。
タカシには信じられない言動だった。
こんな時に祈っていたらマグマに飲まれるだけにしか思えない。
「めでたい……? 祈るのは後にした方がいいんじゃないか? ここにいたら焼け死ぬぞ!?」
何を考えているのかは分からなかったが、言葉は通じるようだった。
タカシはできるだけ相手のペースに合わせ、落ち着いた声色でそう話しかけた。
ヤマダもタカシの意図を組んで声色を合わせる。
「そうですよ。みんなで逃げましょう!」
だがタカシたちの焦りは全く伝わらなかった。
「そんなことはありません。山が我々の命を奪う事なんてありませんよ。山は我々を救ってくれたのです」
「は……? いや、でも目の前で噴火が……!」
「そうです! これこそがまさに、カルブンクルスの涙!! 我々がずっと待っていた赤い力なのです!! これこそが救い! 我らを解放してくれた!」
「ひっ!?」
さっきまで落ち着いていた老人が急にテンションを上げて天を仰ぎ出す。
ヤマダが驚いてタカシの背中に隠れた。
「山の神、か」
どうやらマグマへの祈りはこの村の宗教的な行動なのだとは分かった。
だとしたら通りすがりの他人の言葉などなんの力も持たないだろうとも理解する。
だが、だからといって見殺しにはできなかった。
タカシはこれが最後だと思い、声を張り上げた。
「わかった。でも、とにかく今は逃げてくれないか? この噴火は……俺の責任だ! だから避難の手助けをさせてくれ! 俺は1人でも多く助けたくてここに来たんだ!!」
「おや、旅の人。なぜ君の責任なのです?」
無意味だと思っていた言葉に老人が興味を示した。
「この噴火の原因が俺にあるからだ」
「いいえ、これは神の意思です」
老人はそれまで以上に眼を見開いてタカシを見ていた。
その目は笑っているようにも睨んでいるようにも見える。
「…………」
老人が沈黙する。
タカシの次の言葉を待っていた。
説明しても全てを信じてもらえるとは思わない。
それでも誠意を表すには正直に話すしかない。
始めからタカシはそう考えていた。
「俺が……俺のゴーレムがドラゴンを吹っ飛ばして山にぶつけてしまったんだ。それで火山が噴火してしまった。だからこの噴火は俺の責任なんだよ」
老人の唇がかすかに震えた。
「き……アナタが火山を噴火させたと?」
「そうだ。火山を噴火させたのは俺だ」
タカシの背中に隠れていたヤマダもそれには口を挟まずにはいられなかった。
私がドラゴンに襲われたから。
先輩はそれを助けようとしてこんなことになってしまった……と。
タカシだけに全ての責任を負わせるワケにはいかないと思ったのだ。
だがそんなヤマダの想いは言葉にはならなかった。
タカシの言葉を聞いた途端……その瞬間、ピタリと村中から声が消えたのだ。
「……えっ?」
ヤマダはその異様な気配にゾワリと寒気を感じ、言葉がでなかった。
(ひぃ!? な、何なんですかぁ!?)
そして次の瞬間、村人たちの全ての視線がギョロリとタカシに向けられた。
「おぉ、神だ! 救いの神が顕現なされた!!」
「この方こそが我らを救ってくださった火の神様だったのだ!」
「あぁ、なんと凛々しいお姿でしょう!! 伝承の通りの神々しさよ!!」
「ありがたや、ありがたやぁ……!!」
そして視線だけではなく、全ての祈りがタカシに向けられることになった。
最初から村人たちが祈っているのはマグマではなかった。
正確にはそのマグマの先にある火山だったのだ。
……そしてその対象は、たった今変わった。
火山の噴火を引き起こした張本人、タカシへと。
「ひぇぇぇ……! なんなんですかぁ!? この村こわすぎますよぉ!?!?」
あまりの恐怖にヤマダがずっと我慢していた心の声がこぼれた。
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