025:火山が大噴火


「ゴー!」


 グッっと親指を立てて「どや?」と振り返るゴーレムの背後では、遠くにそびえたっていた火山が爆発音を轟かせて真っ赤なマグマを噴き出していた。


 森が夜なのにまるで昼のように明るくなった。


 ――ゴゴゴゴゴゴ……。


「……なんか大変なことになったんだが」


 呑気にポーズを決めている場合ではない。

 ゴーレムはまるで状況を理解していなかった。


「ほ、本当ですよ! 大変ですよ先輩!! あの山の麓には村があるハズなんです!!」


「えっ!? 冗談だろ!?」


「本当ですって!」


 噴火は天災だ。

 森だけでも大きな被害になるのに、近くに人の住む集落があれば大惨事だ。


「どどどどうしましょう!?」


「落ち着け! その村がどうなってるか分からないけど、放ってはおけない……とにかく行ってみよう!」


「は、はいっ!」


 もちろんタカシも焦ってはいた。

 だが、非常時に必要なのは情報。


 どうするべきかは集めた情報を元にそれから考える。


 それがタカシの仕事術だった。


「村の人たちが逃げ遅れてたら危ない。急ごう……!!」


 夜の災害は被害が大きくなる。

 ゴーレムの行動とは言え、それを作ったのは他でもないタカシ自身だ。


 少しでも被害を抑えたい。

 さっきなんか脳内で声がしていたが、ログを確認する余裕なんてタカシにはなかった。


「ゴーレム、俺たちを運んでくれ!!」


「ゴー!」


「ほら、ヤマダさんも!」


「は、はいっ!」


 ドラゴンと戦える状態まで巨大化しているゴーレムならタカシだけでなくヤマダも運べる。

 タカシとヤマダはゴーレムの手に運ばれ、その肩に乗った。


「ヤマダさん、明かり頼む!」


「はい! レッド・スパーク!」


 ヤマダには火のついた棒を用意してもらい、松明として使う。

 ゴーレムの肩に数本の松明を突き刺した。


 噴火のせいで明かりは必要ないくらいだったが、念のためだ。


「ギャア!!」


「ギヒィィィィ!!」


 ゴーレムが2人を肩に乗せて立ち上がった頃、その足元を小型の生き物が走り去っていった。


「……な、なんです!? モンスター!?」


「怯えてるみたいだ。きっとあの山から……噴火から逃げてるだろう」


 モンスターたちは山から離れるように逃げていく。


 森には噴火の衝撃で吹き飛ばされた噴石や、マグマが上空で冷え固まった火山弾が凶悪な雨のように降り注いだ。

 大きなものはまるで隕石のようで、落下の衝撃で地面を揺らしている。


「ゴー!」


 ――バゴッ!!


 ゴーレムはタカシたちを守るように降り注ぐ巨石を砕いてくれていた。


 ――ジュー……。


 火山弾はマグマが冷えて固まったモノだが、冷えたと言ってもまだ高温である。

 ゴーレムが砕いた岩の欠片すらも地面の草木を焦がすほどだった。


「ヤマダさん、村への道は分かるか!?」


「村への『導石』しるべいしがあります! 使ってください! その石を割ると光が村まで進みますから、追いかければ村に行けます。でも使い捨てですから、見失わないように気をつけて」


「わかった! ゴーレム、追えるな!?」


「ゴー!」


 戦闘以外での指示には不安が残る。

 だが今はゴーレムを信じるしかなかった。


 ゴーレム無しではこの石の雨を生きて進めるとは思えない。


 すでに火は森の至る所に広がっていた。


「よし、行くぞ!」


 ――バキン!


 ヤマダから預けられた小さな石に力を込めると、それは簡単に砕けた。


 中から光の球が出てきて、残光を残して山の方へを飛んでいく。


 それを追ってゴーレムは歩き出した。


 光は追いやすかった。

 ゴーレムに吹き飛ばされたドラゴンがすでに大きな道を作っていたからだ。


 ――ズン、ズゥン……!!


 人間なら走らないと見失いそうな速度で導光が進む。

 けれど巨大なゴーレムの歩幅なら歩いても余裕があるくらいだった。


「ひぃぃ……けけけけっこう高いんですねぇ!?!?」


 ヤマダは震えながらタカシに抱き着いていた。


 今のゴーレムは森の木々よりも背が高い。

 おかげで周囲の状況を把握するのには好都合だったが、ヤマダにとっては恐怖が勝っていた。


「……ヤマダさん、もしかして高いの苦手?」


「ちょ、ちょっとだけですけど!?」


 そう言うヤマダは涙目だった。

 唇も真っ青である。


 少しも大丈夫そうではなかった。


 突然の事態に混乱していたヤマダは忘れていたのだ。

 自分が高所恐怖症であることを。


「ヤマダさん、しっかりつかまってて」


「……は、はひっ!!」


 タカシはヤマダを抱き寄せた。

 ヤマダの脳内で高所がどうでも良くなるくらいに互いの身体が密着する。


「ゴーレム、ヤマダさんをしっかり守ってくれよ!!」


「ゴー!!」


 ゴーレムは片手を傘にして2人を守った。


 ――ドゴン!


 ――ボゴンッ!!


 噴火は続いている。

 導光に従って山に近づくほどにその被害は増して行く。


「あっ、見えてきました……!」


「あれか……」


 ゴーレムのおかげで山の麓へはすぐにたどり着けた。


 そこにはマグマに飲まれた村があった。


「これは……た、たいへんですよ!」


「マズいな……村人たちは……?」


 ゴーレムに乗ったまま、村の様子を探る。


 すると、そこには異様な光景が広がっていた。


「なんだ……?」


 村の半分を飲み込むように流れ込んだマグマ。

 飲み込まれた建物が火を吹きながら燃えている。


 人々はそんな光景に手を合わせ、そして頭を下げていた。


 村人たちは噴火によって作られた赤い川に、まるで感謝するかのように祈りを捧げていたのだ。

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