024:初めて、もらっちゃいました。


「今までで最高の食事だった」


 話しを逸らすために出た言葉だったが、その言葉はしっかり本心でもあった。


 ヤマダの焼いてくれたオークの肉。

 味付けして焼いただけのシンプルな料理である。


 だがタカシにとっては最高のご馳走になった。


 食べ終わるのは本当に一瞬だったし、もっと味わって食べれば良かったと後悔するくらいには最高の食事だったのだ。


「そんなに喜んでもらえたなら良かったですけど……なんか大切な事を誤魔化されたような気がします!」


「気のせいだ。それにしても、あれがオークの肉なんだな……。オークってモンスターだよな?」


「そうです。でもこの世界では普通に食べられてるみたいです。美味しいですよね」


 ファンタジーゲームなんかでよく見るからなんとなく想像がつく。


 タカシの脳内に浮かんでいたのは立ち上がって武器を持つブタの亜人。

 あるいは狂暴なブタそのものである事もある。


 この世界でどのような存在なのはまだ分からない。

 ヤマダも加工済みの食肉でしかオークの事は知らなかった。


 できれば後者であって欲しいし、とりあえず人語を喋らないタイプではいて欲しいと思うタカシだった。


「……と言っても私も貧乏でして。このお肉だってそんなに上等なお肉ってワケでもないんですけどね。だからあんなふうに細かくカットしないとスジが残っちゃうんです」


「もっと美味い肉があるってのか? この世界のポテンシャルやべぇな?」


「やべぇです。低級の肉でもこのおいしさ……土よりは絶対に美味しいですよ?」


「それはそうだろ」


「じゃあ土ばっかり食べるのやめてくださいね?」


「それとこれとは話が違うから」


「なんで!?!?」


 土は別物である。

 元の世界でも「デザートは別腹」なんて言葉があったし、別に不思議な事ではない。


 本気でそう思っているタカシだった。


「うぅ……私の焼いたお肉、先輩の舌には合わなかったですか?」


「いや、そんなことないよ。おいしかった」


 涙目と上目遣いの合わせ技。

 この世の男たちが一発でノックアウトされてしまう破壊力である。


「本当においしかったよ。ちょっと泣きそうだったくらいさ」


 食事が終わった時、あまりにも美味しくて、その感覚すら懐かしくて、タカシはなんだか涙がでそうになったくらいだった。


「えー? もう、なんですかそれ?」


 これはヤマダの涙目と上目遣いにやられたワケではなく、純粋にタカシの本音だった。

 ……のだが、ヤマダには笑われてしまった。


 タカシも自分で言っていておかしいと思う。

 元の世界では絶対に出てこなかった感想だった。


「美味すぎて、なんか幸せでさ。食事で泣きそうになるなんて、もしかしたら生まれて初めての経験かも」


「え? そうなんですか?」


「うん。あんなの初めてだったよ」


 するとなぜかヤマダは顔を赤らめた。


「うれしいです」


「え?」


「……えへへ。もらっちゃいました、先輩のはじめて」


「……っ!!!!」


 ヤマダのはにかむような仕草と言葉で、タカシの理性は死にかけた。


 それは反則だ。

 そう思いながらタカシは慌てて顔を逸らし、背を向けてしまった。


「か、からかうなよっ」


 ――ギュッ。


 そのシャツの背中を、ヤマダの手が小さく引っぱる。


「先輩、私…………」


 タカシの首元にヤマダの声がした。

 その吐息が熱い。


「私…………先輩の――」


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


「うひゃあん!?!?」


「うおおっ!?!?」


 ヤマダの言葉と甘いムードをぶち壊したのは鼓膜を破りそうなほどの咆哮だった。


 気絶していたドラゴンが目を覚ましたのだ。


「い、いたの忘れてましたああああああ!!!!」


「そういえば気絶しただけだったな!?!?」


 2人の世界に入っていたタカシたちはその存在を忘れていた。

 だが存在を忘れていたのはドラゴンだけではない。


「ゴ、ゴーレム!!」


 タカシはすぐにゴーレムの存在を思い出した。

 クリエイト・ゴーレムで作り出したゴーレムはまだ消えていない。


「ドラゴンを――」


 ――ズシン!!


 タカシが指示を出すよりも速く。


「ゴーッ!!」


 ゴーレムはすでに動いていた。


 地面が沈むほどの深い踏み込み。

 這うように低い重心。

 風を切り回る腰。


 インプットされているのは完璧なモーションだった。


 美しくすらあるストレート。

 拳にゴーレムの全体重が乗る。


 炎のブレスを止めようとした時とはまるで違う。

 敵を倒すという意思が込められた攻撃。


 ケタ違いの威力を持ってゴーレムの拳がドラゴンの腹を打った。


「ギャ――」


 ――ドッゴォォォォォォォォォォン!!!!!!!!


 ドラゴンには悲鳴を上げるヒマすらない。


 ――バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ!!!!!!!!


 吹き飛ばされたドラゴンは木々をなぎ倒し、土埃を巻き上げながら森の果てまで消えた。


 そして……。


 ――ドッゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!


 森の奥にそびえていた山の麓へと衝突し……。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 ――ボッゴォォォォォォォォォォッン!!!!!!!!


「マジかよ……」


「えっ、えええぇぇ……」


 1つのローブの中で抱き合ったままの2人がポカンと口を開けて見つめる先で……ド派手に火山が噴火したのだった。


 そして同時に、そんなタカシの脳内にひさしぶりの声が響いていた。


 <タカシは『シークレットモンスター:紅玉の宝石竜』を撃退しました>

 <タカシは新たに『認定称号:ルビードラゴンゴーレム統率者』を獲得しました>

 <タカシは『認定称号:ルビードラゴンゴーレム統率者』によりライセンス・ボーナスを獲得しました>

 <タカシは新たに『ライセンス:ゴーレム/紅玉の宝石竜』を習得しました>

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