018:ただの土だけど??
「先輩、なに食べてるんですか!?」
「ただの土だけど??」
ヤマダの質問に対し、タカシは嘘偽りなく素直に答えた。
「土って、どう見てもクッキーなんですけど!? どこでそんなお菓子を手に入れたんです!?」
ヤマダはジーッと疑うような眼差しを土クッキーに向けていた。
確かにその見た目はクッキーそのものである。
食べやすいから最近はこの形にして食べている。
「いや、お菓子じゃないってば。本当にただの土なんだよ」
なぜか信じてもらえないタカシは圧縮土から土クッキーを生成して見せた。
(ん? そういえば俺、今スキルとか使ってないよな? どうやって作ったんだ……?)
自分でも良く分かっていなかったが、タカシは少しクッキーの形を念じるだけで土を変化させることができていた。
(まぁ、良いか)
これまでも無意識に行っていたが、便利だから気にしないことにした。
「ほら、土をちょっと食べやすい形にしただけなんだって」
「クッキーが増えた!? なんですかそれ、マジック・アイテム!? クッキーの元か何かです!?」
「いやいや、だからただの土だって。これはただ土がなんか圧縮されてるだけだよ。多分」
「でもそれ食べてたじゃないですか。土だったら普通はそんなモノ食べない……というか食べちゃダメでは!?」
ヤマダの言う通りだった。
土クッキーは見た目がクッキーっぽいだけで土100%である。
土だからもちろん食べ物ではない。
元の世界だったら「食べ物ではありません」とか「食べないでください」とか注意書きされているべきだろう。
「さっき食べ物の話が出たから、つい……」
――もぐもぐもぐもぐ。
「ほら食べてるっ!! やっぱり食べ物じゃないですかぁ!? ウソは良くないですよ、先輩! 私だっていくらお菓子が食べたいからって、別に先輩のモノを横取りしようと思ってるワケじゃないんですからね!?」
タカシの体が無意識に動いていた。
目の前に食べやすい土があったから体が反応してしまったのである。
「いや、食べたいなら上げるけどさ」
「えっ!?」
不意を打たれたようにヤマダが口を開ける。
口の中にはすでにヨダレがスタンバイしていた。
ヤマダの脳内は完全においしいクッキーを想像しているらしい。
「でも本当に土だぞ?」
「……そこまで言うなら確かめてあげても良いです」
なぜか急に態度を変えるヤマダ。
それはヤマダが「まるでお菓子をおねだりしたみたい」と思って恥ずかしくなったからだったのだが、そもそもタカシはそんなこと気にしてなどいなかった。
「いや、別に嫌ならいいんだけど……」
「あー、食べます! 食べますってば!!」
タカシが土クッキーを自分の口に放り込もうとすると、ヤマダは慌てて近くまで駆け寄ってきた。
「冗談だよ。いくらでも作れるし……ほら」
「んー……」
「なんだ? どうした?」
タカシから差し出された新しい土クッキーを前に、ヤマダは小さく口をとがらせた。
「……そっちが良いです」
「え? なに?」
「そっち! 先輩が今食べてた方です!」
ヤマダの視線はもう一つの土クッキー……タカシの食べかけを見ていた。
食べかけだからすでに半分ほどになってしまっている。
「でも、こっちは俺の食べかけだけど……良いのか?」
元の世界ではいろんなハラスメントでいろいろと難しい世の中だった。
職場での男女関係では特に気を遣う。
「食べかけで良いというか、むしろ食べかけが良いんですけど……」
「えっ?」
「い、いえ! なんでもないです! なんかそっちの方が怪しいから確認の意味であって、それ以上の意味はないんですからね!? カンチガイしないでくださいねっ!」
「お、おぅ……?」
なぜか怒られたタカシだった。
ヤマダは赤くなる顔を隠すように、タカシの食べかけの土クッキーを一息に口に放り込んだ。
「いただきます!!」
――ジャリィ……。
「んにぇ!!?? コレ、土じゃないですかぁぁぁ!?」
食べた瞬間にヤマダの顔がぐにゃりと歪んだ。
なんか聞いたことないタイプの変な悲鳴がでていた。
口の中が不快感でいっぱいになったが、それでもタカシからもらったお菓子だからとヤマダはそれを口からこぼす事はしなかった。
「ほら、だから土だって言っただろ。食べられたものじゃないって。ペッペッってしなさい」
「ふぇぇ……」
――ぺっぺっ。
タカシは子供をあやすママみたいになっていた。
「よしよし。もうヘンなモノ食べちゃダメだぞ?」
「はーい……って、先輩はなんでそんなモノ食べてるんですか!?」
ヤマダがお化けでも見るような涙目で土クッキーを睨みつけていた。
おいしいクッキーだと思い込んでいた分、よほど味覚にショックをうけたのだろう。
「なんでって……」
そう言われるとタカシも困った。
(うーん、なんでだろう…………??)
食べ始めの頃なら答えられた。
その答えは明確で、他に食べるモノがなかったからだ。
つまり生きるために食べた。
土のなかの水分と、わずかながらでも養分を得るために。
でも今は違う。
ここは深い地面の底ではなく、木々の生い茂る森の中だ。
近くを探せば木の実の一つくらい見つかるだろう。
少し歩けば海だってある。
海なら魚や貝が獲れるかもしれない。
それでもタカシは土を食べていた。
どんな所にいても、タカシはなぜか土が食べたくなる。
「クセになってんだ。土たべながら生きるの」
「え、えぇ……?? 先輩、大丈夫です……?」
バカみたいな答えだが、あえて言うならばそうだった。
ヤマダが心配して頭をナデる気持ちも分かる。
だが、仕方がない。
タカシ自身も良く分からないが、いつからかタカシは定期的に土を食べないと落ち着かない体になっていたのだ。
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