014:最高のボディーガード
「ハハハ……完璧な仕事だな……」
「ゴー!」
格闘技で相手をKOした時の選手みたいにゴーレムは拳を突き上げた。
初めてゴーレムの戦闘を見たタカシは自分の認識を改めることになる。
(コイツ、もしかして本来の用途は戦闘なのか……?)
クリエイト・ゴーレムで生成されるゴーレムは、タカシにとってのサポートキャラみたいな存在だと考えていた。
穴からの脱出も、島からの脱出も助けてくれたのはゴーレムだったからだ。
重たい物を持ち上げたり、タカシを守ったり運んだりしてくれる便利なサポーター。
だがそれはカンチガイだった。
これまでタカシの手伝いをしてくれる姿しか見た事がなかっただけだったのだ。
ドラゴンを一撃でねじ伏せたその攻撃力。
巨大化してもなお一瞬にして敵との間合いを詰めるほどの素早さ。
なにより驚かされたのは戦闘時の知能である。
モンスターと対峙した時のゴーレムはタカシの指示への理解度がとてつもなく高かった。
(コイツ、もしかしたらあの巨大イカにすら勝てたんじゃないか……?)
周囲が弱点である水だらけという圧倒的に不利なハズの状況でも、ブロックの足場でサポートしてやればなんとかしてしまったのではないか……。
ゴーレムの戦いぶりはタカシがそう思ってしまうほどに見事だったのだ。
「なるほど。森にドラゴンが出てくるような世界だと、めちゃくちゃ頼りになるな……!」
最高のボディーガードである。
そんなゴーレムにぶん殴られたドラゴンはまだ死んではいないようだが、白目を向いて気絶していた。
倒れたドラゴンの喉の近くでは地面の草が焦げていた。
炎を蓄えていた部位だからとんでもない高温になっていたのだろう。
吐き出されていたら大惨事になっていたに違いない。
「危なかったな。今ならトドメを差すのは簡単だろうが……いや、焦るのは良くないか」
「ゴー?」
ゴーレムが「やっちまいますか、ご主人!?」とでもいうように拳を振り上げてブンブンと回している。
戦意というか殺意がとても高い。
タカシにはもう戦闘マシーンにしか見えなかった。
「だから焦るなってば」
「ゴー……」
タカシはゴーレムに「待て」と指示を出す。
するとゴーレムは人型サイズに戻っておとなしく座り込んだ。
タカシはなんだかバアちゃん家で飼われていたペットの大型犬「ペス」を思い出した。
子供視点だと巨大にも思えたペスだが、バアちゃんや家族の言う事を良く聞く、優しくて愛嬌のある犬だった。
バアちゃんの後を追うように亡くなってしまったペスを思い出してノルタルジックな気持ちになりかけたが、タカシはそれを振り払うように目の前のフードに意識を移した。
「まずはコイツに話しを聞かないとイベントを進められないんだよ」
フードの人物が気絶してしまっているのでイベントの内容が判明していない。
ドラゴンから逃げていたようだからイベントのクリア条件はドラゴン退治である可能性が高いが、それも確定ではなかった。
「そもそも本当にドラゴンから逃げていたのかも分からないんだよな……なんか勢いで戦闘になったけど……」
このドラゴンはフードの人物の味方であり、急に現れた(顔面が血だらけの)タカシを敵だと判断して攻撃しようとした。
……という可能性もゼロではない。
(ドラゴンはファンタジーゲームでも人気の高いモンスターだからな。子供の頃に遊んだゲームでも敵だけでは終わらない事が多かったし……)
他にも撃退しておいたドラゴンが後で反省して仲間になるとか、イベントの続きでキーになってくる可能性だってある。
思い込みでこのドラゴンの命を奪ってしまうと、あとで取り返しがつかなくなってしまう可能性があるのだ。
いくらファンタジー世界でも、死んだモンスターを蘇生する手段があるかも分からない。
「よし、ドラゴンの始末は後だ。まずはイベントを進めるしかない」
タカシはまだこの世界の事をほとんど知らない。
用心するに越したことはなかった。
それにゴーレムがいれば安心だ。
生殺与奪の権利はタカシのゴーレムが握っていると言っても良いだろう。
最終的にタカシは「答えを出すのはイベントの内容を確認してからでも遅くない」と判断した。
「ゴーレム、ドラゴンが目を覚まさないか見張っててくれ。また襲われたら困るからな」
「ゴー!」
ドラゴンはゴーレムに任せ、タカシは気絶したままのイベントキャラクターと向き合う事にする。
地面に伏せるように倒れたキャラクターの肩を抱き起す。
フードの人物は子供みたいに小さくて軽かった。
上半身を起こした揺れでフードがとれて、その中の顔が明らかになる。
「ん……? あれ……?」
タカシはその顔になんだか見覚えがある気がした。
丸っこくい輪郭。
小さな鼻や口。
モチモチしてそうな白い肌。
女性と言うより少女のような印象の人物だった。
「…………ハッ!?」
タカシの思考がその答えにたどり着くよりも先に少女が目を覚ました。
そしてタカシの顔を見るや、勢いよく起き上がった。
「あれ!? ウソ……もしかして、タナカさんですか!?」
「え? そうだけど……」
「しゃべった! 本物だぁ! やっぱりタナカさんもこの世界に来てたんですね! 無事でよかったですよぉー!」
「ちょ……!? えっ……!?」
少女は一気にテンションを上げ、タカシの顔をペタペタ触ったりしてから抱き着いてきたのだ。
「あれ? もしかして気づいてない!? もう、私ですよ! ハナコです! ヤマダ、ハナコ!!」
涙目になり頬をプクっと膨らますのはやはり見知った顔。
「……あ」
急にタカシの中でその顔と名前が記憶と一致した。
「総務部のヤマダさんだ……」
「はい! そうです、ヤマダです! おひさしぶりですね、先輩!!」
ヤマダがニコっと白い歯を見せて笑う。
それは元の世界の会社の後輩だった。
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