012:ようこそ、ハンジマリ地方へ


 <タカシのストーリーが進行しました>

 <『ストーリー進行:1―1/ようこそ、ハンジマリ地方へ』>

 <タカシは『ストーリー進行』により『ジャーナル:ハンジマリ地方』が解放されました>

 <タカシは新たに『ジャーナル:ハンジマリ地方について①』を閲覧できるようになりました>


 タカシは機械音声と体の痛みで目を覚ました。


「いてて……」


 目を覚ましたタカシは木の上にいた。


 頭上に青色の地面が見える。

 タカシは逆立ちするようにして木の枝に引っかかっていた。


「俺、生きてる……? 奇跡かよ……」


 巨大イカの襲撃から全力で逃走した結果、ゴーレムの超パワーによってタカシたちの乗るイカダは超スピードで陸地へと激突する事になった。


 途中でゴーレムを止めようとしたのだが、揺れがヒドすぎて指示を出すのが間に合わなかったせいである。


 その衝撃で吹き飛ばされたタカシだったが、奇跡的に木の枝に引っかかったおかげで大きなケガをせずに済んだらしい。


 タカシはその速度と衝撃に死を覚悟していたため、むしろ自分が生きていることに驚いたくらいだった。


「ここは……?」


 到着した場所はとても港には見えない場所だった。


 見たことのない木々に囲まれている。


 タカシが元の世界で見慣れた緑色より、もっと深い青色の葉が揺れていた。

 葉はギザギザとした形をしているがその見た目に反してシルクのように柔らかかった。


 木の幹は茶色よりも赤に近い色だ。


 地面にも背の低い草が広がっていた。

 その草も木の葉と同じ青色をしている。


「今度は森かよ……」


 町が遠い。


 巨大イカから逃げる時に方向が変わってしまったせいだろう。


「ゴー?」


 地上で心配するようにゴーレムがタカシを見上げていた。

 そのゴーレムには傷なんて1つもなかった。


「良かった、お前も無事だったか。ゴーレムって本当に頑丈だな」


 ゴーレムが手を伸ばしてタカシを持ち上げてくれた。

 そのままゆっくりと地上に降ろしてくれる。


「ありがとう。お前のおかげで助かったよ。海でも……いや、でも次からもうちょっと加減しような?」


 クリエイト・ゴーレムで作り出されたゴーレムの筋力は凄まじい。

 それはタカシにとってとても頼りになる力だ。


 その力がなければタカシは巨大イカの餌食になっていただろう。

 そもそも穴の底からも脱出できていないかもしれない。


 しかしゴーレムは加減を知らない。


 だから同時にちょっと怖いとも思ってしまう。

 まだ何も知らない幼い子供がスーパーパワーを持ってしまったみたいな感じだ。


「ゴー!」


 ゴーレムはあまり分かっていなさそうに元気よく手を上げた。


「……いや、俺がしっかりしないといけないんだよな」


 ゴーレムを作ったのは他でもないタカシ自身だ。

 その力が危険になり得るのなら、それをしっかり管理する責任があると思った。


(やはりしばらくゴーレムは1体だけにしておこう……)


 タカシは改めてそう心に決めた。


「そう言えば何かアナウンスが聞こえていたな」


 タカシが脳内のログを思い出そうとした時だった。


「きゃあああああああああああああああっ!!」


 遠くから女性の声がした。


 その声に驚いてバサバサと鳥たちが飛び立つ羽音が森に響いた。


「人の悲鳴……イベントか。やっとファンタジーゲームらしくなってきたな」


 空にはまだ太陽が見える。

 タカシが気を失っていた時間はそう長くなかったようだ。


 だが大きな木々に覆われた森の中は薄暗かった。


 風も冷たく、どこか不気味に感じる。


 ここは多分、ただの森ではない。

 モンスターが潜む危険なエリアだ。


 ファンタジーゲーム的に言えば『ダンジョン』と言ったところだろう。


「でも助けるしかないよな。ゴーレム、移動するぞ」


「ゴー!」


 ゴーレムが一回り大きくなり、その肩にタカシを乗せる。


 もしかしたら海でのあの巨大イカとの遭遇もゲーム的なイベントなのかもしれない。

 だったら森の中でもまた巨大モンスターと遭遇する可能性だって多いにありえる。


 だがタカシは怖くはなかった。


 なぜなら今タカシたちがいるのは森だ。

 つまり陸地にいるのである。


 水が弱点のゴーレムを頼るタカシにとって、海上とは決定的に状況が違うのである。


「よし、最速で向かってくれ!」


「ゴーッ!!」


 ゴーレムは声がした方向に向かって勢いよく走り出した。

 

 ――バキバキバキバキバキバキ!!


「いててててててててっ!?!?!?」


 ゴーレムはタカシの指示通りに動いた。

 文字通りの最短距離で、最速で悲鳴の主の場所に向かってくれたのだ。


 ……森の木々を体当たりでなぎ倒しながら。


「ゴー!」


「はぁ、はぁ……死ぬかと思ったぜ!!」


 そして目的地に到着。


 もちろん頑丈なゴーレムは無傷である。

 しかし生身の人間であるタカシはボロボロだった。


 森の青い葉は柔らかいが、その枝は普通に硬い。

 それを顔面でへし折りながら進んできたのだからボロボロになるのは当然の結果だろう。


「だから……! 少しは加減しろって言っただろうが……!!」


「ゴー?」


 確認する方法は分からないけど、この世界にHPゲージがあれば多分それは真っ赤になっているだろうとタカシは思った。

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