011:学習能力がゼロ
「うーん、もうちょっと右だな。ゴーレム、
「ゴー!」
「よし、この方位で進もう。ヨーソロー!」
海は穏やかだった。
イカダの進行はゴーレムに任せていれば良い。
一度指示を出せばゴーレムは文句も言わずにオールを漕ぎ続けてくれる。
元の世界のクソブラック企業なら大喜びする人材だった。
タカシはたまに方向だけ確認してゴーレムに指示を出し、のんびりと港への到着を待つことにした。
言葉だけでの指示だと正しく伝わっているのか怪しいゴーレムだが、ジェスチャーを交えるとかなり高いレベルで理解を示した。
「ミャー、ミャー!」
空には白いカモメみたいな鳥が飛んでいた。
「ヘンな鳴き声だな」
タカシは空をながめながら土を食べた。
小さな『圧縮土』のおかげで海上でも土はいくらでも使えるから食料には困らない。
ゴーレムにもペットのエサ感覚でたまに土ブロックをあげた。
「平和だな」
まだ太陽の位置は高く、天気も良好。
頭上に広がるのはどこまでも広い爽やかな青空だ。
――ドパン。
「……ん?」
しばらくボーっとしていると、イカダが大きく揺れた。
波に揺られることは良くある。
だが今までの揺れとは何かが違う感じがした。
横からの波に揺られたのではなく、真下から何かに突き上げられたような揺れだった。
――ズゴゴゴゴゴゴ……。
「……なんだ?」
と、タカシが海の中を覗き込もうとした時だ。
――ドッパァァァァン!!
海面が盛り上がり、巨大な何かが飛び出してきた。
「うおおっ!?」
「ゴー?」
大きな波になり、タカシの乗るイカダも大きく傾く。
ゴーレムがバランスを取ってくれたのかも知れないが、イカダがひっくり返らなかったのは不幸中の幸いといったところだろう。
「なんか出たぁぁぁぁぁ!?」
現れたのは体中に大量の眼をつけた巨大なイカの怪物である。
まるで高層ビルみたいなバケモノだった。
以下の全身の目玉がいっせいにタカシたちのイカダを捕らえた。
――ギョロリ!!
「うお、キモッ……いや、それよりヤバっ……!!」
この世界に危険な敵対生物が存在している可能性は考えていた。
ゲーム的に言うなら『モンスター』とでも呼べばいい存在だろう。
だが、このサイズは想定外だった。
あまりにもデカすぎる。
「ゴ? ゴーッ!!」
ゴーレムは海の中から現れた巨大イカに対してファイティングポーズをとった。
今にも飛びかかりそうである。
「ダメだコイツ、学習能力がゼロだ……!!」
水はゴーレムの弱点だ。
タカシは海に落ちても泳げるが、イカダがひっくり返ってしまえばゴーレムは即消滅である。
おそらく海の中ではゴーレムは作れない。
「ブロックで足場を……いや、ムリだろ!」
巨大イカ本体の周囲には本体以上に長く大きな足まで現れた。
なんとかゴーレムの足場を作りたいが、この巨体や長い足が相手ではブロックをいくつ増やしても簡単にひっくり返される。
足一本で即死だ。
「ゴーレム、戦ってる場合じゃない! 漕げ!! 漕ぎまくれっ!!!」
「ゴー?」
「いいから逃げるんだよぉーーーーーーーーー!!」
「ゴー!!」
巨人サイズになったゴーレムのパワーがあれば巨大なイカくらいどうとでもなる気がする。
でもそれは陸上での話だ。
この場では戦えない。
そうと分かっているなら逃げるしかない。
指示を出せばゴーレムは素直だ。
グルグルとオールを動かす速度を上げる。
「ギシャアアアアアアアアアアアア!!」
――ガパァ……。
巨大イカは大きな口を開いて追いかけてきた。
猛禽類みたいな尖ったクチバシみたいな口の中には小さな牙が無数に生えていた。
小さな牙はそれぞれが生き物みたいに口の中で蠢いている。
「いや口の中までキモっ……!!」
本体の動きは素早くない。
しかしその足は機敏だった。
イカダをめがけていくつもの足が海面を割るようにして迫って来た。
「クソッ……!! クリエイト・ブロック!!」
タカシはとっさにダミーのイカダを量産する。
ただの板ではダミーとしては雑すぎるだろうが、平たく大きなブロックは目くらましにもなると考えての行動だった。
「ギシャアアアアア!?!?!?」
だが、しっかり巨大イカはダミーにひっかかっていた。
「よし!! コイツ、バカだ!!」
効果は抜群だ。
タカシはさらにダミーを追加する。
機械音声はまだない。
スキルだけでなくSPの量も成長しているのかもしれない……そう思ったが、5個のブロックを作るとそれ以上はスキルが発動しなくなった。
「なんだ……!? SP切れ……!?」
だがやはりアナウンスがない。
「もしかしてチュートリアルだからわざわざアナウンスしてくれてた……って事かよ!? ちゃんと言えよ、そういう大事なことは!!」
連絡、大事。
だが時間稼ぎはできた。
タカシはSPを使い切った。
もうスキルは使えない。
あとはゴーレムだけが頼りだ。
――ザバババババ!
タカシを乗せたイカダはどんどんと速度を上げている。
「よし、良いぞ! ゴーレム、その調子でどんどん漕いでくれ!」
これなら逃げきれる。
陸につけばイカは上がって来れないだろう。
「ゴー!!」
ゴーレムは「タカシに褒められた」ことをしっかり理解した。
そして腕の回転数を上げ、ゴキゲンな様子で漕ぎまくった。
イカダがさらに速度を上げる。
――ザババババババババババ!!
その速度に比例して大きく揺れるが、ゴーレムはそんな事ではビクともしない。
ゴーレムは足がぴったりとブロックに接着されているかのように完璧なバランスで仁王立ちしていた。
タカシはというとそんなゴーレムに掴まって揺れに耐えていた。
「ちょ、まっ」
巨大イカはかなりもう遠く小さい。
逃げるには十分だろう。
というか、速すぎない?
と言う余裕もタカシにはなかった。
――ザババババババババババババババババババババ!!!!
「ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
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