010:1人と1体を乗せて
「よし、元通りだな。お前はこの方が良い」
「ゴ? ゴー!」
タカシが土を補充し続けるとゴーレムは元の人型に戻ってくれた。
顔だけで動き回られるのはちょっとキモかったので助かった。
「ゴゴー」
ゴーレムはタカシに感謝を伝えるようかのに丁寧に頭を下げた。
ゴーレムは人間とのコミュニケーションが可能らしい。
その姿を見ているとかなり高い知性を持っているように思えるのだが、そのワリに自分の弱点を理解していないと言うドジっ子でもあるようだ。
「お前は大事なパートナーだからな。元気でいてくれないと困る」
タカシはなんとなく照れくさい感じがして、そっけなく答えた。
クリエイト・ゴーレムを唱えればゴーレムを増やす事ができる。
だがタカシはそれをしないことにした。
ゴーレムの消し方が分からないからだ。
クリエイト・ゴーレムを唱えると土からゴーレムが生成される。
だがスキルの解除方法がわからなかった。
クリエイト・ゴーレムを解除してゴーレムを土に戻す方法がわからないのだ。
以前は時間で自動的に消えていたが、今はその制限がなくなったらしい。
恐らくはスキルの成長による変化だろう。
一瞬でいなくなるよりはかなりスキルの実用性が増したと言える。
しかし今度は逆にいつまでも動くようになってしまったのである。
「スキル解除」
「ゴーレム解除」
「クリエイト・ゴーレム、終了」
「スキル終了」
「土に戻れ」
などと言葉にしてみたが、ゴーレムは「?」と首をかしげるような動きをするだけだった。
新しく分かったのは「スキル発動の意思をもってスキル名を唱えない」限りはスキルが発動しないという事くらいだろう。
このまま無駄にゴーレムが増えても困る気がした。
「ゴーレムを増やすのはスキルの解除方法が分かるか……どうしようもなく困った時だけにしておくか」
タカシはそう決めて、ひとまずはゴーレム1体とクリエイト・ブロックを使っての脱出方法を探すことにした。
そうしているうちになんだかこのゴーレムに愛着が湧いてきたのだった。
「ゴーレム、これに乗れるくらいの大きさになれるか?」
タカシが海に浮かんだままのブロックを指さして聞いてみると、ゴーレムは元の小人サイズに戻った。
「ゴー!」
そしてジャンプしてブロックに乗ってみせる。
「うん、重さも問題なしだな。やっぱりただ土が圧縮されてるってワケじゃないみたいだよな」
小人サイズから巨人サイズまで自由自在なゴーレムだが、その重さは驚くほど軽いらしい。
タカシの持つ『圧縮土』もそうだ。
無限にも思える土を宿した土の塊だが、それはタカシが小指の先に乗せられるくらい軽い。
クリエイト・ブロックで作られる土のブロックも使用する土に比べて明らかに軽かった。
「まるで魔法みたいな……いや、別に不思議でもないか」
そもそもこの世界にはただの土からゴーレムを作り出すスキルなんてモノがあるのだ。
もはや今までの常識で理解できない現象を不思議に思うのもバカらしい。
「だって、1番不思議なのはこの世界そのものだからな」
今までと全く別の世界に転移したという事実。
それ自体が元の世界でなら考えられないくらいの不思議現象そのものである。
もしも元の世界に戻ってこの体験を正直に話したとしても、タカシの話は誰にも信じてもらえないだろう。
自分はそれくらいに今までの常識の外側にいる。
そう考えると、タカシは目の前の事実をすんなりと受け入れる事ができた。
それがどんなに不思議な現象でも、この世界では紛れもない事実に変わりない。
だったらそれをどう利用するかを考える。
「そのまま俺と同じくらいの大きさになってみてくれ」
ゴーレムに今度は人間サイズくらいになってもらい、一緒にブロックに乗ってみる。
ボート……というよりはイカダ代わりのブロックにはまだ1人分ほどの余白があった。
「サイズはちょうどいいくらいだな。これなら少しくらいなら揺れても落ちたりはしない……だったら次は、クリエイト・ブロック!」
続けて、薄くて縦に長い形状をイメージして新しいブロックを2つ生成する。
これでスキルの発動は5回目だ。
SP切れのアナウンスはまだ聞こえてこない。
「よし、やっぱり軽いな。良い感じだ。そしたら、ゴーレムはこれ持って」
「ゴー」
作った2つのブロック板を両手で1つずつ手に持たせる。
ゴーレムが持つのは板の端っこの方で、持った板の反対側は斜めに海へとおろす。
「こうやって動かす」
そう言ってタカシは両手を回す。
胸の前まで腕をたたみ、グッと前に押し出す。
円を描くように再び腕をたたみ、また前に押し出す。
「ゴー? ……ゴー!」
――ポン!
少しの間があったが、ゴーレムはタカシの動きを「理解した!」というように手を叩いた。
なんとも人間味のある動作である。
そしてタカシの意図した通りに動きだした。
2枚の細長いブロックをオール代わりにして漕ぎ始めたのだ。
――ザバン、ザバン。
船としての設備は最低と言って良いだろう。
人間がやろうとするとかなりの筋力と体力を使う動作だが、ゴーレムには関係ないらしい。
ゴーレムが漕ぐ度に確実にイカダは進む。
タカシは確かな手応えを感じた。
「よし、いいぞ! 土ブロック号、出航! 全速前進だ!!」
「ゴー!!」
これなら港を目指せる。
タカシとゴーレムを乗せた土ブロックのイカダは勢いよく海原に飛び出していった。
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