009:新たなる脱出
「え? は!?」
小人サイズだったゴーレムは、あっという間に巨人のようなサイズへ変形していた。
その大きさは穴に入りきらないほどだ。
実際、ゴーレムの頭は外にはみ出している。
「お前、そんな能力もってたのかよ……」
「ゴォー……!」
声が遠い。
あとなんか野太い。
小さかった時の可愛さはなくなったが、実用性はありそうである。
「このサイズなら……俺を簡単に外まで運べるんじゃないか?」
「ゴォー……!」
タカシの意図を理解したのか、巨人となったゴーレムがゆっくりと頭を縦に動かす。
そしてその大きな手をタカシの前に持ってきた。
「乗れってこと、だよな……?」
「ゴォー……!!」
そのまま手をリフトのようにしてタカシを持ち上げる。
「お、おぉ……!」
一瞬だけ重力が強くなったのを感じた。
タカシは青に包まれた。
「外だ……!」
思考を停止するほどの苦行を味わった脱出は、いとも簡単に成功していた。
目の前に広がるのは青い空。
そして青い海。
タカシは小さな孤島にいた。
外の空気を思いっきり吸い込むと、穴の中では感じなかった潮の香がした。
「俺たち、ずっとこんな場所にいたのか……」
どうりで人の気配がしないワケである。
そこは小さな無人島。
タカシは島の端から端が見通せるくらいの狭さの島の真ん中にポッカリと空いた穴の中にいたらしい。
誰も助けてくれないワケだ。
「あれ、港町か……」
周囲を見渡すと、遠い水平線の際に建物らしい影があった。
「今度はここからなんとかして脱出しろってことだよな……ここは脱出ゲームの世界なのか?」
「ゴォー……?」
今のタカシに使えるスキルは2つだけだ。
土を使ってゴーレムを作り出すクリエイト・ゴーレム。
同じく土を使ってブロックを作り出すクリエイト・ブロック。
だがそのスキルはかなり成長している。
獲得した『称号』によって熟練度があがったのだろう。
「何をゲットしてたのか分かんないけど……」
まるで記憶がない。
いくつか獲得したのは覚えているのだが、思い出そうとしてもログは出てこなかった。
チュートリアルワールド内でのログは消えているのだろう。
「でも、お前がいれば何とかなりそうだな」
「ゴォー……」
それに便利アイテムである『圧縮土』もある。
おかげで島から出ても素材には困らない。
「お前、泳げるのか?」
「ゴォー……!」
ゴーレムがタカシと同じくらいの大きさの親指を立てた。
肯定の意思表示なのだろう。
「よし。だったら簡単だな」
島から脱出するため、タカシはいくつかの方法が思いついていた。
巨大なゴーレムがいればそれだけでいろんなことができる。
ゲームとして考えると、かなり自由度が高いと言えるだろう。
「まずは、クリエイト・ブロック!」
タカシが作ったのは大きく平らな形状にイメージしたブロックだ。
「これくらいあればいけるか?」
それを海に投げる。
クリエイト・ブロックで生成したブロックは大きくてもとても軽い。
――ボチャン。
――プカプカ。
タカシの予想通り、ブロックはボートのように浮いてくれた。
「よっ、と……いけそうだな」
ブロックにタカシが乗っても沈まなかった。
後はこのままブロックをゴーレムに押してもらえば良いだけだ。
「よし!」
穴の底からは脱出できた。
でもまだこの世界がどんな世界なのか、その全貌が掴めていない。
少なくともスキルがあり、ゴーレムが存在する世界だ。
タカシはこの世界には危険な敵対生物も存在している気がしていた。
だからゴーレムがいつでも戦える状況にしておきたかった。
穴から出た時みたいにゴーレムの手に乗っても良かったが、それでは片手が埋まってしまう。
タカシ自身の筋力は元の世界と変わらない。
自分自身がゲーム世界の狂暴凶悪なモンスターと戦えるとはとても思えないのだ。
「ゴーレム、このブロックを押してみてくれ」
「ゴォー……!!」
ゴーレムがブロックにそっと巨大な手を添え、海に向かって歩き出す。
ブロックは雨でも壊れる事はなかった。
海に浮いても無事だ。
だったらゴーレムも……
「ゴー! ゴーボボボボボボボボボボボボボボボ」
「ゴーレムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?!?」
海に突っ込んだ足からゴーレムが溶けて消えていた。
タカシは消えていくゴーレムを慌てて回収し、泳いで島に戻った。
「ハァ、ハァ……! お前、水ダメなのかよ……」
「ゴ、ゴー……」
ゴーレムは頭だけになっていたがなんとか無事だったようだ。
ブロックがいけるならゴーレムもいけると思ったのだが、そうではないらしい。
「というか、なんで泳げる感じをだしたんだよ……」
そしてゴーレムの知能はあまり高くなさそうだ。
昔のゲームのAIキャラクターみたいだった。
「ゴー……」
だが土が水に弱いと言うのは、良くあるゲームでのイメージとしてタカシには理解できた。
ゴーレムだけが水に弱いのではなく、土系がそうなのだろう。
「むしろクリエイト・ブロックが例外ってことか……?」
タカシは水に濡れないようにとっさに島に向かって投げ捨てていた圧縮土を拾いあげ、ゴーレムに土を補充する。
「ほら」
「ゴー!」
土を与えるとゴーレムは頭から手足を生やして元気に動き始めた。
微妙にキモかった。
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