1-2/無人島
008:リスタート
「どこだ、ここ……?」
タカシが目を覚ますと、そこは薄暗い穴の底だった。
「え? なにこれ? なんで?」
タカシがいたのは深い穴の底だった。
大人2人が横になれるくらいの幅がある円形で、立ち上がっても穴の外に手は届きそうにない。
全力でジャンプしたとしてもとても届かないだろう。
土の壁に切り取られた頭上の空は小さく遠く、古いホラー映画でみた井戸の中から見た景色に似ていた。
「知ってる景色だな」
鮮明に見覚えがある景色だった。
タカシは混乱しながら自分の記憶をたどる。
――ズキン。
「いててっ……!」
思い出そうとすると頭痛がした。
頭を抱えようとして、タカシは自分の手にある物体に気がついた。
「なんだ、これ?」
左手に握られていたのは小さな塊だった。
茶色の立方体はとても小さく、一口サイズのチョコみたいにも見える。
「土、だ……そうか、俺は外に出るために土のブロックで階段を作ってたんだった」
タカシは少しずつ思い出してきた。
この世界で獲得した『称号』の存在。
自分に与えられた『スキル』の存在。
そして脱出のために『称号』を集めようとした記憶。
「それで……どうなったんだっけ……?」
穴の側面にそってブロックを積み上げていたハズなのに、そんな痕跡は見当たらない。
ブロックを作るどころか地面を掘った様子もなかった。
タカシが仰向けに倒れていた地面は平らでキレイなままである。
「なんだよ、夢でも見てたのか?」
そう思いたくもなるがそうではない。
「いや、そうじゃないよな……」
タカシの一番新しい記憶にはログが残っていた。
<メインワールドへようこそ、タカシ>
<チュートリアルワールドのクリアおめでとうございます>
<ワールドの移動によりタカシのスキルが制限されています>
<制限されたスキルはこのワールドで条件を満たす事により解放されます>
<引き続き『新世界』をお楽しみ下さい>
ログによると、タカシはいつの間にか『チュートリアルワールド』とやらをクリアしたらしかった。
「チュートリアルワールドって……あの穴から脱出するのがチュートリアルだったのか? だとしても……」
それを実行した記憶がタカシにはなかった。
穴からの脱出はあまりにも絶望的だった。
生きる為に土を食べてスキルを使い続ける生活。
どれだけの日数が経過しているかもわからない状況。
そんな極限状態の中でタカシの思考はいつからか停止していた。
「……無意識のうちにクリアしたってことか? マジかよ」
思い出せることは少なかった。
結局、何が起こったのか理解できないままである。
「それでまた穴の底って、どうしろって言うんだよ……えーと、たしかスキルが使えたハズだよな」
タカシはとにかく状況を確認することにした。
自分に与えられていたスキルは同じように使えるのかを確認する。
素材に使えそうな土はなぜか手に持っていた。
「クリエイト・ゴーレム」
――ズモモモモモモモモモモモモ!!
「うおおっ!?」
タカシの記憶では「クリエイト・ゴーレム」で作られるのは小さな小人ゴーレムだった。
だから素材にするのは手にした小さな塊の土でも十分だと思ったのだが、予想外の事が起こった。
「なんだ、これ……? ただの土じゃないぞ!」
小さな土の塊からどんどんと土があふれる。
まるで増殖するように大量の土になったのだ。
あふれた土は凝縮し、小さなゴーレムになった。
「ゴー!」
明らかに素材の量に見合わない小人ゴーレムが完成していた。
「って、お前のサイズは変わってないのかよ……というか土つかいすぎだろ」
「ゴー?」
「まぁ良いけど……それよりこっちが気になるんだよ」
タカシは手の平に残ったままの小さな土のブロックに視線を戻した。
大量の土を吐き出したように見えたが、土のサイズは最初の一口チョコサイズから変化していないように見える。
「もしかして、土が圧縮されてるのか?」
軽く握ると、土があふれて手の平サイズまで膨張した。
増えた土を捨てると、中には元のサイズの土の塊が残っていた。
「なるほど」
ただの土ではない不思議アイテムらしい。
スキルで土を消費するタカシにとって非常に便利なアイテムだ。
「ふむ……ゲーム的に考えると、チュートリアルクリアのご褒美か何かか? まぁ、ありがたく使わせてもらうか」
この土ががあればわざわざ土を掘る作業がいらなくなる。
タカシはこの土を『圧縮土』と呼ぶことにした。
「あとは……クリエイト・ブロック」
圧縮土から小さな長方形の土クッキーを生成して食べながら、タカシは他に記憶しているスキルも確認する事にした。
スキルを唱えると、先ほど捨てた土が集まり、見覚えのあるレンガみたいな土のブロックが作り出された。
ただ、その大きさはタカシが初めてスキルを使った時に比べてかなり大きい。
「おぉ、俺の記憶よりもスキルが成長してるな」
――コンコン。
手で軽く叩いてみるがブロックは壊れない。
大きさだけじゃない。
ブロックは強度も上がっている。
「よっ! ……おぉ、すごいな」
――ドカ!
ブロックを壁に投げつけて見ても壊れなかった。
想像以上の強度に思わずニヤける。
前回の記憶ではブロックが壊れて何度も階段が崩落したことを思い出した。
これならかなり楽に階段を作れそうだ。
「ゴー!」
「お、ありがとう」
投げつけたブロックを小さなゴーレムがタカシの下へと持ってきてくれた。
「って、え……? お前、消えないのか!?」
「ゴー!」
タカシが作ったゴーレムはまだ元気に活動していた。
記憶では数秒で壊れていたのでもうとっくに土に還っていると思っていたのに。
「そっか、クリエイト・ゴーレムも成長してるってことか。まぁ、せっかくならもっとデカく成長してくれたら楽だったんだけどな」
「ゴー? ゴー!!」
――ズモモモモモモモモモモモモ!!!!
「……え?」
小人ゴーレムは突如として、見上げるほどに巨大なゴーレムへと姿を変えた。
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