004:土うめぇ



 ――4日目。


 タカシは頬に冷たさを感じて目が覚めた。


「んっ、ん……!?」


 ポツ、ポツ、と頬をうつ。

 それは雨だった。


 ――ザァァァァァ……。


「おおっ……!?」


 口を開けて空を仰ぎ、それをゴクゴクと飲んだ。


 雨水は飲めないと聞いたことがある。

 お腹をこわしたとしても、それでも死ぬよりはマシだと割り切った。


「ぷはぁー……!」


 乾ききった体に雨水が染みこんでいく感じがした。

 まさに天の恵みである。


 徹夜の時に一気飲みしたエナドリみたいに染み渡る。

 クセになるウマさだ。


 通り雨だったらしく雨はすぐに止んでしまった。

 それでもタカシにはありがたかった。


 昨日はクリエイト・ゴーレムの連発、粘土コネコネ祭りで疲れきっていたタカシだったが、少しの水分だけでかなり回復した気がした。


「よし、じゃあやるか。クリエイト・ゴーレム!」


 ――ズモモモモモモモ……。


 スキルを唱えると土の塊が動き始めた。


「ゴー!」


 そして昨日と同じようにゴーレムが一鳴きして消える。


「ちゃんと発動したな。SPは回復したってことか?」


 一晩寝て体力を回復したからか。

 それとも単純に時間が経ったからなのか。


 まだ良く分かっていなかったが、とにかく再びスキルが使えるようになっていた。


 土が雨に濡れてしまっていたが、クリエイト・ゴーレムには特に影響はないようだ。


「うーん、このSPの事も調べておきたいよな……」


 ひとまずクリエイト・ゴーレムを連発してSPを枯らしておくことにした。

 SPを使い切っても熟練度はまだあがらない。


「あとはひたすらコネるしかないか……!!」


 そして粘土をコネる。

 コネまくる。


 コネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネ!!!!


 キーワードは『土』だ。

 なぜならクリエイト・ゴーレムに関するモノが土の他には思いつかないし、そもそもここには土しかない。


 とにかく土に関する称号を何でもいいから手に入れたい。

 そしてスキルを強化し、ゴーレムの性能を強化して脱出する。


 タカシの目的はそれだった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 そのために思いついたことはなんでもやった。


 最初はコネていろんな形をつくった。

 丸くしたり長くしたり真四角を作ろうとしたりした。

 武器みたいにしてみたり、盾みたいにしてみたり、カッコいいゴーレムを作ろうとしてなぜか土の雪ダルマができていたり、土を丸めて壁に投げまくったり、全身に土を塗りたくったり、最後には土の中にもぐったりした。


「ダメだ……」


 だが称号は手に入らなかった。

 そうやっている内に日も暮れ始め、別の問題が発生した。


「腹へった……」


 水分を摂取できたからか、今度は空腹が気になるようになってきたのだ。

 気力が回復してこれまで以上に動き回った反動もあるだろう。


 海外のサバイバルドキュメンタリーで虫を食べる映像を見た事があったが、ここにはその虫すらもいない。


 目の前に虫がいたら、今の自分なら迷いなく食べるだろうとタカシは思えた。

 もちろん虫なんか食べたくないが背に腹は代えられない。


 だが、あるのは土だけだ。


「……いけるのか?」


 それはただの思いつきだった。

 空腹からか、タカシは無意識に雨で濡れた土で泥団子を作っていた。


 それを見て「もしかして?」とか思ってしまったのである。


「よっ、と……」


 泥団子をギュっと握り直し、オニギリのように形を整える。


「クリエイト・ゴーレム」


 タカシはオニギリのゴーレムを作ろうと考えたのだ。


 そんなことは普通なら考えない。

 タカシも通常の思考ならそんな事は考えなかっただろう。


 極限の空腹がそれを生み出した。


「えっ」


 それは成功した。

 土のオニギリがほのかに温もりを持つ。


 まるでコンビニで温めてもらったオニギリのように温かく、そして柔らかくなったのだ。


「はむっ」


 迷う時間はなかった。


 ゴーレムは数秒で消えてしまう。


 それまでに食べないといけない気がした。


「うっ……!!」


 衝撃がタカシを襲った。


「……うまいっ!!」


 土のオニギリはウマかった。

 味なんてないのにウマいと感じた。


「マジかよ……土うめぇ……」


 空腹は最高のスパイスとは良く言ったモノである。

 空腹が満たされる喜びそのものがおいしさとなっていたのだ。


「クリエイト・ゴーレム! クリエイト・ゴーレム!!」


 作れたオニギリは3個だった。

 SPが切れたからだ。


 だが、同時にSPが時間で回復することも判明した。

 数時間で少しずつ回復するようだ。


「なんかジャリジャリしてる……けど、食べちゃう……!」


 とても人間らしいとは言えないが、久しぶりの食事がタカシを満たした。


 ――ピロン!


 <タカシは新たに『称号:土食い』を獲得しました>

 <タカシは『称号:土食い』によりクラス・ボーナスを獲得しました>

 <タカシの『クラス:ゴーレム使い』がランク1→2に上昇しました>

 <タカシの『クラス:ゴーレム使い(2)』によりスキル・ボーナスを獲得しました>

 <タカシは新たに『スキル:クリエイト・ブロック』を習得しました>

 <タカシの『スキル:クリエイト・ゴーレム』が熟練度F→Eに上昇しました>


 それは3個目のオニギリを食べ終えたタイミングだった。

 脳内に再び音声が響いたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る