003:クリエイト・ゴーレム(F)


「えっ?」


 頭の中に聞こえて来た音声に、途切れかけていたタカシの意識が引き戻された。


「な、なんだ今の!?」


 ガバッと起き上がり、周りを見てみるが誰もいない。


 そもそも声をかけられた感じがしなかった。

 まるで直接脳内に話しかけられたみたいな、そんな不思議な感覚だったのだ。


「だ、だれだ!?」


 問いかけても返事はない。


「何だよ、今の……ゲーム?」


 消えかけの意識だったからちゃんと聞いていなかったが、『称号』とか『スキル』なんて単語が聞こえた気がした。

 まるでゲームみたいだ。


 幻聴だろうかとも思う。

 その一方で、別の可能性も思いつく。


「もしかして……マジで異世界に来てしまった、とか……?」


 それはタカシがずっと考えていた「なぜ」と「どうして」の答えの一つだ。


 なぜ自分がこんな場所にいるのか。

 どうして知らない内にこんな場所に来てしまっていたのか。


 その答えの一つに「異世界」と言う単語が思い浮かんではいた。


 漫画や小説でよく見る話だ。

 その中ではゲームみたいな世界も良く出てくる。


 ふとしたことで異世界に転生、転移してしまうストーリー。


 とはいえそれらはフィクションだ。

 自分とは関係ないと考えていたのだが……。


「さっき、スキル……クリエイト・ゴーレムって言ってたか?」


 試して見る価値はある。

 さっきの声が幻聴じゃないのなら、タカシはスキルを与えられているハズなのだから。


 スキルを唱えれば分かるだろう。


 それに全てが幻覚だとしても、不幸にもそれを見てバカにする人間はここにはいないのだ。


「よし……クリエイト・ゴーレム!!」


 最後の力を振り絞るように、タカシが声を張り上げる。


 そうして目の前の土の塊に手をかざすと、ゆっくりと土が動き始めた。


「お、おぉ……!?」


 ――ズモモモモモモモ……。


 ゴーレムと言えば、力強い土の巨人だ。

 その力なら土の壁を登れるかもしれないし、タカシを持ち上げて外に出してくれるかもしれない。


 ゲームや漫画でみた設定だが、ここがそんなゲームや漫画みたいな異世界ならおかしくない。


 ゴーレムさえいれば何とかなる気がしてきた。


 絶望していたタカシに、やっと希望の光が見えて来たのだ。


 ――ヴン!


 土が集まって形を成し、土の人形が誕生した。

 その目に光が宿る。


 はじめてのクリエイト・ゴーレム、成功である。


「いや、ちっさ!?」


 作り出されたゴーレムは小さかった。


 子供みたい、なんてレベルじゃない。

 なんと手の平サイズである。


 タカシの想像していたゴーレムとはまるで違う小人だった。


「ゴー!」


 そして小人のようなゴーレムは一鳴きして土に戻ってしまった。


「いや、効果時間みじかっ!?」


 いくらなんでもゴミスキルすぎる。


「い、いや、これはきっと何かの間違いだ! そうに決まっている!」


 スキルが失敗したに違いないと思い、タカシはクリエイト・ゴーレムを繰り返した。


「クリエイト・ゴーレム」


「クリエイト・ゴーレム!」


「クリエイト・ゴーレムッ!!」


「クリエイト・ゴーレムゥツ!!!!」


「クゥリエイトォ・ゴォーーーーレムゥツ!!!!」


 結果は変わらなかった。


 土の量を増やしてもダメ、先に形を作ってから唱えてもダメ。

 デカいゴーレムを強く念じながら唱えてもダメだし、変なポーズを決めながら唱えてもダメだった。

 言い方を変えてもやっぱりダメだ。


 <タカシのSPが不足しています>

 <タカシは『スキル:クリエイト・ゴーレム』を発動できませんでした>


 そして最終的には『SP』が足りないと言われて使えなくなった。

 クリエイト・ゴーレムが使えたのはたったの5回である。


「ゴミスキル!!!!」


 まるでダメダメだ。

 ダメすぎてなんかもう声に呼び捨てにされてることすらムカついてきた。


 希望は潰えた。


「……いや、まだだ!! さっき、確か『熟練度』って言ってたな!? 粘土遊びしてたら上がった……だったらもっと熟練度を上げれば……!!」


 これがゲームみたいな世界なら熟練度が上がれば効果もアップする。

 良くある設定だ。


 偶然にもタカシの「粘土遊び」が活路を作り出したのだ。


「うおおおおおおおおおおお!! ネコちゃんネコちゃんネコちゃんんんん!!!!」


 タカシは全力で土をコネまくる。

 コネる土には困らない。


 コネコネコネコネコネ!


 コネコネコネコネコネコネコネコネコネコネ!!


 コネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネ!!!!


「あがらねぇ!!!!」


 一日中コネコネしていたが上がらない。


「なんで……いや、違う」


 タカシは聞こえた声を必死になって思い出した。


 <タカシは新たに『称号:土遊び』を獲得しました>

 <タカシは『称号:土遊び』によりスキル・ボーナスを獲得しました>

 <タカシの『スキル:クリエイト・ゴーレム』が熟練度G→Fに上昇しました>


「そうか、『称号』だ……」


 熟練度が上がった時、タカシは『称号』を得ていたのだ。

 獲得した称号の効果で「スキル・ボーナス」を得て、その結果としてクリエイト・ゴーレムの熟練度が上昇したのである。


「だったら、なんとかして称号を手に入れるしかねぇ……!!」


 こうしてタカシの孤独な戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る