002:コネコネコネコネ
――1日目。
「何もないな」
タカシはペタペタと手で触って確かめながらぐるりと穴の中の壁を一周してみた。
なにか出口か、それか脱出のヒントになるようなモノがないかと探してみたが何も見つからなかった。
「ただの土の壁だ」
何か仕掛けがあるワケでもないらしい。
本当にただ深いだけの穴である。
「だったら……うおおおおおおおおおおおおお!!」
タカシが次に試したのは、壁をよじ登る事だった。
「ムリぃぃぃぃ!!」
少し上がった所で、ズザーーーっと穴の底まで戻ってきた。
「ムリムリ。爪ハゲるって」
壁はほぼ垂直だったが土である。
凹凸のある土の壁ならボルダリングのように登れるかと考えたのだが、とてもじゃないが不可能だった。
壁には思った以上に凸凹が少なく、仮に凹凸があったとしてもそもそもタカシにはそれを掴んで登るようなそんな握力はなかった。
タカシはデスクワークの社畜である。
その筋力は男性平均を余裕で下回るのだ。
「それに硬い」
壁に穴を開けようとも思ったが、それも不可能だった。
土の壁は思ったよりも硬い。
「マジでなんなんだよ……」
何もできないまま空は暗くなり、夜になった。
――2日目。
「ん……朝か……」
気が付くと眠っていた。
タカシは明るくなった空の光で目を覚ました。
「いてて……」
起き上がると関節がパキパキと音を立てた。
地面は固く、全身が痛い。
「ベッドって偉大だな」
うすっぺらい布団だったがそのありがたさを実感する。
いつもなら朝起きたら最低限の身だしなみを整え、栄養ゼリーを飲むように食べてから即出社である。
だがこんな状況では出社なんて無理だし、そもそもスマホがないから連絡もできない。
「今、何時だ? というか昨日って無断欠勤になるんだよな。部長、キレてるだろうな……って、それどころじゃないか。ハハ……」
こんな状況でもまず仕事の心配をしてる自分に乾いた笑いが出た。
クソ上司はどうでも良い。
そんなことより生命の危機だ。
ここには栄養ゼリーなんてないし、そもそも飲み水すらもない。
「腹へった……喉かわいた……」
すでに丸一日飲まず食わずである。
起きた時点で身体が重たかった。
とにかくここからでなければ。
「さて、どうしたものか……」
いきなりこんな意味不明な場所にいる。
タカシはその意味を考えていた。
どれだけ仕事で疲れていたとしても自分でこんな所には来ないと思う。
というかどうやって来たのかも分からない。
「迷い込んだ? それとも連れ去られた?」
人から恨まれるような事はしていないと思う。
そもそも一応は都会に住んでいた。
こんな深い穴がどこにあるというのだろう。
「わからん……」
でも、何か理由か原因があるに決まっている。
というかそうであってほしい。
何の意味もなくこんな場所に閉じ込められているなんて、そっちの方が怖すぎる。
どうしたらいいか分からない。
「上もダメ、横もダメ」
結局なにも分からず、再び脱出方法を考える事にした。
穴から続く道はない。
壁をよじ登るのも無理だった。
「残ってるのは…………」
下である。
タカシが今座っている地面だ。
「お、意外と柔らかいな?」
力を込めてみると、地面は素手でも掘れる柔らかさだった。
壁の土とは明らかに質感が違う。
「地面に何かあるのか? ははっ、まるで脱出ゲームだな」
絶望的な状況だと思ったが、突破口が見えるとなんだか楽しくなってきた。
体力はつきかけていたが、それでも体は気合でなんとか動くらしい。
「おらおらおらおらおらおらぁぁぁぁ!!!!」
勢いまかせに地面を掘りまくる。
下へ下へと掘る事はできる。
だが、どこまで掘れば良いのか分からない。
何かが隠されているとして、それがどこかは分からないのである。
だから地面をまんべんなく掘っていくしかない。
狭いと思っていた穴の底だったが、それを一面掘るとなると想像以上に広く感じた。
――3日目。
「もう無理だ……」
地面からは何も見つからなかった。
「というか、遠ざかってるじゃん……」
穴の底から見上げる空が昨日よりも遠い。
かなりの深さを掘った気がする。
タカシは掘った土に囲まれていた。
もう動く気力すら尽きていた。
考えるのも嫌になる。
「どうしろってんだよ……」
解決策は見つからず、近くにあった……というか無限にある土の塊をこねて暇をつぶす。
コネコネ。
子供の頃にした粘土遊びを思い出す。
その頃は楽しかったが、今は絶望しかない。
土で作った山にトンネルと通しながら、ネットで見た知識が脳裏をよぎる。
人間、意外と食べ物が無くても生きていける。
ただし水は必要らしい。
人間は意外とタフな生き物で、水さえあれば10日以上も生きられるらしい。
でも水がなければその半分以下、4日か5日くらいで死んでしまう。
タカシが穴に来てもう3日目だ。
死が近い事を体感していた。
立ち上がることも難しく、身体が痛い。
不確かになってくる意識を手放してしまったら、もう戻って来れないような気にもなってきた。
意識を保つために土をこねる。
少し掘った先の土は柔らかく、本当に粘土みたいだった。
というか粘土の層なのかもしれない。
「ネコちゃん」
土を猫のように形作る。
何か目的を持つ。
そうしないと意識が途切れそうだった。
コネコネ。
コネコネコネコネ。
コネコネコネコネコネコネコネコネ。
コネ…………。
もう限界。
タカシがそう思った時……突然、頭の中に何かが聞こえた。
――ピロリン!
<タカシは新たに『称号:土遊び』を獲得しました>
<タカシは『称号:土遊び』によりスキル・ボーナスを獲得しました>
<タカシの『スキル:クリエイト・ゴーレム』が熟練度G→Fに上昇しました>
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