50 勇者一行、旅立ち
五日後、いよいよ旅立つ日を迎えた。お城の玄関にカムロンさんやクララさん達、親ビンやレティ姐さんが勢ぞろいしている。
カムロンさんがハル様に「お気をつけて」と言うと、傍で見ていたセル様が泣き出してしまった。
「う、うぇぇ……。本当は僕も行きたいよぉ。兄上もペペも行っちゃうなんて寂しい……」
「おいおい、泣いてる場合じゃないだろ。俺が不在の間はおまえがこの城の
城の主と言われた途端、セル様はピタリと泣きやんでハッとした顔になった。
「そうか、僕が代理の主人なんだね。しっかりしなきゃ……! 二人が帰ってくるまで、このお城をちゃんと守っておくからね!」
「ああ、よろしく頼んだぞ。用が済んだらすぐに戻ってくるからな。じゃあ行ってくる」
「行ってきますペエ!」
『ペペェ! ちゃんと生きて帰ってこいよォ!』
『お土産は気にしなくていいですわよ』
親ビンのコメントはともかく、レティ姐さんは何か勘違いしている様子だ。軽いお出かけだと思ってるっぽい。軽いどころか、この大陸の存亡がかかってるんだけど……余裕があればお土産を買ってあげよう。
ハル様と私は庭の端っこに置かれた羽つき馬車に乗り、扉をしっかり閉めた。この馬車はアシュリー姫から借りたもので、行き先を告げるだけで自動で目的地まで運んでくれるらしい。
「ブルギーニュの王宮まで」
ハル様が言った直後、馬車がふわりと浮く感覚があった。座席に立って窓を覗くと、またたく間にお城が小さくなっていく。サンタクロースのそりに乗っているみたいだ。
「本当に飛んでますペエ……! なんて軽やかな走りペ! さすが六千万ポッキリだペエ!」
「……ネネリム殿がいちいち値段を言うから……。それにしてものんびり走るんだな。翼竜ぐらいのスピードじゃないと、到着が遅れるんじゃないか?」
ハル様の発言に反応したのか、馬車の速度が一気に増した。私の体をまたもやGの衝撃が襲い、座席に体が押し付けられる。
「ペギャッ!」
「そうだ、これぐらいじゃないと移動してる感じがしない。ちょうどいい速度だ」
「ハッ、ハル様はスピード狂だペェ! プロクスに慣れすぎペエッ!」
「なるほど……いつもそんな風に思っていたのか。動物が喋るのは面白いもんだな。ペペの中身はリノだと分かっているが、ガイ達にも喋らせてみたかった」
私が喋るようになって楽しくなったセル様とハル様は、親ビン達にもこの魔道具をつけたかったらしい。しかし彼らは『今のままで充分でェ』と言って首輪を拒否したのだった。
「親ビンたちは喋りたくないって言ってたペェ。今のままで充分通じてるから、首輪は付けたくないそうだペ」
「親ビン……ぷ、くく。動物の間でそんな呼び名を使っていたなんてな。親ビン……面白すぎるだろ」
「レティシアのことは、レティ姐さんて呼んでるペエ」
「姐さんか。確かに姐さんて感じはするかもな……。親ビンに姐さんか。ははは!」
とうとう腹を抱えて笑い出してしまった。今の話のどこに笑いのツボが? 私ら割とマジメに親ビンと姐さんて呼んでるんですけども。そりゃまぁ私も、最初は戸惑ってましたけども。
ハル様が大笑いしている間に国境の森を越え、ブルギーニュに入国した。この羽つき馬車にはブルギーニュの王家の紋章がついているので、攻撃される心配はない。王家の紋章って格好いい響き。
王宮が近づくにつれて馬車のスピードは下がり、徐行運転に変わった。塔の頂上にヘリポートのような場所があって、そこで手を振っている人たちがいる。アシュリー姫とレゲ爺さんたちだ。
馬車はゆっくりと頂上に着地した。
「遠路はるばるようこそ。お疲れではないですか?」
「大丈夫です」
アシュリー姫の質問にハル様は涼しい顔で答え、後ろに立っている爽真たちを見渡す。爽真もネネさんも出掛ける用意を終えていた。
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