48 四人で旅に出ることに
「聖獣は寿命が近づくと卵を一つだけ産む。そして雛が成鳥となるまで見守ってから死ぬ、といわれておるが……今回の場合、雛が育つ前に親鳥の寿命が尽きたんじゃろう。この水晶は恐らく、親鳥が雛を守るために張った結界なのではないかのう」
「でも結界の中では育たなかったみたいですね。雛のままですし」
「むしろ結界のせいで成長が遅れたのかもしれん。ようやく分かったわい……。リノ殿をこの世界に召喚したとき、魔法陣の展開中に雛が何らかの干渉をしたんじゃ。それで雛とリノ殿が入れ替わってしもうたんじゃな。雛も生きるために必死なんじゃろうなぁ」
「異界からの転移の場合、魔法陣の展開中に異界人の体と魂を
「拒絶反応はないが、この雛を見ても分かる通り、全然育っておらんじゃろ。このままだと、雛もリノ殿も弱って死ぬかもしれん」
「えぇっ!?」
「それは困る!」
「まだ死にたくないペェ!」
「ぐぇっ……!」
セル様とハル様、そして私に詰め寄られたレゲ爺さんは、襟を引っ張られたせいで首がしまり「息が!」とうめき声を上げた。解放されてよろよろと椅子に座る。
「グェホッ! ぜぇ、はぁ……。と、とにかくじゃな。今のまま放置すれば、魂と肉体の乖離が進んで、リノ殿は自分の体に戻れなくなるかもしれん。聖獣の雛も、魂と体が一致してないから本来の力を発揮できないんじゃ」
「雛のまま成長しないという事は、卵も産めないという事ですよね。つまり、このリノ様入りの雛が、最後の聖獣になってしまうのでしょうか」
「大変なことですわ……! 聖獣が生まれなくなったら、南大陸は魔物だらけになってしまいます! リノ様の体だって、放置すれば死んでしまうのかも知れないのでしょう? ああ、どうしたら……!」
「俺がその霊山って場所に行きます。そして聖獣入りの莉乃を、ここに連れてきます」
爽真が言うと、騒然としていた部屋がしんと静まり返った。レゲ爺さんもネネさんも――ハル様まで、何故かぎょっとした顔で爽真を見ている。そんなにおかしなこと言ってなかったと思うけど。
「俺はワイアット殿下から頼まれて、何度か霊山の調査に行ったことがあるが……あの島は魔物だらけだぞ。少し進むだけで魔物が大量に出てくる。山になんか近づく事すら出来ない。三十人の騎士を連れて行っても同じ状況だった」
「精鋭と噂のロイウェル騎士団でも、山には入れなかったのですね。わが国も聖獣の調査に魔法士を向かわせましたが、大怪我をして帰ってきましたわ。回復魔法は軽い怪我にしか効きませんから、命がけの調査になってしまいました」
ハル様とアシュリー姫の発言を聞き、爽真はシュンとうな垂れてしまった。やる気を出してくれたのは有難いと思うけど、死んじゃうかも知れないなら行ってほしくない。なんでそんな怖い場所で私の体は寝てるのか……!
「先生なら行けるのでは?」
「えっ、ワシ? 老体に鞭打つ気か!? ワシだって、あんな怖い山になんか行きたくないわい!」
ネネさんとレゲ爺さんが何かモメている。賢者でも無理なら、誰が……と考えてる内に、素晴らしい事を思い出した。
「あっ、そうペエ! 私が一緒に行きますペ! 私が一緒だと、魔物が出て来ないはずだペエ」
「そう言えば、聖獣は魔物を退けるんでしたっけ。問題解決ですね。ソーマ様とリノ様聖獣で行ってもらいましょう」
「ちょっちょっと待て! 俺も行く!」
ハル様が急に大きな声を出したので、私を抱っこしていたセル様がビクッと体を揺らした。最近のハル様はどこかおかしい。
「どうして兄上も一緒に行くの? ペペが一緒なら、魔物は出て来ないんでしょ? そりゃ僕だって、一緒に行ってみたいけどさ」
「いや、あの……。魔物は出てこなくても、人間が出てくるかもしれないだろ。召喚された魔物は主の命令に従うんだから、聖獣でも襲われることはあり得る」
ハル様がしどろもどろと呟くと、アシュリー姫がハッとしたように顔を上げる。
「そうですわ。聖獣の雛を手に入れようとする人間がいてもおかしくはありません。ずっと雛のままの聖獣なんて、権力が欲しい人間にとっては格好の餌食です。手に入れれば他国に対する威圧にもなりますし……。むしろ魔物よりも人間の方が厄介ですわ」
「ネネリム、おまえも行って来い。おまえの魔法でリノ殿たちを守るんじゃ。それにな……会いたい奴にも会えるかもしれんじゃろ」
「……そうですね。あの人に会えるなら行ってみます。それに
「ハァ……どこで育て方を間違ったんじゃろ。ソーマ殿、リノ殿。そしてリーディガー公。弟子をよろしく頼む。こんな奴でも、きっと役に立つはずじゃ」
レゲ爺さんは深々と頭を下げた。
こうして私たち四人は、恐ろしい霊山へ行くことになったのだった。
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