41 爽真、尋問を受ける(爽真視点)
何度も剣を打ち込んでいると息が切れてくる。達人レベルになると体力の消費も魔力でカバーするらしいけど、俺にはまだ無理だ。ただ必死で剣術の先生に切り込んでいく。
しばらくして先生――騎士クエンティンは言った。
「ソーマ殿、今日はこの辺にしましょう。かなり体力がつきましたね。ソーマ殿は筋がいい」
「ありがとうございます、クエン先生」
この世界に来て三週間たち、ようやく滑らかに話せるようになってきた。早口で捲くし立てられると聞き取れないこともあるが、日常生活ではほぼ支障がない。
だからこそ、俺に対する不満や陰口なんかも容赦なく理解できるレベルになってしまった。かといって不満があるわけじゃない。むしろ俺はよくしてもらってると思う。ただ、気になることもあった。
「クエン先生。俺、心配なことがあるんです」
「心配……どういったことですか?」
剣の手入れをしていたクエン先生は、鞘に収めると俺の方を向いて言った。この人は騎士なだけあって、礼儀正しくて信用できる人物だ。本音を言っても大丈夫だろう。
「自分でも分かってるんですが……俺は多分、勇者ではありません」
「ソーマ殿……! なにを急に」
「変なことを言い出して、申し訳ないと思います。でもここに来て三週間も経ったから、さすがに自分を騙すのは限界になってきました。勇者のくせに俺は無力すぎます。クエン先生も気が付いてるんでしょう」
先生は少し戸惑う様子を見せたものの、俺の顔をまっすぐに見て頷いた。やっぱりそうだ。この人はとても真摯な人だ。
「自分が無力だからって、拗ねるつもりはありません。ただ、アシュリー姫のことが心配なんです。偽者の勇者を召喚したせいで、姫の立場が悪くなったらどうしようかと……」
「ソーマ殿……ご心配には及びません。確かに今回の勇者召喚に関しては不穏な噂も多いですが、アシュリー殿下が常に公務を優先しておられることは周知の事実。不満を持つ者の方が少ないでしょう。殿下の事は我々が必ずお守りしますから、大丈夫ですよ」
「それを聞いて安心しました。俺はまだまだ非力ですが、きっとこの国のために役立ってみせます」
クエン先生と硬い握手を交わしたとき、誰かがバタバタと廊下を走ってやって来た。十人ぐらいいる大臣の一人だ。全員アラフォーぐらいの年齢なせいか、名前を覚えきれていない。誰だっけ。
「ソーマ殿、アシュリー殿下がお呼びですぞ! 賢者レゲリュクスが目覚めたと……!」
とうとうその時がやってきたらしい。目覚めた賢者レゲエは俺にどんな審判を下すのか。偽の勇者だと言うのか、髪型はやっぱりドレッドヘアなのか。
緊張しながら大臣と一緒にアシュリー姫の執務室へ行くと、サンタクロースみたいな白いヒゲの爺さんがソファに座ってクッキーをむしゃむしゃ食っている。レゲエっぽさは全くない。むしろ洋風寄りの爺さんだ。
(誰がレゲエだよ……って、俺が勝手に賢者レゲエって呼んでただけなんだけどな)
よく見ると爺さんの隣に二十歳ぐらいの女の人も座っていた。昆布みたいな色の髪を三つ編みにした、眠そうな目の女性だ。爺さんと同じようにクッキーを貪り食っている。どんだけ空腹なんだろうか。
「ソ、ソーマ様……」
子供みたいにがっついている二人を見ていると、椅子から立ち上がったアシュリー姫が蒼白な顔で呟いた。同時に、口元を食べかすだらけにした爺さんが俺を見て――
「おかしいのう。ワシが呼び出した勇者は、おまえさんではないようじゃが」
予想通りの発言をぶちかましてきた。やっぱりそうか。分かっていたけど、頭をガツンと殴られたようにショックだ。
しかも俺のショックはそこで終わりじゃなかった。姫さんが青ざめた顔で、凄いことを話し始めたのだ。
「あの、実は……ロイウェルの上空で、聖獣の姿が確認されたそうですわ……。伝承の通り『
「ということは、勇者さまの役目はなくなったということですね」
「そもそもワシとネネリムが呼び出したのは、勇者ではなく『聖獣を目覚めさせる者』じゃ。まぁ似たようなものかもしれんがの」
「でも、それにしたっておかしいですよ。確かに召喚の手ごたえはあったのですから、真の勇者はちゃんとこちらの世界に呼べたはずです」
レゲ爺さんと昆布の女性が早口でなにか言っている。相変わらず俺の頭はショックでガンガンと揺れていたけど、一つの言葉だけはちゃんと耳に残った。『真の勇者』という言葉が。
「やっぱり……俺じゃなくて、莉乃が勇者だったのか……」
思わず呟いた瞬間、六つの目がギラッと光った。アシュリー姫が俺の腕をがしっと掴んで、無理やり爺さんの向かい側に座らせる。怖いんすけど。
「ソーマ様、今なんと仰いました?」
「リノが勇者だった、とか言いましたね」
「やっぱりワシの召喚は失敗してなかったんじゃな! 賢者のくせに失敗かよとか言われんですむわい」
そうして俺は三人から尋問を受け、体育館裏での出来事と、俺に激突した白いペンギンが莉乃かもしれないという事を喋ってしまった。
但し、莉乃が俺に告白したという事実だけは、あいつの名誉のために隠しておいた。
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