15 特訓の成果出したよ
『あのな。オメーが元人間だろうと何だろうと、ご主人たちにゃ関係ねェんだ。それともオメー、媚びも売らねェで、タダ飯食ってのうのうと生きようッてのかァ?』
『えっ? そんなつもりはないけど……』
『自分の胸に手ェあてて、ペットの役割を考えてみるんだな。この伝統あるラルトゥアーク家に仕える以上、オメーにもペットとしての誇りを持ってもらわねェと困るッてモンだぜ』
『はぁ……。自分に出来ることがあるなら、頑張るつもりです』
『その意気だ。栄えある三公の一人、ハルディア様の
『ど、どうも……。親ビン』
親ビンは満足げに頷き、子分を連れて引き上げていった。
(セル様が言ってた『みんな』って、親ビン達のことだったのか……。むしろ驚かされたのは私の方だわ)
ハル様とセル様はずい分アクの強いペットを飼っているご様子だ。広いお城に住んでるから問題ないんだろうけど、犬と猫が合わせて七匹もいるし、そこに私が加わるわけで。結構な大家族だ。
(カムロンさんとクララさんが、ハル様のこと『旦那さま』って呼んでたっけ。という事は、このお城の責任者はハル様なんだろうな。家族がお兄ちゃんと弟の二人きりで寂しいから、ペットをたくさん飼ってるのかも? ご両親はどうしたんだろ)
「ペペー! どこにいるのー?」
本を広げようと思った瞬間、私を呼ぶ声が聞こえた。この声はセル様だ。私はベンチの上に立ち上がり、フリッパーを振りながら叫ぶ。セル様、私はここです。
「ペエーッ!」
「はぁ、はぁ……。お庭にいたんだね」
セル様は走ってきたのか、やはり胸を押さえて苦しそうにしている。ちょっと走ったぐらいでこんなに息が切れるもんだったろうか。私が八歳ぐらいの時はどうだったかな……。ハッキリとは思い出せないけど、公園で元気に遊んでいたような気がするんだけど。
セル様は足元に転がるボールを見て、「あっ」と呟いた。
「誰かがここで取って来い遊びしたんだね。僕もやっていい?」
「ペエ!」
(今度こそ、ペットの心意気ってモンを見せてくれるわ。このお城で居候する以上、半端な仕事は許されないッ……!)
「いくよ、ペペ。えぇいっ!」
セル様が頼りないフォームでへろへろとボールを投げる。精一杯投げたんだろうけど、ボールは五メートルほど離れた場所にぼとっと落ちた。よし、行くぞ!
「ペペェッ! ペェエエ!」
(私は可愛らしいペンギンの雛だ。今だけは人間を捨てて、ペンギンになりきるんだッ!)
ペンギンらしいヨチヨチ歩きでボールを取りに行き、両フリッパーでボールを挟んで戻る。今にもボールが落ちそうだけど、それでいいのだ。案の定、セル様がハラハラした顔で見守っている。
「頑張って……! ほら、僕はここだよ!」
「ペエッ!」
セル様が地面に膝をつき、両手を広げて私を待っている。私はヨチヨチ歩きのまま彼の腕の中に飛び込んだ。
「よくやったね、ペペ! 偉いよ!」
「ペエエッ!」
セル様は私を抱き上げ、感極まった様子でほお擦りした。うまく行った。いい仕事が出来て気分は最高だ。
しかし私を抱っこするセル様の背後に、ギリギリと歯を食いしばるお嬢猫レティシアと、何かに感動して打ち震える親ビンを発見。喉から「ヒッ」と変な声が漏れた。
『なんですのぉ、あの新入りは! セルディス様にほお擦りしてもらえるなんて生意気なッ!』
『いいじゃねェか、許してやれよレティ。アイツいい仕事したなァ……。やっとペットの極意を掴んだみてェで、オレも鼻が高いゼ! 指導した甲斐があったってモンだ!』
(なんかブツブツ言ってるみたいだけど……よくわかんないな)
私に読唇術でもあれば二匹の会話を読めたんだろうけど無理だった。
多分レティシアは悔しがってて、親ビンは訓練の成果が出たと喜んでるんだろう。
……多分だけど。
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