16 守ってあげたい
「お食事の時間でございますよ。屋敷にお入りください」
「はぁい。みんな、中に入るよ!」
「ナァーオ」
「ウォン!」
カムロンさんが私たちを呼びに来て、皆でゾロゾロと廊下を移動する。食事をする部屋はおやつを食べた部屋とは別だった。
教室が二つぐらい入りそうな広い部屋に、長方形の大きなテーブルが置かれている。すぐ横に、ちゃぶ台みたいな低くて小さなテーブルも。
「みんな揃ったか。では食事にしよう」
「ペペはガイ達と一緒に、この小さなテーブルで食べてね」
「ペエ」
小さなテーブルにはハル様たちと同じ食事が一人分用意されていた。他は動物用の食事だ。私の皿を覗き込んだ親ビンが首を傾げている。
『なんでェ、オメーの食事は。人間サマと丸ッきり同じじゃねェか』
『はぁ。私はミミズとかが食べられないんで』
『オメー……そこまで本気で、自分を人間だと思いこんでンのかァ? ある意味アッパレだぜ! 赤ん坊のくせにやるじゃねェか!』
『フンッ。ちょっと変わった事して、ご主人様たちの気を引こうとしてるだけでしょ。何も天晴れじゃないわ』
『レティ
『って言うより、レティ姐さんが気に入る奴の方が少ないだろ。姐さんにとっては他のペットは敵みたいなもんだからな』
小型犬たちが何かボソボソ言うと、レティシアの目がギラッと光った。レーザー光線でも出そうな鋭さだ。
『なんですってぇッ!?』
『ヒッ!』
『キャゥン! なんでもねぇです!』
『怒んなよォ、レティ。オレたちゃァ同じ釜の飯を食う仲なんだ。ペペだってまだ雛なんだし、温かく見守ってやろうゼィ!』
逆毛を立てるレティシアに動じることなく、親ビンがノンビリした口調で言う。江戸っ子口調でも喧嘩っ早いわけではないらしい。
(レティシアは恐怖政治をするタイプなんだな。この城をまとめてるのが親ビンで良かったかも。親ビン、長生きしてください)
変なことを祈ってる間に食事が終わり、ハル様とセル様はお風呂に行ったようだ。兄弟で仲良く入っているんだろう。
親ビンたちもどこかにお気に入りの寝床を用意してもらっている様子で、皆でぞろぞろと部屋を出て行った。レティシアにはやっぱり睨まれたけど。
私はと言えば、クララさんの手でもしゃもしゃと体を洗ってもらった。今日はいちどお風呂に入ったけど、セル様が私と一緒に寝たいということで、念のため清潔にするらしい。セル様は何かの病気みたいだから気をつけているのかもしれない。
「ペペ、お風呂は済んだ? 僕ちょっと疲れちゃって……もう寝ようかな」
「あら? セルディス様、お熱があるじゃありませんか。さあ、早く寝台にお入りください」
セル様の部屋で待っていると、彼は赤い顔で戻ってきた。お風呂に入ったせいで赤くなったのかと思っていたけど違ったらしい。
クララさんがセル様の額に手を当てたあと、急いで部屋を出て水が入った桶と布巾を持ってきた。絞った布巾を額にのせられたセル様はふにゃっと笑っている。私も不安になってきて、寝ているセル様のほっぺたをモフモフと撫でてあげた。
「心配させてごめんね。僕は瘴気の感受性が高いみたいで、しょっちゅう熱を出しちゃうの。いつもの事だから大丈夫だよ」
「ペエ……」
(ショウキって何だろう。空気とは違うの?)
首を傾げてると、セル様が説明するように話し出す。
「空気には、瘴気っていう体に悪いものが少し混ざってるんだって。普通の人はそれを吸っても大丈夫みたいなんだけど、僕はすぐに苦しくなっちゃうんだ。だからあんまり走ったり出来ないの。聖獣が出てこなくなっちゃったせいで、瘴気はだんだん濃くなってるんだって……。僕、もうすぐ学校にも行けなくなるかも……」
セル様は悲しそうに言って、ハラハラと涙をこぼした。私まで切なくなってくる。
「ペエッ! ペペエ、ペエ!」
(セル様、私がそばにいるからね! 一緒にたくさん遊ぼ。ねぇ、泣かないで……)
短いフリッパーを懸命に伸ばしてセル様を抱きしめると、彼は照れくさそうに手で涙をぬぐった。
「えへへ、泣いちゃった……。気のせいかもしれないけど、ペペが来てから少しだけ息が楽になったような気がするんだよね。それとも、あれかな……僕もしかして、ちょっとずつ強くなってるのかな」
「ペエ、ペエ!」
(きっとそうだよ。そのうち病気なんか治っちゃうよ!)
首をぶんぶん縦に振ると、セル様はふふっと笑った。そして私をぎゅうっと抱きしめたまま目をつむる。
「早く大きくなりたいな。強い大人になって、兄上を心配させないようにしたい……」
セル様は囁くように言って、すうすうと寝息を立て始めた。眠ってしまったようだ。私も目を閉じて寝ることにする。
(今日は怒涛の一日だったな……。温泉でハル様の裸は見ちゃうし、プロクス戦闘機に乗ったし。お城に着いたらアクの強いペット達に歓迎されちゃったしなぁ。でも拾って貰っただけ有難いことだよね)
明日からも頑張ろう。私はセル様の腕の中で眠りについた。
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