11 Gの圧力
『気にしないでください。さぁハルディア様、背中にどうぞ』
プロクスは地面に寝そべり、背中に乗るように促した。
私をチラッと見て、『おまえはオマケだ』と呟きながら。
(ぐんぬぅぅうう! なんて偉そうな奴!)
「ペペ、怖いのか? 大丈夫だ。プロクスは見た目は怖いが優しい奴なんだ」
「ペペェエ……!」
(ハル様、騙されてる! そいつが甘いのはアナタにだけです!)
怒りに震える私を見て何か勘違いしたのか、ハル様は私の頭をよしよしと撫でてプロクスの背に乗った。奴は「グォッ」と一声鳴き、空に浮かび上がる。
何か不思議な力でも使っているのか、羽ばたきを一回しただけで一気に空の上だ。さっきまで地面に立ってたのに、今はビルの上ぐらい。
何度も羽ばたきするうちに、とうとう地平線が見えるほど上空に来た。村の家は米粒みたいな大きさだし、こんもりと茂る森の向こうには青い海が見える。
「ペンガーッ!」
(すんごぉい! 本当に空を飛んでる!)
『あまりはしゃいで空から落ちるなよ。ハルディア様のお手をわずらわせるな』
『そんなこと分かってるよ!』
「いい友達が出来て良かったな、ペペ。今から行くのは俺の領地があるリーディガーという都市だ。ロイウェルは王都以外の国土を三つに分割していて、その内の一つを俺たちラルトゥアーク家が治めている。リーディガーはここからだとかなり遠くてな……馬で移動した場合、五日はかかる。でもプロクスなら一瞬で着くんだ」
『フッ。オレにかかれば長距離移動なんてたやすい事ですよ』
プロクスは得意げに言ったが、ハル様には「グオオ」としか聞こえなかっただろう。あの鼻で笑う「フッ」がとにかくウザったい。
こいつはとんでもないキザ竜だわ。
「プロクス、そろそろ結界を張る。いつものアレを頼む」
「グオッ!」
「ペエ?」
(いつものアレって何? えっ――えええ!?)
急に風を感じなくなり、不審に思った瞬間、プロクスの移動速度が急激に上がった。
ぐんっと体が押しつぶされて、「グエッ」と声が漏れる。
これがG――重力加速度か! 戦闘機みたいな感じなんですけど!
「ペンギャアアアア!」
「よしよし。ちょっとの辛抱だからな」
ハル様はのんびりとした口調で言い、私の背中をぽんぽんとあやした。
「ペッ、ペフゥッ! ペェエエ……!」
(違う、怖いんじゃなくて! Gが! Gの圧力が凄いんです!)
プロクスは戦闘機のような速度で空を移動していく。
ギュィィィン!と音まで聞こえてきそうだ。でも結界のせいで風も音も感じない。飛行機にはまだ乗ったことがないけど、こんな感じなんだろうか。
『おい、着いたぜ新入り。ヨダレ垂らしてる場合じゃないぞ』
『へ?』
キザ竜プロクスの声ではっと我に返ると、真下に大きなお城が見える。すぐ横には湖があって、陽光をキラキラと反射してとても綺麗だ。
プロクスはゆっくりと羽ばたきながら地上へ降りた。
「ありがとう、プロクス。また何かあったら頼む」
『フッ。おやすい御用ですよ』
ハル様がお礼を言うとプロクスは再び舞い上がり、上空へ消えた。消えたように見えたけど、実際には高速移動したんだろう。
とんでもない暴走タクシーだった。
「兄上ーっ! おかえりなさい!」
プロクスを見送った直後、お城の方から少年の高い声が聞こえてきた。ハル様と同じ銀髪の、八歳ぐらいの男の子だ。
彼は小走りしてきてその勢いのままハル様に抱きついた。お兄さんによく似ている。
「ただいま、セルディス。あぁほら、息が切れてるじゃないか。無理して走るなよ」
「だ、だい、じょぶ……。すぐに治まるから……」
セルディスと呼ばれた少年は、胸に手を当ててぜいぜいと苦しそうな呼吸を繰り返した。何かの病気なんだろうか。
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