7 聖獣?

「おはようございます。おまえ、ペペという名前を貰ったんだな。良かったな!」

「ペエ」


 朝食を取っていると、にこやかな笑顔でウォーカーさんがやって来た。彼はしゃがみ込んで、椅子に座る私の頭をモフモフと撫でている。


 『ペペ』という名前には何のツッコミもない様子だ。団長の命名センスに関しては暗黙の了解があるのか、それともウォーカーさんも似たようなレベルなのか。

 彼は皿をテーブルに置いて私の隣に座った。ハル様は私の向かい側だ。


「昨晩は珍しく魔物が出ませんでしたね。朝までぐっすり眠れました」


「珍しい事もあるもんだな。これも勇者のお陰かもしれない……。小型の魔物は勇者を怖がってこの付近から逃げたんだろう。こいつが森の中で魔物に喰われずに済んだのも、そういう事なんじゃないか?」


「ペ?」

 どうやら私のことを話しているらしい。ナンのような平べったいパンを食べていると、ハル様は「食べカスだらけだ」と呟いて私のくちばしを布で拭いてくれた。ありがとうございます。


「そうかも知れないですね。昨日から不思議に思ってたんですよ……こんな弱っちい雛が一人で森の中を歩いてたら、すぐに魔物の餌食になりそうなのになって。それで俺、考えたんですけど」


 ウォーカーさんは動かしていたスプーンを止めて、じっと私を見つめた。少年のようなキラキラした瞳で。


「こいつが森の中で無事だったのも、魔物が出なかったのも、もしかしたらこいつが……ペペが特別な鳥だからじゃないでしょうか」


「特別な鳥? まさか聖獣のことを言ってるのか?」


「はい。霊山オンブラフルに棲む聖獣は、もう十年以上も目撃されてないでしょう。各地で魔物が増えたのもそのせいみたいだし……。今回の遠征も魔物討伐だったけど、今後も騎士団が呼ばれる事案が増えそうな気がします。ペペが聖獣の雛だったら嬉しいんですけど」


「霊山にいるはずの聖獣がこんな場所にいるのはおかしいだろう。それにこいつ、さっき魔法を使おうと頑張ってたみたいだが、何も出てこなかったぞ。俺にはただの可愛い雛にしか見えないけどな」


「ペフッ?」

 ハル様は幼子を見るような眼差しで私を見つめ、またくちばしを布で拭いた。しょうがないなと小言をこぼすお母さんみたいな仕草で。


「ペエエッ! ペンペ、ペエッ!」

(今は雛鳥でも、いつかきっとお役に立ってみせます! 見ててくださいよ!)


「……何となくですけど。ペペの奴、『俺にだって出来るゼ』って言ってるように見えます」


「奇遇だな、俺もだ。でもこんな雛鳥を戦闘に巻き込みたくはないな……。わが国にも、勇者を召喚できる賢者がいれば良かったんだが」


「ロイウェルには賢者を呼べるだけの設備がないですもんね。そう考えるとブルギーニュは用意周到というか……。あの国だけ飛びぬけて魔法技術が発展してますよね。あそこの王女もやり手だなぁ」



「アシュリー殿下か。国王が瘴気病にかかってから、政務をほぼ一人で取り仕切ってるらしい。

今回の勇者召喚も国を賭けた勝負だったんだろう。南部大陸でもっとも権威を持つのはブルギーニュだと、世界に示したようなもんだな」


 私はナンみたいなパンを啄ばみながら、二人の話に耳をすませた。どうやらハル様たちは魔物を討伐するために何処かへ出かけ、その帰り道に私を拾ったらしい。


 セイジュウというのはよく分からないけど、昨日お城で見たピンクの髪の人がお姫様というのは間違っていなかった。


(あの人やっぱり王女様だったんだ。お父さんが倒れたから、あんなに必死だったんだなぁ)


 爽真に手を差し伸べたアシュリーさんは、かなり疲れている様子だった。見た目は綺麗なドレスを着ていたけど、目の下には青いクマがあったように思う。


(この世界も色々と大変そうだな。私に出来ることがあればいいけど)


 朝食を終えたハル様たちは旅支度を始めた。テントを畳み、使っていたテーブルや椅子などのキャンプ用品を一箇所に集めている。

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