3 公爵様に拾われました

 草むらを掻き分けて出てきたのは、二十歳ぐらいのバタ臭い顔をしたお兄さんだった。髪の毛は普通の茶色だけど、やっぱり日本人ではないみたいだ。お兄さんの後ろからさらに別のお兄さんが出てくる。


「本当だ。影が小さかったから、子供が森に迷い込んだのかと思ったのにな。どうする?」


「とりあえず団長の所に連れて行こうぜ。魔物ではないみたいだし」


(……いま、魔物って言った? 私ってばとうとう地球から出ちゃったわけ?)

 ぽかんとしてるとお兄さんの一人が私を腕に抱っこした。


「うわ、ふわふわだ……。マフラーなんかしちゃって可愛いなぁ」

「ああ……。モフモフしててすごく可愛いな」


 なんという事でしょう。面と向かって「可愛い」と褒めてもらえたのは、十七年生きてきて初めてでございます。


「ペエ?」


 コテンと首を傾げると、二人のお兄さんが身もだえしている。


「ペエ、だって。すげぇ可愛い!」

「こんなに可愛らしいのに、森に捨てられたのかな。マフラーしてるぐらいだから、飼い主がいたみたいなのになぁ」


 お兄さん達は交替で私を抱っこして、「ふわふわ」だの「モフモフ」だの言いながら森の中を歩き、しばらくして広場のような場所に出た。

 お兄さんたちと同じ服装をした人が集まって、何か話し合ったり馬の世話をしたりしている。三十人ぐらいいそうだ。


 みんな黒っぽい古風な服を着てマントを肩にかけ、腰には長くて重そうな剣。まるでゲームに出てくる騎士みたいな格好だ。コスプレイヤーの集団だろうか。彼らの高そうな服や装飾品から、尋常じゃない金額と情熱を感じる。本気だ。本気のコスプレ集団だ……!


「団長、森の中で不思議な鳥を保護しました」


「……不思議な鳥?」


 団長と呼ばれた男性は馬の世話をしていたけど、私を抱っこしたお兄さんに呼ばれて振り返った。


(ほぉうわぁああ! いっ、イッケメーン!)


 映画俳優かと思うような美形の登場に、私はくちばしをぱかーんと開けた。爽真も学校で噂されるぐらいイケメンだったけど、もうレベルが全然違う。

 顔のパーツが何もかも完璧。CGで作ったのかと思うような美形で、だいたい二十代の後半ぐらいに見える。


(でもやっぱり……目と髪の色が変。地球であんな色の人間はいないはずなんだけど)


 イケメン団長の髪は青みを帯びた銀色で、瞳なんか薄い水色だった。真夏のプールと同じ色だ。もう明らかに地球人ではなさそうな感じ。

 まぁ私だって今は謎のペンギンなんだけど。


「何かの雛かな。マフラーをしてるじゃないか……。飼い主とはぐれたのかもしれない。周囲に人影はあったか?」


「いえ、誰もいませんでした。生き物の気配があったので調べたところ、この鳥を発見したんです。ブルギーニュの方向から歩いてきたみたいですよ」


 ブルギーニュ? お城があった場所の地名――それとも国名だろうか。

 お兄さんが私の体を持ち上げたので、団長とまともに視線が合った。おふぅ。至近距離で見るとすごい破壊力。


「この森は国境だからな。俺たちのような武装した集団が、許可なく他国に入るわけにはいかないし……。仕方ない、この鳥はしばらく俺が預かろう」


 団長はお兄さんの手から私を受け取り、腕のなかに抱っこした。お兄さんが私にそっと顔を寄せて小さな声で囁く。


「良かったな。おまえの嫁ぎ先が決まったぞ」

「ペエッ!?」

(とっ、嫁ぎ先……!?)


 お兄さんの冗談に、私の胸はトゥックンと熱く――高鳴ったりはしなかった。

よく考えたら今の私はペンギンじゃないか。つまりただのペットじゃないか。ため息が漏れる。


「ペフゥゥ……」

「こいつ『ペエ』と鳴くのか。可愛いな」

「そうでしょう。とても可愛いですよね!」

「はいはい、殿方の皆さま! お喋りはそこまでにして、お食事ですよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る