2 森の中で
「すまねぇな。殿下に命令された以上、おまえさんを城から出さなきゃならん。寒いだろうから、これ巻いときな」
衛兵のオジさんは私の首にマフラーをぐるぐると巻いてくれた。マフラーからオジさんの匂いがしたので、自分の物を私に譲ってくれたのかも知れない。おカミさんに叱られないだろうか。
「もう城のなかに迷い込んだりするなよ。元気でな」
「ペェ……」
オジさんは心配そうに言って、分厚い門から私を外に出した。高さ四メートルはありそうな重厚な木の扉だ。閉じられた門から離れて見上げると、門の向こうに空に届くような巨大な建物が見える。
(城って言ってたけど、本当にお城みたいな建物だなぁ……。でも日本にこんな洋風の城あったっけ?)
日本の城といえば天守閣があるような和風の城だけだったと思うのに、目の前にそびえ立つ城には日本らしさが全然ない。鉛筆のように先端が鋭い塔なんか、まるでファンタジーの世界だ。
爽真の手を取っていたお姫様の髪もすごい色だったし、ここは日本じゃないのかも?
……爽真のデレデレを思い出したらムカムカしてきた。が、頭をブンブンと振る。
(今はそれどころじゃない! この森なんだかやばそう)
お城の外は深い森だった。暗い木立のなかに一本の細い道がクネクネと続いている。歩いていたら狼が出てきそうな不気味さで、私はもふもふの体をぶるりと震わせた。
ハッキリ言ってかなり怖いけど、追い出された以上お城に戻ることは出来ないんだから、この森を進むしかない。
(マフラーを首に巻いたペンギンが、深い森の中をさまよっております。……って、こんな冗談言っても全然気分あがらないんですけど)
小さくなったせいか周りに生えてる木なんか普段よりずっと巨大に見えるし、黒々とした木々の隙間から時おり聞こえる「ギャア、ギャアッ」という鳥の声にビビリまくる。
あれってカラスだろうか。モンスターがいそうな雰囲気が本気で怖い。
「ペェェ~!」
(誰かいませんかぁ~!)
森の中に、ペェェ、ペェェ……と虚しくこだまする私の鳴き声。
いるわけないか。こんな暗くて不気味な森に一人でいる方がおかしい。
(そうだよ、逆にこんな森に誰かいるほうが怖いよ。遠くに明かりが見えたらオニババの家だったりしてさ……。そこで一晩泊めてもらったら、夜中に追いかけられて喰われかけて……って、三枚のおふだかッ!)
どうして人間というのはビビッている時に限って、怖い話を思い出してしまうのか。むしろ自分を追い込む愚かな行為だというのに。
(全然関係ないこと考えよう。そもそも、なんで私と爽真がワケの分からない場所にいるのかな……)
私と爽真は家が近所で、小学校から一緒という腐れ縁だった。爽真のことが密かに好きだった私は猛勉強して彼と同じ進学校に入学。
もうすぐ三年になるという時期に「このままじゃイカン」と一念発起して想いを伝えたら、「いいぜ、付き合ってやるよ」とOKしてもらえて……。
(告白の舞台に、体育館の裏というベタな場所を選んだのが失敗だったのかな。めでたく彼氏と彼女になった直後に、落とし穴に落ちるとは思わなかった)
告白が成功して爽真と手を繋いだ瞬間、地面に光る円が出現して体が落ちるような感覚があった。そしていつの間にか城の中にいたのだ。ペンギン化するというオマケ付きで。
(無理やり変な場所に移動させられた上に、ペンギンになってるとか……意味不明なんですけど! やってられるかぁ!)
「ペエッ!」
ふて腐れた私は足元に転がっていた石を短い足で蹴り上げた。石は太い幹にガスッと当たり、跳ね返って草むらに落ちる。
フンッと鼻息荒く歩き出した私だったが、草むらがガサゴソと揺れたことで足を止めた。
(な、なに……!? なにかの動物? それとも本当にオニババ? 肉食動物が出てきたらどうしよう。ペンギンの肉は美味くないよってアピールするとか……!?)
怯えてる内にますます草むらが激しく揺れる。逃げたいけど足が震えて動けない。
――ガサッ!
「ペギャッ!?」
「あれ? なんだ、子供じゃないぜ。変な鳥だ」
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