第38話 神力


「……く、くくく………漸く来たな、ジン!人間を滅ぼす時1番の障害は貴様だ…貴様さえ消せば後は虫を殺すも同じ…」


吹き飛んだアルビオンは体を人型に変えつつニヤリと笑う


「…………ホントに神ってのは余計な事しかしないらしいな」


「ジン、後は任せるわ、私達は兵士を止めに行くから」


ヒラヒラと手を振りながら戦線へと向かうシオン、ザクソンとクレアもそれに続く


咲は既に斬り込んでおり、兵士達を薙ぎ倒す…手加減してる?


「余所見とは余裕だな!!」


鋭い爪に魔力を通して無数の斬撃を飛ばすアルビオン…その一つ一つがかなりの威力を持っている


「さて、爺さん達からの詫びの品…試してやろうか…」


聖剣を構え、魔力を滾らせる

主神より賜りし神の力が聖剣を包み込み…形を変える…


神装聖剣


神力宿し、ジンが持つ神格と同調する事でジンの全能力を上げる神器


「風神剣・斬千輪」


一太刀で無数の風の刃を放ち、アルビオンの斬撃を全て切り抜く…


「バ、バカな!?」


強くなった自身の技を破られ驚愕するアルビオン、慌てて風の刃を回避する、が


「炎神剣・獄牢葬」


退避した足元に炎の円陣が現れ灼熱の火柱が上がる


「ぐああぁぁぁあぁぁ!!!!!」


「……なるほど、各属性を神の力まで引き上げるのか…使う事はこれで最後と願いたいな…」


明らかに人が持つには過ぎた力、使わない事に越した事はない


火柱が収まり体の大部分を焦がしたアルビオンは立ちあがろうにも力が入らない


「こ、こんな事が…あってたまるか!!俺は、魔王様をも倒したのだ…なのに、こんな…こんな何も出来ずに!!」


倒れ伏すアルビオンの体から黒いモヤが滲み出ている


「!?くそ!本当に性格が悪いな、ロキ!」


再び狼の姿に変わるも、先程よりも巨大になりフェンリルの美しい白銀の毛並みがドス黒く染まっていく、それと同時にアルビオンの魔力が急激に上昇するのを感じる


これ以上はアルビオンの体が保たない!


ぬるりと立ち上がるアルビオン…


「フーフーフー…スベテ…コワス…」


「アルビ、っ!?ぐぁ!!」


一瞬にして眼前に移動したアルビオンの突進を咄嗟に防ぐも衝撃で吹き飛ぶ


「なんて力だよ…うお!?」


間をおかずに追撃を繰り出され、迫る爪に咄嗟に防御するもアルビオンの猛撃は終わらない


「くそ!ただ目の前の敵を殺す事しか頭にないか!だが、これ以上の攻撃はこいつが死んじまう!」


防御に徹するもジリ貧だ…どうすれば…!?


「っ……!!しまった!」


遂に聖剣を弾き飛ばされてしまう、武器を無くして無防備になった俺にアルビオンは爪を伸ばして振るう


「っのぉ!がはっ!」


掌底で腕を弾くも追撃を喰らう、腹部に鋭利な爪が刺さる


「ぐ…あぁぁ…はな…れろ!!テンペストバースト!!」


空気の大砲をアルビオンにぶつける、あまり効果はないが距離は取れた


「…っ……いってぇな」


腹から血が流れる、ズキズキと痛みもする右手はもうダメだな…


「コロス…シネ…」


「お座りです、アースバインド」


突然、地面がうねり鞭のように伸びてアルビオンを拘束した


「なんだ!?」


「まだまだ、グラビティコア、アースクエイク、メタルロック、プリズンマリン、アブソリュートロック…」


「グ……オオオオォォォォ!!」


長い金髪を靡かせドレスの様な装いに身を包んだ美女が舞い降りた


「っ!?メティス!?なんでここに!?」


「ダークバインド…喰らいなさい!グランドクロス!!」


様々な拘束魔法を行使して、上級魔法を放った


「ふぅ…マスター、ご無事てすか?おや、傷を負っていますね、治療します、エクスヒール」


治癒魔法をかけられ腹の傷がみるみる癒えていく


「メティス…こんなに強かったんだな」


「ふふ…これぞ知識の賜物です…が、身体能力自体は普通の人と変わりません、魔力量と知識を活かして行いました…しかし、あれでは足止めが精一杯ですね…威力もマスターには遠く及びません、なので…私は本来の役目を全うします」


メティスが俺の額に指を当てる、するとイメージが流れ込んできた


「これは……って、これをやれって?ぶっつけで?」


「はい!マスターなら出来ますよ」


「はぁ、他に選択肢はないか…サポート頼むぞ」


「お任せを、我が主人」


聖剣を天に掲げありったけの神力を込める、制御はメティスに任せた…


神力が漲る聖剣から光が放たれ、アルビオンとその配下達の体から黒いモヤのようなものが滲み出できた


「ぐぉぉお……お……ぉ…」


アルビオンは倒れ、意識を失った…

戦場を見ると兵士達も全員倒れている

終わったようだ


「…ふぅ、上手くいったな」


神聖魔法の解呪を神力で広範囲に展開した、俺に神格を与えたのはゼウスとオーディン、ロキの呪いくらいなら消し去れると考えた


「お見事ですね、マスター…凄まじい神気です、私も制御するのに苦労しました」


「俺は力を垂れ流しにしただけだよ、メティスがいなきゃ制御どころか、暴走させてアイツらを殺してたかもしれない、助かったよ…メティス、アルビオンの治療を頼む」


「お任せを」


そう言うとメティスはアルビオンに近寄り状態を確認する


「これは…酷いですね、魔力回路もボロボロ、血管や臓器まで損傷が見られます…巨大すぎる力に体が耐えられていなかったからでしょうが…精神まで壊れてしまえば私も手の打ちようがありません…」


本当にふざけてる…俺達は神のオモチャではないのに…


「それなら、問題ないわよ…その子は強い子だから」


シオンがそんな事をいいならがこちらにやってきた

兵士達も呪いが解け、戦闘は収まったみたいだ


「随分と早く片がついたのね、ありがとう、ジン…みんなを救ってくれて…魔王国の姫としてお礼を言うわ」


「気にするな、奥さんの故郷の連中だ、助かるさ、友達でもあるからな」


「お、奥さん………きゅ、急にやめてよ…もう…」


シオンが顔を赤らめて縮こまってしまった、それを愉快そうに見ながらザクソン達がやってきた


「全く、そういう事は帰ってからやれ」


「あらあら、姫様ったら可愛いわね」


「ジンくんも言うねぇ〜」


「おい、腹が減ったぞ」


皆、怪我もなく問題なさそうだな


「勇者ジン殿」


不意に名を呼ばれ、振り返ると七大罪の幹部達ビスタ、リリス、ナタ、ジィードがいた、どうやら傷は治してもらったみたいだな


「まずは感謝を…我らが同胞を救ってくれて感謝する、貴殿には救ってもらってばかりだな、我らの立つ瀬もない」


ビスタが前に出て礼を述べてくれる


「気にすんなよ、お前らが食い止めてくれたお陰で、間に合った、ありがとな」


「相変わらず、出鱈目な強さだよね〜」


「ふん、貴様の為にやったわけではないわ」


「………ふーん」


「む?どうしたのだ、リリス「うるさいわね、ブタは黙ってなさい」……………」ガクッ


ビスタが可哀想だな…リリスが俺とシオンを交互に見て意味深に笑う


「良かったわね、姫様、付き合うまではいけると思ったけどまさかやっちゃうなんて、どっちから迫ったの?」


「なっ!?」「ちょっとリリス!何を言い出すのよ!」


「私はサキュバスよ?分かるに決まってるじゃない、で?どうだったの?ジンは優しくしてくれた?感想を聞かせなさいよ〜」


「いいいいい言えるわけないしょう!!!」


顔を真っ赤にして叫ぶシオンに満面の笑みで詰め寄るリリス、やめてくれよ、俺にも被害が来る…と、リリスを止めようとしたら、肩をすごい力で握られた


「おい…勇者ジン…詳しく聞こうか」


般若のような顔をしたジィードが俺を見つめている、こ、殺されるのかな?


「やめろ、ジィード、姫様の意思だ…ビスタ、ナタ、この過保護を抑えろ」


「無粋な真似はよすのだ、姫様が幸せならば良いではないか」


「そうだよ!あんまりな事すると姫様に嫌われるよ?」


「ぐぐっ…は、離せー!!よくも姫様を……!!」


「はぁ…疲れた…」


俺は騒がしいなか空を見上げて呟いた

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捨てられた大地の辺境伯は元勇者 うめとう @YUDAI3430

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