第37話 呪われた神狼
〜カルバード領南部〜
「ふー、ふー…さぁ、進め!人間を滅ぼすのだ!」
目が血走り、呼吸も荒い、巨狼が数多の魔族に叫ぶ…フェンリル
七大罪 憤怒のアルビオン
「ニンゲン、ホロボス…」
「コロス…」
「シネ、シネ、シネ」
彼が率いる兵達は明らかに正気ではない、その軍の様子に対峙する魔王軍は押される
「い、一体どうなっているのだ!彼等は普通じゃないぞ!明らかに体を労っていない!あ、あれでは敵も味方も己すら傷つける!」
慌てた様子で戦場を心配そうに見つめるオーク
七大罪 暴食のビスタ
「落ち着きなさいよぉ、豚…ビスタ、兎に角私達は足止めよ、姫様やジンが来るまでアル達をここに留めないと」
苛立った様に佇む絶世の美女…サキュバス
七大罪 色欲のリリス
「今豚って言ったよね?隠しきれてないよ、もう口が悪いんだから…でもでも、あまり持ちそうにないよ、僕らも行かないとね!」
ふんす!といったように気合を入れるインプ
七大罪 傲慢のナタ
「こらこら、先走らない…私達の役目はリリスが言ったように足止めです、これは魔王様のご指示なのですよ、出来るだけ彼等を傷つけずに拘束しなくては…難しいでしょうが」
眉を下げ、困り顔の老人…バフォメット
七大罪 嫉妬のジィード
彼等は魔王軍の幹部七大罪、人間を遥かに超える力を持つ魔族の中でも飛び抜けた力の実力者達…しかし、彼等が率いる兵達は相対する同胞達に苦戦を強いられる
兵の1人1人が倍近い強さを身に付けている、しかし、その身に余る力に肉体は悲鳴を上げるも、全く意に介していない
「不味いわね…このままでは抜かれるわ、ジンはまだなの!?魔王様を倒したアルと戦えるのはもうアイツしかいないのに!」
「ジィ、ポータルは?」
「まだ反応がありませんね…ザクソンが持っていった転移門を使えばここに瞬時に来られるはずなのですが…ビスタ、このポータルのコードはちゃんと伝えたのでしょうね?」
「え?……………………………???」
「お"い、この豚…テメェ何してくれてんだ?ゴラ」
ガラリと雰囲気を変えリリスが詰め寄る
「ひっ!ひぃぃいいい!!ご、ごめんなさい!」
「わーわー!!落ち着いて!リリ姉!ビスタもわざとじゃ…そうだよね?ジィ」
「…………死ね」
「ふぃぃやあぁぁ!!ゆ、許して〜」
「あーもう!姫様!ジン兄ちゃん!早く来て!このままじゃ同士討ちになる〜!!」
「邪魔だ!貴様ら!失せろ!」
「「「「っ!?!」」」」
わちゃわちゃと揉めている間にアルビオンの接近を許し、魔力による咆哮をマトモに受け吹き飛ぶ4人
「俺は人間を殺しに行くだけだ…何故邪魔をする!?」
「そ、そんなの友を救う為に決まっている!もうこんな事はやめ"!!」
真っ先に立ち上がって説得を試みるビスタは後ろに立ち上がったリリスに蹴り倒された
「いっでぇな!ぶち殺すぞ!?クソ犬がぁ!」
その後にゆらりと立つジィードとリタ
「いいだろう…小童、久方ぶりに躾けてやろう」
「あーあ、痛いなぁ…痛いよ、アル兄…僕もう知らないから…」
「み、皆さん…落ち着いて!無茶です!我々が束になっても今のアルビオンには敵いません!」
「「「うるさい黙れ」」」
「そ、そんなぁ…くっ!やるしかないのか…アルビオン…」
「邪魔をするならば死ね!」
〜カルバード領南部上空〜
「どうして転移門が使えないのよ!お陰でかなり出遅れたわ!それもこんな少数で来る羽目になったし!」
「落ち着いてよ〜姫様…仕方ないじゃない、ポータルのコードがわからないんじゃどうしようもないわ」
「恐らくビスタだろう…全く、他の奴らも何故奴に伝来を任せた」
「やかましいぞ!貴様ら!黙って乗っておれ!」
シオン、クレア、ザクソンの3人はルーセルスの背に乗って空を駆けていた
「それにしてもジン君と咲ちゃんは大丈夫かしら?」
「心配ないでしょ、あの2人よ?」
「確かにな、ジンは当然…咲も同様に強者だ」
「私達は兎に角急ぐわよ!ルーお願い」
「任せよ、強い魔力を感じる…あそこだ!」
〜カルバード領南部、ルーセルスの後方地上〜
「まだ着いて来れるか?咲」
「全然、余裕!そろそろ?」
俺と咲は上空を飛ぶルーの後を追って地上を走っている、ルーに乗るのも限りがあるからな…
「しかし、良かったのか?着いてきて、戦闘だぞ?」
「大丈夫だよ!セイやザクソンさんと特訓した成果を見せてあげる」
「そらは頼もしいな、だが無茶するなよ?」
「うん!ジン君もね!あ、ルーちゃんが降りるよ!」
「あぁ、此方も見えた…行くぞ!」
俺は聖剣を…咲は大剣を抜き放ち、戦場を駆ける
〜カルバード領南部〜
「……うぅ…………」
「…ぐっ……こ、これ程…とは………」
「………ぐぅ…く、クソが…」
リタ、ジィード、リリスの3人はボロボロになり地に倒れている
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「どけ、ビスタ…これ以上は殺すぞ?」
そんな彼等を守るように立ち塞がるビスタも既に満身創痍であるが大斧を握る手に力を込める
「し、死ぬつもりは毛頭ない…が、ここを通す訳にはいかん…」
「………何故、戦う?俺の力は魔王様をも超えた、貴様が勝てる可能性は微塵もないぞ?」
「………ふ、力に飲まれ、そんな事も忘れてしまったのか…アルビオン、我を誰と心得るか」
「む?」
「我が名はビスタ!!七大罪 暴食の名を魔王様より賜りし魔王国の守護者!!されど今は我等が主人を救いし1人の人間の恩に報いる為!何よりも!道を踏み外し、同胞を己を主人を傷つける友を救う為!ここから退く訳にはいかん!」
「……そうか、ならば死ね!」
覚悟を決めるビスタにアルビオンは大口を開け、噛み殺そうとする、が…
「させる訳ないでしょ、このバカ犬!」
「がっ!?」
上空から降りてきたシオンがアルビオンの顔面を踏み付ける
「ひ、姫様…」
「ビスタ、よく持ち堪えたわ、後は任せて下がりなさい…ルー!皆を運んでちょうだい!」
「全く…ここでも私を運び屋にするのか…」
遅れて降りてきたルーの背からザクソン、クレアも降り、倒れる3人に声を掛けた
「随分とやられたようだな…貴様ら」
「う、うるせぇよ…」
「もう、相変わらず口が悪いんだから…リリスは…リタ君もジィードさんも大丈夫?」
「うぅ…痛いよぉ〜クレア姉〜」
「申し訳ない、力及ばす…」
未だ、アルビオンに構えるビスタの肩に手を置き後退を促すザクソン、しかし…
「さっさと下がるがいい…ビスタ、よく皆を守った、コードを伝えるのを忘れた事はこれで無しにしてやる」
「ザ、ザクソン殿…姫様…ア、アルビオンを…」
それを最後に倒れるビスタ
「こんなに無茶して…ルーちゃんお願いね」
ルーの背中に全員を乗せ離脱させる
「アッサリと見逃すのね…アル」
「…アネさん、ザクソン…クレア、お前達も俺の邪魔をするのか?俺の目的は人間を滅ぼす事…邪魔をしなければ同胞には何もしない」
「それじゃあ、私の大切な人が困るのよ…悪いけど貴方はここで倒させてもらうわ」
「いくらアネさんでも、今の俺には敵わない…死ぬつもりか?」
漲る魔力を放出させるアルビオン…
「なんという魔力…確かに何かされているようだな」
「けれど、これは彼の体は耐えられていないわ…」
「アル、舎弟の分際で私に歯向かうのね…ここはお仕置きをしたいところだけど、残念だわ…貴方の相手は私では無いのよ」
「何……?」
「神聖剣!!」
「…っ!?ぬぁ!!??」
光輝く斬撃がアルビオンを襲う…
聖剣を携え、神の力を得た勇者が戦場に降り立った
「よう、アルビオン…お前に喝を入れにきてやったぜ」
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