第33話 顕現


「さて、皆に集まって貰ったのは他でもない、俺は決めたぞ」


あれから暫く考えていたら日が沈んでいた


既にミリアム達は帝都へと返されて、ザクソン他、皆通常通りに仕事をしていた、働き者だなぁ


え?俺?帰ってきてから何もしてません!!

ごめんなさい!後で必ずやります!


「なんだ、一体…俺は忙しいんだが?」


「まぁまぁ、領主様が我々を集めるのは珍しい事です、それに真面目な話のようだ」


「何かしら?ひょっとして昨日の帝国のお客さんの事?」


「………………」


それぞれが話す中シオンだけが俺を見つめて何も喋らない…き、緊張するじゃん…


『マスター、偽りのないマスターの言葉で伝えてあげてください』


…あぁ、ありがとな、相棒


「帝国滅ぼさない?」


「アホか」


「正気ですか?」


「頭、大丈夫?」


「失礼だな!?俺は至って真面目だ!」


「なら、説明しろ…放っておいても滅び行く帝国に態々お前が手を下す理由を」


「え?そんなもん気に入らないからだよ」


……皆、黙っちゃった…え?何?どう言う反応?


「続けて…」


シオンの透き通る声がした、相変わらずこちらを見つめている…


「…今更だけどさ、帝国の奴等、皇族や貴族に腹が立って来たんだ、だってさ?俺は元々農民だぜ?聖剣じゃなくて鍬持って畑を耕してたんだ、なのにいきなり魔王を倒せって意味わからん、しかも、功績奪って追放ってバカだろ…」


なんで怒らなかったのか…きっと心が擦り切れていたんだ、それで怒るのにも疲れていた


「あの時の俺がキレてたら死んでたぞ?皇帝…そりゃさ?魔王のオッサンも、魔族の皆いい奴だったし?ここに来てからもホロやシャミに会って、シオンも来てくれて…ルーやザクソン達も手伝ってくれて街が出来た…故郷の、ミリーや叔母さん叔父さん…世話になった人達も連れてこられて…キツい生活から抜け出せた、相変わらず皆は土を弄ってるけど…」


もう腹を空かせる事のない日々を俺も含めて皆が共有できる街になった


「今、俺はめちゃくちゃ充実してるんだ…確かに帝国が滅びようがこの街には微塵も影響はないだろ、宣言はしてないが、既に独立していると言っていい…」


この街はもう一国家とだって渡り合える程発達したからな、これも皆のお陰だ


「でだ、今更ながらに心に余裕が出来た俺は、あれ?なんでやられっぱなしで終わらせようとしてるんだ俺?ってなったわけよ」


滅びるならせめて落とし前をつけさせたい


「まぁ、はっきり言って俺の我儘だ、個人的な恨み100%だしな」


「うん、いいんじゃないかしら?」


シオンが立ち上がってこちらに歩み寄る


「やっと言ったわね…自覚がないストレスは本当に厄介ね、いい?ジン、貴方が漸く感じた怒りは普通なの、誰だってやりたくもない事を強要されたり、一生懸命にやり遂げた事を横取りされたり、住んでいた場所から追い出される事を受け入れることはまずないわ、けど、貴方は受け入れた…それは帝国から離れたかったというのもあるのでしょうが、待遇があまりにも不当、この領地を任された以上、貴方は帝国側にもっと要求をしても良かった、けどそれをしなかった貴方に落ち度があるとは言えないわ、10年もの間、必死だったのでしょうから…」


俺の頬を撫でて優しい笑顔を向けてくれるシオンの言葉に胸が熱くなる気がした


「本当に世話のかかる奴だ、これで街の連中も納得するだろう」


「本当にね〜皆、怒ってたから…でも当の本人がなんともなさげにしてるんだもの…どうしようか困るのよね」


「然り、仕える前の事とは言え、主を軽く扱われ我慢できるほど私は温厚ではないので…漸くですな」


「私も張り切っちゃうよ!ジン君を虐めた人を懲らしめなくちゃね!」


「ふん、怒り方も知らぬ阿呆はどうでも良いが…舐められるのは気に入らんな…焼き尽くしてやろう」


『いよいよですね!マスター!では、ミサイルなどは如何ですか!?魔法が使えない者にはアサルトライフルを持たせましょう!」


「さあ!私達のジンをコケにした帝国に引導を渡すわよ!皆!用意しなさい!」


「……え?皆行くの?」


「当然よ?旦那をバカにされて黙っていられると思う?この私が…安心して?誰も殺さないわ…死にたくなるほどの苦痛を味あうことになるけどね」


「いやいや〜そんな事されると僕、困っちゃうんだよね〜?」


「「「「「っ!!!????」」」」」


突然、聞き覚えのない声がした…誰も、何もなかった場所にいきなり1人の少年?が現れた


「しっ!」「……」


この場で瞬時に動いたのは俺とザクソン


聖剣を顕現さえ少年に斬りかかる俺と魔刀を抜き放ち斬りかかるザクソン

しかし、剣は空を斬った


「いきなりだね、でも流石だよ…勇者君、それに魔族の君も僕の気配を感じ取るなんてやるね」


「何者だ」


「全員、微塵も油断するな!コイツは神だ!バエソン!周辺…いや、この区画から住民を退避!今すぐに!アグニ!お前は手を出すな!俺とザクソン以外はここから出ろ!相手にならないぞ!ザクソン!本気でやらないと死ぬぞ!」


すぐさま指示を飛ばして、皆を逃す、


「…っ!それほどが…クレア!姫様を!」


「ちょっと!私も戦うわ!って!?クレア!咲も!離しなさい!ジン!」


「ダメよ!あれは次元が違いすぎる!」


「無理無理!あんなの無理だよぉ〜」


シオンを抱えて2人が部屋を出る

その間俺達はこの少年の神から一切目を離さない


「そこまで警戒しなくてもいいよ、まだ君達には何もするつもりはないから…っと、来たね」


「漸く、姿を見せましたね…ロキ」


時空が裂け、そこから顔を覗かせたのは俺をこの世界に転生させた堕女神だった

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