第32話 本心
「さて、あの人らが街を見て回っている間に…何する?」
アグニに姫様御一行の案内を任せ、会議室に残った俺達、どうしようか聞くと、何故か全員から呆れられてしまう、え?なんで?
「阿呆、やる事など決まっているだろ、さっさとあの姫を返す…ここに置く価値すらない、加えて連れの者達は時間が経てば経つほど漬け上がり街の住民と必ず問題を起こす、今でさえ、奴らが街を回るのは反対だ…この街の現状を知ればよからぬ事を考える奴もいるかも知れん」
「領主様、彼等帝国は貴方をいいように使い、役目を終えた途端に捨て去った連中です、あの姫がそうでなかったとしても、です…最低でもここに置くのは姫殿下のみ、他の連れの者達は不快です」
「ジン君、私もあまりいて欲しくないかな、私もこの街に来た頃は迷惑かけちゃったけど、その後も街の皆はよくしてくれて、貴方も私を気にかけてくれた恩人なんだよ、そんな貴方を蔑ろにした連中に優しくする必要ないよ、貴方が出来ないなら私達でやるよ?」
『マスターはご自身が悪意に晒されたという自覚が無いようですが、帝国はマスターに滅ぼされても仕方がない仕打ちをしています、マスターの身柄の拉致、拘束…魔王討伐の強要、功績の強奪、果てには追放です……マスター、滅ぼしませんか?マスターの魔法なら6割程の威力で城を消し飛ばせます、いつ行きますか?』
……皆の意見はわかった、メティスは黙ってろ、1人だけ過激すぎだろ
「皆が俺の為を思って言ってくれているのはわかる、けど俺はもう気にして無いんだよ、今はこの街の事で一杯だし、皆がいてくれるから大丈夫だ」
「ブラック企業で過労死した貴方の大丈夫は信用ならない…」
「ぐふっ!」咲による容赦のない一言!
「きっと貴方は自分の誤魔化し方が上手いだけで気にして無いわけじゃない、いずれは決壊するよ…」
「お前は街の中のことだけ考えていろ、外の事は俺達でやっておく…世界を救ったんだ、もう無理に手を広げるな…」
けど、それでも俺はもがき苦しむ彼女を放っておかない
「ジン、貴方はもうこの件には関わらないで」
扉が開き、入って来たシオンは開口一番にそう言い放つ
「なんでだ?」
「さっき、ザクソンも言ったわ、貴方はこれ以上無理はしないで、貴方はこれまでよくやったわ、後は私達に任せて」
「……すまん、無理だわ、じっとしているのは性に合わない」
「嘘つき…なら、街の事をやって、領主としての仕事はまだまだあるわ」
「しかしな」
「ダメ、これは譲れないわ…ザクソン、バエソン、咲…アグニに連絡、あの連中を転移門に連れて行きなさい、帝都に送り返すわ」
「御意」「承ります」「はーい」
シオンに命じられすぐさま動き出す3人
部屋から出て行き、残ったのは俺とシオンの2人
「なぁ、一体どうするつもりなんだ?」
「どうって、どうも?あの連中を返して、この件は終わりよ」
ピシャリと言い放つシオンに俺は…きっと臆していた
「だが、このままじゃ帝国は」
「滅んでいいじゃない、貴方を捨てた国なんて、まさか助けるつもりなの?バカ言わないで…貴方の頼みだろうとこの街の人々は手は貸さないわよ…寧ろ率先して止めるわ」
「どうしてだよ!国が一つなくなろうとしてるんだぞ!」
「貴方はいい加減にその偽善を辞めなさい!貴方が帝国を救おうとする理由は何!?産まれた国だから?貴方が帝国民だから?勇者だから?帝国は自ら貴方を捨てたのよ!滅びるのは自業自得なの!貴方になんの責任があるって言うの!?貴方は勇者なのかも知れない、だけど勇者っていうのは役目であって、それは既に終わっているの!そもそも貴方の意思じゃない!勇者だから救わなくちゃって思っているなら、今すぐその考えを捨てなさい…」
「お、俺は…別に…勇者だからって理由で…ただ…」
「それとも、あのお姫様が気に入ったの?私は飽きちゃった?」
「違う!」
そんなわけないだろ、何を言い出すんだ
「…ごめんなさい…熱くなりすぎたわ……でもね?私はもう貴方が無理して戦う姿は見たくないのよ、この街を作っている時の貴方はとても楽しそうだったわ…私が守りたいのはそういったものよ…いい?もう帝国とは関わらないで」
そう言ってシオンも出ていってしまった
偽善…か、確かに望んで勇者になったわけじゃ無い
ミリーを守ろうとして力が目覚めて、それを皇帝にいいように使われた
あれ?いつから俺は勇者なんだ?
手に紋章が現れた時?皇帝に魔王を倒せと言われた時?魔王のオッサンを助けて世界を救った時?堕女神に記憶を戻してもらった時?
…別に俺から勇者って名乗ったことはない、皆が勝手に言ってただけで…
『マスター、マスターが勇者と呼ばれたのは貴方が旅の中で人々にそう思われる行動をしていたからではないでしょうか』
俺の行動…そんなつもりは…
「ありがとう!貴方、まだ子供なのに強いのね!」
ただ死にたくなかった
「感謝する、貴殿のお陰で町は救われた」
逆らえば殺されるのがわかったから
「す、すげぇ!なんて強さだ!アンタこそ英雄だ!」
強くなる為に必死に魔物や魔族達と戦って…
剣を振って、魔法を学んで…全部俺の為で…
「ありがとう!勇者!」
「勇者様!母が助かったのは貴方様のお陰です!」
「勇者殿、共に戦えた事を誇りに思いますぞ」
「勇者様!」「勇者!」
『マスターの旅路で救われた人々は確かにいます…マスターの目的は違ったかも知れません、それでもマスターを勇者と呼ぶに相応しいと人々が感じたのです…今のマスターは自分の為に行動したいますか?ミリアムを救いたいと思う心はマスターの本心からの願いですか?』
…………いや、違う…と思う
苦しんでいる彼女を見て助けなきゃって思ってそれで…あれ?俺は…いつからそんな事を思っていたんだろ…俺はずっと自分の為に、生き残る為に、強くなら為に行動してきた…
誰かを助けたいと思って戦った事なんてない…
魔王のオッサンを助けた時だって、オッサンを庇うシオンを見て罪悪感を感じたくない、そんな情けない事を考えていた
今、俺自身はどうしたいんだ?
帝国を救いたい?違う、元々はあの国から独立して干渉させないような街を目指していた
あの姫を救いたい?違う、皇族も貴族も関わり合いになりたくなかって追放を敢えて受け入れた
追放を言い渡された時は、なんだこのオッサン首刎ねようかなって思ってた、けど故郷の皆が巻き込まれる事を心配して…あれ?今皆この街にいるよな?
この街の戦力って…
勇者、魔王の娘、七大罪の2人、ハイエルフ、龍人……あ、強いわ
そうだよ、帝国なんてもうどうでもいいんだよ
もう別に我慢しなくていいのか…最近は街を発展させる事が楽しくて外に意識を向けてなかった、だから帝国の事が頭から抜け落ちていたんだ
…………今更だけど仕返ししていいんじゃないか?
人を物みたいに扱ったのは向こうだし、追放したし、3バカにはボコボコにされたこともある…父さんと母さんが死んだのも薬を行き届けさせない国の所為だし…
善人である必要ないような?
あ、決めたわ
「帝国滅ぼそう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます