第31話 ミリアムです


私はミリアム

この帝国の皇帝の末娘…本当にそうなのでしょうか?よく疑問に思う時があります


私が産まれた事で母は亡くなりました

恐らくその事が原因だと思われるのですが、父からはいないものとして扱われました

本当の所は分かりません


兄妹達を見ても同じ血が流れているとは思えないのです

横暴で傲慢でそれぞれが自分中心に世界が回っていると思っている勘違いさんばかりなのです


小さい頃はまだマシでした、メイドに乱暴する兄、我儘で街のお店を荒らす姉、私は堪らずに諌めようとしたのですが、殴られ蹴られました

これがマシな方なのです


成長した兄妹は気に入らない事があると私を的にして魔法を放ってきます

一度私を庇ってセバスが大怪我を負いました

今でも背中には大きな傷が残っています

それからは回復と防御を中心として魔法を学びました


その甲斐があってか、私は神聖魔法を会得するとこが出来、兄妹達からの魔法をものともしない程、強力な障壁を張るまでに至りました


魔法が効かないとわかると兄達は父同様、私をいない者として扱い出しました


父に直接、言っても適当にあしらわれ、無視される時もありました…


干渉すらやめた兄妹達を筆頭に徐々に私を無視する者達が増えてきました

最終的には食事さえ用意されなくなりました

城の中には私の居場所はなく、次第に城下へと足を運ぶのですが


そこで見たものに私は酷く罪悪感を感じたのです

貧富の差、横暴な貴族、金にもの言わす権力者

ここにいるのは人間なのか、疑いたくなるほどのものでした


その筆頭こそ私の兄妹、そして父…


あぁ…この国はもうダメかもしれない、そう思ったのですが、私も皇族の1人、何よりも人として…この地獄を目の当たりにしてじっとはしていられませんでした


すぐに行動を始めた…けれど

改めて私にはなんの力もないと痛感しただけでした


それでもなんとかもがき続けていたある日

城に1人の少年が連れてこられました


この時の私はまだ幼かったのでしょう、好奇心に勝てずにこっそりの覗き見しました

そこには勇者と祀られた少年がいました

父からは魔王を倒す様に命じられた様です

私よりも年上でしょうがまだ子供になんというか事を命じているのでしょうか…


その少年は旅立つ為に数日、城に滞在する様なのです

また私はこっそり会いに行きました


ダメでした、何故か部屋の前には見張りが…?

どうしてでしょうか?

そのまま会えずに勇者様は旅立って行きました


会えなかったのは残念ですが、私にはやるべき事があるので気持ちは切り替えないと


実は勇者様に憧れていると言うのは内緒です、どんな人かもわからないですしね


それから10年が経ちました

相変わらず、私に出来ることはありません

諦めずに行動して来ましたが何一つとして身を結ぶ事はありませんでした


そして、勇者様が魔王を倒して帰還された日を境にこの国は終わりへと歩み始めました


なんと、父は勇者様の偉業を兄の手柄とし、あろう事か勇者様を辺境に追いやったではありませんか


兄はやってもいない事で更に酷く、醜くなりました…父も魔王を倒した勇者がいるとして諸外国に圧力をかけ始めたのです


なんと愚かなのでしょうか、兄の評判は他国もよく知る所、そんな兄を勇者に祭り上げるなど、身内の恥を晒すと同時に兄は偽勇者として知られることになる、何故他国が我が国の情報を得ていないと思うのでしょうか


この国の密偵に対する防御はあまりに杜撰…機密など取られたい放題なのに…このままでは、流通は絶望的です


私の予想が的中…いえ、誰でもわかるはずなのですが…


諸外国は帝国との国交を断絶…我が国は孤立しました


これでも大陸最大の国です、流通を止められてはすぐに食糧が足りなくなります、ただでさえ、民達は苦しい生活を送っているというのに、これ以上酷くなれば、国を捨てる者達が大勢現れるでしょう…難民として他国に流れた方が生き残れる筈ですから、私でもそうします…この国には何も期待できない…私の力の無さを悔いるばかりです


そうして半年が過ぎた頃、帝都に住まう平民の数が著しく減っています

あぁ、遂にこの国は自国民に見放されるのですね


セバスや私を慕ってくれる者達はこの国を出て他国に逃げ延びましょうと言ってくれます、しかし、この国の行末を見届けるのも皇族としての役目だと思っております、自業自得だとしてもです


逆に父や兄妹達は絶対に逃しません、命に変えて…この国と共に生涯を終えて頂きます


そんな覚悟のもと、過ごしていると私は突然攫われました


企んだのはセバス達、実行したのはなんと勇者様ではありませんか

突然現れた勇者様に思わず慌ててしまいましたがすぐに魔法で眠らされてしまった様です

次に目が覚めたのは見たことのない装飾の部屋


ここは…不思議に思っているとエルが部屋に入って来て、セバスを呼びに行きました


呼ばれて来たセバスから改めて今回の事を説明され、私の事を想ってくれている皆に感謝しつつ、承諾もなしに連れ去るという行為に怒りを覚えます


どうやらここは勇者様が父に与えられ…いえ、押し付けられた領地だそうです

正直に言って信じられませんでした、あの何もなかった荒野がここまでの都市になっていようとは…


翌朝、勇者様とこの街の重役の方でしょうか?数名と我々の会談を行いました


私としてはすぐさま帝都に帰りたかったのですが、元々は農民だという勇者様に改めて平民達がどの様に生きてきたかを語られ、痛感しました

父は、兄達は、そして私は…どれほど無責任にこの国を治めてきたのか


更に、勇者様から告げられた事実に驚愕します

なんとこの街には人間以外の種族もいて、隣に控える龍人族、他にもエルフ、ドワーフ、多くの獣人族、果ては魔族までもが

勇者様のそばに控える人物は魔族でそれも七大罪という幹部でありながら勇者様の参謀を務めていると…


帝国は人間至上主義なので、他の種族を見下す傾向にあります、主な皇族や貴族が、ですが…私は気にしませんが…それでも魔族は人類の敵という認識はありました


にも関わらずに勇者様は側に魔族を置いている、この街にも普通に暮らしているという…


私は一体どうすればいいのでしょう…皇族ですらない勇者様が我々よりも民達が幸せに暮らす街を築いている…それも他種族の……どうして、私には出来ないのでしょう…


あぁ、嫌な気持ちです…醜く、筋違いな嫉妬を勇者様に向けている自分が酷く嫌いです


な、なんでしょうか?何やら悪寒が…

嫌な事を考えた罰でしょうか?

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