第30話 会談


「昨日はよく休めましたか?」


「ええ、ここはとても良い所ですね…出来れば自分の意思で訪れて見たかったです」


おー睨んでる…会議を終えた俺はザクソン、アグニを連れ皇女様御一行に会いに来ていた


「おい、小娘…お前がどれほど偉いかは知らんがな、ここではジンが王だ、その不躾な視線は止めろ」


誰が王だ、誰が


「ぶ、無礼者!この方は…」


「敬意を払うべき相手ならば俺は然るべき対応をする…お前達が無礼だと思うなら、俺のお前達への印象はそう言う事だ」


「なっ…」


「落ち着きなさい、我々の立場を考えれば当然でしょう」


「それこそ見当違いだな、俺は立場や権力で対応を変えたりはしない、俺が敬意を払うはその人物を俺が認め、俺を認める者だ…少なくとも我等が頭と決めた者へのお前達の国の対応を考えれば妥当だと思うが?」


結局は俺の為かよ…有難い事だがな


「なぁ、昨日から彼等に対して当たり強くない?どうしたよ」


「…………はぁ、アグニよ、見ての通りだ…コイツに任せるとどうなるかは分かったろう?」


なんだよ…失礼だな


『マスターはもっと怒ってもいいと思います』


え?そうなの?


「納得しました、しかし…失礼、領主様、貴方様はそのままで宜しいかと、ザクソン殿、その辺りは我らがお支えすれば良いのでは?これがこの方の良さでしょう」


『同意します』


あれ?褒められた?


「度が過ぎると言っている、尻拭いはするが甘やかすな、言わねばコイツは一生こうだぞ」


「確かに、助言は必要ですな」


「ねぇ、さっきから俺は貶されてるの?褒められてるの?」


「「褒めてる」」『褒めてます』


ウッソだー!


「ゔうん!宜しいですか?勇者様」


「あ、はい…なんでしょうか?」


「昨夜、この街で目が覚めてセバス達に頼まれましたが私はやはり帝国に帰ろうと思います」


まぁ、そうなるよね


「理由は…民の為ですか?」


「はい、私には民達を見捨てて1人逃げたくはないのです」


この人はあの皇族達と比べていい人みたいだなけど…


「……帰って、何をするのですか?貴方に出来ることはあるのですか?帝国がここまでの事態になるまで何も出来なかったのに?」


苦虫を潰した様な顔をするミリアム、事実を突かれてより一層睨んでくる、あれ?俺ってこんな事が言いたかったのか?


「貴方には何も出来ることはない、民達も貴方方皇族には何も期待していない…俺は元は農民でした…この国は貴族には優しいですが、平民には厳し過ぎます、高い税金、横暴な貴族、その暴挙を許す帝国に俺達は何年も前から期待する事はなくなりました、愛国心なんてカケラもないでしょう…俺達は俺達で助け合って生きてきた、それでも幸せだったんですよ…少なくとも俺は、なのに…勝手に人を勇者にして、無理矢理戦わせて、逆らえば殺される、俺達はいつも命を人質に取られてるんですよ、分かりますか?その事が、その事実がアンタには理解出来てるのかよ!綺麗事を並べる前にやれる事は無かったのか!アンタら皇族がもっとマトモなら!あんなにも人は死なずに済んだんだ!父さんと母さんだって、薬さえあれば助かった!」


『マスター』「ジン」


「……あ…………あぁ…」


メティスとザクソンに呼ばれて、はっとした…思わず熱くなって自分でも気づかず溜め込んだ不満をぶつけてしまった…こんな少女に、いつの間にか睨んでいた目は涙で溢れている


「………ふぅ、申し訳ありません、言い過ぎました…ですが、偽りではありません」


「…はい……分かっております…あなた方がどれ程の人生を送ってきたか、私には分かりかねます…ですが、私には今は謝る以外に何も出来ない……申し訳ありませんでした…」


この子には責任なんてないのかも知れない、まだ成人すらしていない年齢で民を思い、心を痛める彼女に当たるのは筋違いなのだろう


「失礼、お互いに感情的になれば話し合いはできませぬぞ、一度、落ち着かれては如何か?」


いつの間にかティーセットを持って、アグニが俺達に落ち着く様に促す…え?お茶入れれるの?アグニ…所作とか完璧じゃん…騎士だよね?執事じゃないよね?


「ごめんなさい、もう、大丈夫です…ありがとうございます、龍人の騎士様、ジン様も、申し訳ありません」


「いえ、お気になさらずに…アグニもすまない…それでは、今後の方針についてお聞きしても宜しいですか?」


「はい…勇者様に言われた通り、私にはなんの力もない名ばかりの皇女です、父にも、そして他の兄妹達にも私なぞ、気にも留めない存在でしょう」


「それでも…ですか?」


「はい、例え愚かと言われても私には皇族としての責務はあると思っています」


あぁ、この人はこの国を愛しているんだ…

だから、自分にできる事がないと言われても必死にそれを探してもがいているんだ


「…………あの、ミリアム殿下」


「はい、なんでしょう」


「この街はご覧になりましたか?」


いきなり話が違う質問をされ、ミリアムは戸惑う


「え?…い、いえ」


「では、是非ともこの街を見て行ってください、その後で改めて自分からお話をさせてください」


「い、一体何を…」


「そうですね、ではまず答えだけ、この街に暮らしている人々は多種多様です、そこにいる龍人のアグニ、エルフに獣人、そして魔族」


「!?ま、魔族!?」


「それはどういう事ですか!?魔族は人類にとって長きに渡る恐怖の象徴で…」


セバスが机を叩きながら立ち上がり喚くが、今更だな


「ザクソンは魔族ですよ?」


「「「「「…………え?」」」」」


ミリアムもセバスも他の奴らも目を点にして固まってしまった


「では、改めて自己紹介をしよう…元魔王軍七大罪、強欲のザクソンだ…今はこの街の…参謀の様なものだ」


「参謀って…というかいつの間に魔王軍辞めたんだよ」


「ここで暮らし始めて暫くした後だ、ちなみにクレアもだぞ?既に所属はこの街だ、正確にはお前の配下という立ち位置のつもりだ」


「…俺何も知らないけど?」


「姫様から許可は取った」


「俺の!許可!は!?」


「いらん」


なんでやねん!!はっ!メティス!君は知っていたのか!?


『はい、存じておりました』


なんで教えてくれなかったんだよ!


『特に必要ないと判断致しました、支障はありましたか?』


ぐっ!……ありません…

でもさ?普通は言うよね?俺はホラ、一応領主だし?ね?報告って大事よ?


「ゆ、勇者様!?な、何故魔王軍の者が…それも幹部がここに…?一体どういうことか説明して下さい!」


お、1番初めにミリアムが復活したな


「…まずは街をご覧下さい、それが全てですよ」


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