第29話 ミリーだよ


「はぁ…はぁ…はぁ…っ…」


辛い……苦しい…悔しいよぉ


私はミリー、何処にでもいる普通の村娘、両親はどちらも農家、というか村自体が農村なので村人のほとんどが農家だ


私もちっちゃい頃から両親の真似をして土いじりをしてきた、野菜とかを育てて売ったり、自分達で食べたりして、それが私は楽しかったんだ


ちょうど同い年の男の子がいて、よく一緒に遊んだり、畑を手伝ったりして共に過ごしていたんだ、私はその頃からこの男の子が好きで、将来は自分やこの子の両親みたいに仲のいい夫婦になるものばかりと思っていた


けど、そうはならなかった


男の子の両親が流行病で亡くなった、おじさんが患っておばさんが看病していたんだけど、それが原因で病気が移ってそのまま…


私にもとてもよくしてくれたからすごく悲しかった…あの子と2人で沢山、沢山泣いた…それからは村の大人達でその子の面倒を見ることになったらしいけど、しっかり者だったその子…


ううん、彼は自分で両親の畑を継いで生活していきたいと言った、その為に協力して欲しいって


お母さんとお父さんが感心していたのを覚えてる、私も何か手伝いたくて毎日彼の元は通った

だけど、不運は続いた…


魔物が村を襲った、この村には戦える人なんかいない、巡回の騎士が駆け付けるのを願うも希望は薄い


私は逃げ遅れてしまい、物陰に隠れていたけど鼻が効く魔物には意味がなかった

大きな口が迫り、もうダメだと思ったその時

彼が助けてくれた…私を助けてしまったのだ


魔物を全て素手で倒した彼は、知らせを受けた騎士団の人に連れて行かれ、そのまま帰ってくる事はなかった


どうして?彼は私を助けてくれただけ、なのにどうして連れて行かれてしまったの…

子供が魔物の村を倒した事は普通ならあり得ない、私のせい?私を助けたから?わからない


両親や村長にも理由はわからないと、何も知らされていないと言っていた…


そうして、私は好きな人を失った…


それから10年経ち、彼の消息がわからないまま私は大人になってしまった…楽しかった畑仕事も楽しくない


私は大切な何かが体から抜け落ちた様に力が入らなかった、当然だ…産まれた時からずっと一緒にいた自分の半身とも言える人がいなくなったのだから


彼がいない…どうして?

この10年ずっと問い続けた…誰かに

絶望の中にいる私は日に日に暗い所へ沈んでいく様だった…彼がいないのなら私は…私もいなくなりたい…


けど…だけど!

彼は帰ってきたんだ!

ジンは!勇者になって!


10年ぶりに見たジンは逞しく成長していた

とっっっても!カッコよくなって!!


村の皆も涙ながらに再会を喜んだ、私はジンにしがみついて大泣きした


そして、ジンからこの10年の出来事を聞いた

そして、キレた、村中全員…

私の!私達のジンに酷いことをした帝国の奴らは許さん!!

帝国を見限り、ジンが領主を務める領地へと皆でお引越しした


引越ししたその先で、私はとても焦った…

だってぇ!!どうしてあんなにも美人な人がジンと暮らしているのさ!

超キレーだし、おっぱいもおっきい!足長い!角もある……角?


ジンが作った街には色々な種族の人達がいた、あの美人さんも魔族だそう、しかも魔王の娘って!お姫様じゃん!


私も含めて皆、初めは魔族に対して怖がっていたんだけど、あの美人魔族さん、シオンさんはとってもいい人だった、ザクソンさんって人も村長とかと話しているのを聞いたけどとても紳士、あまり魔族っぽくないけどね


魔族の他にも、エルフや獣人なんかもいて皆、仲良く暮らしている

この街をジンが作ったんだ…凄いなぁ


誇らしい気持ちになる反面、私の知っているジンとはあまりにも違うくて、寂しいと思ってしまった


この10年間、戦いに身を置いていたジンだから仕方ないのかも知れない

本質は変わってないと思う…それでもなんとなく私の居場所がジンの側にはあるのか不安が募っていた


それでも、諦めたくなかった私は、勉強を始めた

目指すものは…わからない、けどジンの力になりたい…

それは本当だ、どうすればいいのかがわからない

兎に角、何を始めるにしても知識はあって困らない


偶に来るジンにアピールも忘れない…意識してもらう様に…けど、この鈍感!なんでわからないのさぁ!


この様子じゃ、シオンさんの事も気付いてないみたい…なんと彼女より先に意識してもらわないと!


そんな日々を送っていると、突然ジンがいなくなった…

誰も何も聞いてなくて、特にシオンさんがとても怒っていた

あ、ついでにザクソンさんもいないらしい…

クレアさんに聞いた


数日、皆でシオンさんを抑える日々が続く、ジンもザクソンさんもいなくなって仕事が回らなくなっているらしい、その上、シオンさんが2人を探しに行くと言って聞かない…

実質、この領地のトップ2人が不在なのだ、2人に次ぐシオンさんまで居なくなると困る為、なんとか宥めた


ある日、シオンさんから連絡が来た

2人が帰ってきたと…私は領主邸に走った

そこで絶望した…


領主邸の入り口に陣取るザクソンさんとクレアさんが揉めている


彼が言うには今、中にはジンとシオンさんがいるらしい、それで察しろって………うそ…


そ、そんな…ジ、ジンが…取られちゃった……


翌朝、出てきたジンに詰め寄って、問い詰める…しなければいいのに、私のバカ…


その場から走り去って…私は家に飛び込んで自分の部屋に篭った…

家にいたお母さんが何か言っていたけど今は誰とも話したくない

ベッドに潜って…泣いた…


悔しい…悔しいよ…ジンには諦めないって言ったけど…どんなに頑張ってもあの人…シオンさんに勝てる想像が出来ない…


私よりも美人で、頭も良くて…強くて、優しくて、ジンの力になれる…そんな人にどうやって勝てばいいのよ!


「全く、情けないわね…貴方、諦めるの?」


泣いていると声がした…あぁ、どうして?今1番聞きたくない声がする…モゾモゾと布団から出て体を起こすと


「少し、お話をしましょうか」


ルーちゃんとシャミさんを伴ってあの人が立っていた


私からジンを取ったシオンさんが…

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