第24話 サッと行って、パッと帰る


「おい、何故我々はセイの研究所に忍び込んでいるのだ?帝都に向かうのでは無かったのか?」


「ここに必要な物があるからだ、いいから付いてこいって、セバスさんも正門で待ってるから急がないと」


セバスさんから皇女救出の依頼を受けたその日の夜、ある物を取りにセイの研究所にお邪魔していた


「まさか、お前がセイとコソコソ作っていた物か?詳細は頑なに教えてくれなかったが…」


「あぁ、そうだよ…あった!これだ!」


「こ、これは…馬車?いや、馬車にしては素材が…これは鉄か?いや違う…これは一体」


「これは車…魔導車だ!」


そう、この世界にはない、メティスのお陰で現代日本の知識とセイの技術の魔化学で生み出したのだ!


原動力は魔石!駆動系や構造なんかはメティスとセイに丸投げだ、俺はただ創る


「まだ未完成だけどな、魔石の取り付けと魔石から魔力を通す方法がまだだが、それは俺がなんとかすればいい」


「まて、未完成だと?そんな物を使うのか?」


「安心しろって俺が魔石の代わりに魔力を通す、その方法なら試運転もした、数時間は運転出来たから大丈夫!(ただ、魔力消費と出力が抑えられないんだが)、今回は急いでいるから良しとしよう!」


「ふ、不安しかないんだが…」


「いいから乗れって、早くしないと誰かに見つかる」


魔導車に乗り込む、そしてエンジンを掛けるために魔力を流す


「よし、行くぞ!シートベルトは着けたか?」


「あ、あぁ…これでいいのか?うぉ!?」


アクセルを踏んで発進!

ガレージのシャッターから飛び出して正門を目指す、魔力で動くからエンジン音も静かだ、深夜なら誰にもバレないだろう…しかし、問題がある


疾い!まだ軽くアクセルを踏んでいるだけなのに時速140kmは出ているぞ!パワーをつけすぎたか…それに魔力の消費が激しい…俺じゃ無かったら1km走らないだろうな


「も、もう正門だと!?疾いな」


「いた、セバスさんだ!」


正門で待機していたセバスの元に停め、


「セバスさん!乗って!」


「ジ、ジン様!?こ、これは一体…!?」


目を見開いて驚いている、それはそうだろうこの世界にはない乗り物なのだから


「とにかく、乗って下さい!」


「こ、これはどうやって開ければ…」


ドアの開け方が分からずモタモタしていたが、なんとか乗り込むセバス


「よっしゃ!目指すは帝都だ!ザクソン!忘れ物はないか?ポータル持った?」


「誰に言っている、持ってきたにきま"!!!」


アクセル全開!!すげぇ!時速250kmは出てるだろ!


「おい!もっとスピードを抑えろ!明らかに車体が変だぞ!」


「大丈夫だって!コイツの素材はほぼ魔鉱石だ!ちょっとやそっとじゃ壊れないし魔力で強化しているから岩にぶつかっても傷一つつかないよ!」


「おい!今、魔鉱石って言ったか!?この大きさの物を創る程の魔鉱石は何処から!?」


「ひぃゃぁぁぁぁぁぁぁ………」


こうして夜の道なき道を魔導車で爆走した、それでも数日は掛かったが帝都が見えてきたのだった


「ここからは歩きだな、魔導車は目立つし、セバスさん大丈夫ですか?」


「は、はい、問題ありません」


「おい、ジン…帰ったらアレのことちゃんと聞くからな…セイも問い詰めねば…」


あははは…キコエマセーン


「……しかし、どうやって入るのだ?正面からか?」


「正直それでもいいけどな、俺らなら無傷で事は終わりそうだし…早く帰らないとシオン達が爆発するしな…ちゃっと、行ってパッっと帰るか」


「そうしよう、仕事は迅速に終わらずに限る」


「あ、あの…お二人とも何を…ホワッ!?ジ、ジン様!?」


俺達の会話にアワアワしだすセバスを俺が抱える


「ここからは走る、道案内をしろ先ずはお前の仲間の元へ、全員集められるか?」


「は、はい…少し時間が有れば」


「なら、俺が時間を稼ごう…」


「誰も殺すなよ?」


「ふっ、わかっている、殺す価値もない屑どもだ」


酷い言いようだな…


「行くぞ…」


「ひぃゃぁぁぁぁぁぁああ」


走って帝都へ向かう、門を避け、外壁を飛び越える…


「ふぃゃぁぁぁぁ!!」


「ちょっと、セバスさん、五月蝿いです」


街中へと着地し城を目指した…道中最悪だ…ここまで国の首都が荒れ果てるのか…

本当に皇帝は何をしているんだ!?


「……ジン、お前は今はカルバードの領主なのだ、他の所の人間にまで気をかけている程余裕はないだろう、人が広げられる手の大きさは決まっているそれ以上を求めると零れるぞ、それがかけがえのないものだった時、お前は後悔しないか?」


「……わかってるよ」


そんな事は分かっている、俺に出来ることなんてたいした事はない…けど…こんな、こんな光景を見て…


「抑えろ…今回来たのは皇女の救出だ、目的を間違えるな…」


「……くそっ!」


目を背けて城を目指す…すまない!


「………だからこそお前は勇者なのだろうな…」


城へと辿り着いた俺達は二手に別れた、ザクソンが正面からか乗り込み暴れる、注意を引きつけている間に俺は殿下とその配下達を集めて、ザクソンと合流してポータルを使い帰還、さっさと終わらせよう


「セバスさん!」


「その通路を右です!そこから左側二つ目の部屋!」


案内に従い移動する、部屋に入るとメイドが1人いた


「キャっ!な、誰!?…セ、セバス様!?」


「エル、訳は後だ、皆を集める、君は殿下を…ジン様、殿下を頼みます、私は皆を集めて参ります!」


セバスはそう言って出て行ってしまった…このメイド、獣人か


「あ、あの!貴方様が本当の勇者様なんですか!?」


「ん?あぁ、まぁそうだけど…元だよ元、今は領主をやってる」


な、なんだ?目を輝かせて、見つめてくる


「そ、そんな事より早く殿下の元へ案内してくれないか?」


「あ…は、はい!こ、こちらです!」


彼女に連れられて、殿下の私室へ移動する


「…君は殿下に長く仕えているのか?」


「はい、私はエル、牙狼族と猛虎族のハーフで狼虎族です…獣人の中ではハーフは忌み嫌われます、それでも両親は愛し合って私を産んでくれました、けど、どちらの里からも追い出され、途方に暮れていた私達家族を拾ってくれたのがミリアム様なのです…」


「そうだったのか…」


この子もその家族も追放されたのか…姫殿下は種族に関係なく接する人物の様だな…


「ここです…姫様、エルです」


殿下の部屋に着いた、エルがノックをすると返事が返ってきた


「エル?どうぞ」


「失礼致します、姫様…カルバード領主ジン・カルバード様をお連れしました」


「え!?そ、それって…ゆ、勇者様では!?あ、あ、ちょ、ちょっと待って下さい!こ、こんな格好で…」


なんだか、随分慌てた声が聞こえる…どうしよう?あまり時間は掛けてられないのだが…


「姫様、申し訳ありません…後払いは後程謝罪します、ジン様中に」


「ファ!?エル!?何を言っているのですか!?」


「いいのか?普通にダメだと思うんだが…」


「今は時間がありません…姫様急いでください」


…これは、殿下に説明する気ないな、有無を言わさずに連れて行くつもりだ


「ちょっと!エル!どうしてしまったの?」


「ミリアム殿下!失礼します!ジン様、皆を集めて参りました」


殿下とエルが揉めているとセバスが数名を連れてやって来た


「セ、セバス!?それに皆も…一体何事ですか!?」


「殿下、説明は後程…ジン様」


俺は通信機を起動、ザクソンに連絡を入れる


「ザクソン?こっちは準備OKだ」


「了解した、歯応えがなくて退屈だった所だ、ジン、魔力を少し上げてくれ、それを感知してそちらに向かう」


指示通りに魔力を上げる…このくらい?


「ゆ、勇者様?一体何を…それに、この事態は一体…」


「……殿下、これより貴方を我が領地へとお連れいたします」


「なっ!?」


「ジン様!?」


「どういう事ですか!?…セバス!数日姿がなかったと思ったら勇者様の所に…この騒ぎは貴方の仕業ね!」


「殿下!最早この国は持ちません、貴方様までこの国の犠牲となる必要は無いのです!」


「何を言っているのですか!?私は末席とはいえ、この国の皇女なのです!私に力が無いばかりに罪の無い多くの民達が亡くなりました…その罪は私にもあるのです!」


「それは違います!貴方様は他の皇族の方々とは違います!この国の惨状をなんとかしようと行動成されたのは貴方様だけ…そんな殿下に罪などある筈がありません!」


これは平行線だな…皇族としての責任を感じている殿下、殿下を想い救い出そうとするセバス達……けどまぁ


「申し訳ありません、殿下…」


殿下に向けて手を伸ばし、魔法を発動する

すると、崩れ落ちる殿下を受け止める


「で、殿下!?……眠っておるのか?」


「あぁ、眠らせた…悪いけど時間がない、喧嘩は帰ってからにしてくれ…説得はあんた達がしてくれよ?殿下の意思が変わらなければ、ここへ帰す」


俺が言い終わると部屋の窓が開く、そこからザクソンが飛び込んできた


「全員揃っているな?では、ポータルを起動する」


「頼む、セバスさん、良いですね?」


「は、はい…」


こうして皇女救出は本人の意思を無視した誘拐になったが、俺達はカルバード領へと帰還した

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